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ゼムナ戦記  狼の戦場  作者: 八波草三郎
第二話

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さまよえる魂(4)

「君は剣を学んだことがありますね?」

 司令官サムエル・エイドリンが青い瞳の狼に尋ねる。

「独学だが」

「そうですか。そのくらいでも差が出るということですね」


 彼は納得して頷いているがデードリッテにはさっぱりだ。きょとんとしていると戦隊長のマーガレット・キーウェラまで吹きだす。


「アームドスキンってのは近接戦闘もできる。可能だからってそれで済ませていいもんじゃない」

 説明を始めてくれた。

「単なる殴り合いでも基本……、いうなればノウハウみたいなもんがあるのさ」

「ノウハウ? はぁ」

「ピンとこない様子だね。例えば……」


 どれだけ喧嘩が強くとも、本物の格闘家にはなかなか勝てないという。両者の間には技術の壁が介在していて差が埋められないというのだ。

 長年の蓄積による知識とも技術ともいえる術があり、相手の機先を制することを可能にするらしい。勝敗を分けるに十分な要素。


「近接戦闘が可能だということは、それに伴う技術も必要になってきます。それをアーフ操機士は持っているのです」

 ブレアリウスは理解していた素振りだ。

「知ってたの?」

「ああ」

「言ってくれたらよかったのに」

「やって見せればいいと思った」


 言葉少ななのも問題だと思う。もっとコミュニケーションが必要。


「このアームドスキンの特性ともいえる要素は無視できません」

 サムエルは戦隊長の翻意を得るように見る。

「確かにね」

「おそらく、いえ確実にゴート宙区のパイロットは熟知しています。格闘術だったり、彼のような剣闘術だったりが必須だというのを。訓練もしているんじゃないでしょうか?」

「してるな。何か考えないといけないね」

 豪胆な女性の眉根が寄る。

「ブレアリウスは指南役には不向きだねえ。専門家にご教授いただいたほうがいいだろう」

「そうしてくれ」


 アバターの仔狼の尻尾が後ろ脚の間に入ってしまっている。それにマーガレットは苦笑した。


「訓練法の資料を取り寄せましょう。少しの基本だけでも身につければ違うはずです」

「任せるさ」

 話は決着する。

「当面はしのげるでしょう。長期的にはもっと違う方法をとらねばならないと思いますが」

「だろうな」

「分かりますか?」

 呟きじみた狼のひと言を拾う。

「たぶん、普段からの積み重ねが違う」

「え、何の話?」

「論じてるのはゴート宙区のパイロットとの差です。ホールデン博士のお陰でアームドスキンはそれほど見劣りしない出来栄えになっているでしょう。ですがパイロットの質には未だ圧倒的な差があると言いたいのですよ」


 司令官は万が一衝突した場合のことを考えているようだ。ブレアリウスも同じレベルで推測をしている。

 サムエルのような立場であれば政治的な判断も要求されるだろうが、狼がそれについていっているのも意外だった。デードリッテは呆けてしまう。


「とりあえずは目の前の紛争解決を目標にしてくれないかい?」

 マーガレットが苦言を呈する。

「これは失礼。あなたの立場ではそちらが優先ですね」

「もちろん今後も大事さ。あんたみたいな人がそれを弁えてくれているのもね。シュトロンの登場で解決への道筋が見えてきた今なら」

「まったく頭の痛いことです。圏外調査部にはもう少し頑張っていただきたかったものですね」

 金髪の前髪を引っぱりながらこぼしている。

「圏外調査部って文明進捗度を調べてる中央管理局の部門ですよね?」

「そうです。彼らの進言でゴート人類圏とのコンタクトが決まったそうなのですが、何か裏がありそうです」


 文明進捗度からすると百年以上前には接触基準を満たしていると思えるのだそうだ。手をこまねいているのは戦乱など様々な要素が考えられるが、なにか別の要因が絡んでいるのではないかとサムエルは睨んでいるらしい。


「『遺跡』ですか」

 溜息とともに場に不似合いな単語が漏れてくる。

「なんだい、それは?」

「彼らを導いている古代超文明の遺産ですよ」

「ああ、思い出したよ。俗に『遺跡』って呼ばれてるんだってね?」

 狼と顔を見合わせるが彼も首を振る。

「もしかしたらコントロールされているのは彼らだけではなかったのかもしれませんね」

「管理局まで出し抜かれてるってのかい?」

「そのくらいのつもりでいたほうが良さそうです」


 新宙区の技術流入が始まった時、デードリッテの目にはアームドスキンの存在しか入ってこなかった。しかし管理局はもちろん、各部門の上層部はその脅威度に関して様々な観点で検討していたと見える。


(銀河の至宝ってもて囃されてるけど、わたしってやっぱり子供なんだと思う)

 政治的視点には欠けていると自覚する。


 この場ならかねてよりの疑問を口にしても恥ずかしくないような気がしてきた。


「恥ずかしい話なんですけど」

 彼女は切りだす。

「そもそもどうしてアゼルナはハルゼトへ侵略しようなどと思ったのでしょう?」

「ああ、それですか。かなり込み入った事情があるので、興味をもって深く調べないと分かりにくいでしょうね」

「込み入った事情?」

 意外と複雑な話らしい。

「それは国家アゼルナの政治体制……、違うな、風潮というのが近いでしょうか。そこから来ているのです。文明をえた頃よりアゼルナンは比較的民主的な体制をとっていました。支族会議というものです」

「そうなの?」

「そうだ」


 応えは平板だが、仔狼が頭を抱えて伏せをしている。あまり触れられたくない部分なのかもしれない。


 デードリッテは未だ知りえない彼の内面に手を伸ばす機会になると感じた。

次回 「狼の群れの性質をそのまま体現してるんだ」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 ふむ? こちらにも”遺跡”の意思が?
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