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ゼムナ戦記  狼の戦場  作者: 八波草三郎
第十三話

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錯綜する策謀(5)

 艦橋(ブリッジ)は戦闘前の活気をみなぎらせている。デードリッテも司令官席横の専用ブースでレギ・ソードの状態をモニタしていた。


「四十ですか」

 サムエルは思案顔。

「はい、間違いありません。情報部からの報告では今回の迎撃艦隊の司令官はアルディウス・アーフとなっています。なにか奇策を仕掛けてくるのかもしれません」

「前例もありますしね」


(とうとう一番上のお兄さんが出てきた)

 タデーラの報告に息が詰まる。狼の心痛はいかほどか。


「他に、各都市のシャフトに相当数の戦力が配備されています。守備固めの配置ではないかと?」

 報告は続く。

「ほう? 軍事ステーションへの配備が進められていると?」

「そのようです」

「システム、配備数を含めた概略図を表示させなさい」


 サムエルは副司令の差しだすヘルメットを被りながら表示に目を走らせている。右の口の端が不自然に上がった。


(なにか企んでるときの顔だ)

 ウィーブも彼女と同じことに気付いたはずなのに空とぼけている。


「戦列を左右に展開。右翼をロレフ君に。左翼にはメイリー編隊を。キーウェラ戦隊長には中央付近で全体を指揮してもらってください」

通信士(ナビオペ)、伝達!」

 副司令の一喝で空気を締める。

「半包囲の準備をさせますか、司令」

「敵部隊が突き進んでくるならそうなりますね」

「了解いたしました」


 タデーラは命令をそう受け取ったらしい。


「きっと、そうはなりませんけど」


 そう呟いたのがデードリッテには聞こえた。


   ◇      ◇      ◇


「油断ならん。アルディウス兄が動かしているらしい」

 ブレアリウスの与える警告をメイリーは耳にしていた。

「ディディーちゃん情報?」

「ああ、メルゲンスの情報部の報告だそうだ」

「んじゃ、確度高いね。さてさて」


 エンリコは彼女の判断を待っているようだ。狼もそれ以上の進言はしてこない。


「司令官殿も把握している情報よ。そのつもりで用兵しているはず」

 サムエルに限って雑な判断はないと信じる。

「命令通り動くわ。でも、少し前に出すわよ。見えやすい位置まで」

「了解りょーかいっと」

「ワントップでいい。後ろでよく見ててくれ」


 レギ・ソードを頂点とした三角フォーメーションで前進する。左翼戦列の中央最前列に位置取りした。


(そうじゃなくたってツートップは勘弁してくんない? 今日がこいつでの初めての実戦なんだから)


 メイリーが駆るのはレギ・ファングである。GPFカラーのオリーブドラブで塗色され、白銀の縁取りが目に眩しい。少々目立ってしまうだろう。


(悔しいけど掴みかねてんのよ)

 情けないが認めざるを得ない。

(いつもの機体同調器(シンクロン)深度にしたら、宇宙(そと)に出たとたん酔いそうになっちゃったわ。それにブルーがあれだけ身体使う訓練に没頭してた意味がやっと合点いったもの)


 意識スイッチの反応が良すぎて実際の身体みたいに動く所為だ。センサー情報までダイレクトに頭へ流れこんでくる。

 気付いてから訓練時間を追加して二人にも付き合わせたが完璧には程遠い。弱音を吐かないよう取り繕うのが精一杯だった。


「来ないわね」

 ナビスフィアはスピードダウンを示している。

「慎重に図ってるみたい、向こうもこっちも」

「神経戦になっちゃう?」

「どうかしらね」


 散発的なビームが行き交うだけ。ダメージを与えられるような距離ではない。


(あー、消耗する。余計な神経使わせるんじゃないわよ)

 心中で八つ当たり。


 アゼルナの戦列が右翼側にスライドしていく。真正面から仕掛けず、端部に噛みつくつもりなのだろうか? 少数側の作戦としては当たり障りのない策。


「前進するわ」

「そう来るよね」


 彼らのいる左翼は自動的に相手の側面を突くように動くのが普通。その通りにナビが進路を示す。しかし、速度は控え目の表示。


(警戒してるのね)

 罠の可能性を含めての用兵だろう。


 アゼルナ部隊はそのまま左回りに右翼の側面に回りこむ気のようだ。スライドを続ける。

 右翼は相手を正面に捉えるために右回転して展開するかと思いきや下がっていく。回りこませないよう間合いを取る方針に見えた。


「ずいぶん慎重な用兵をする」

 珍しくブレアリウスまでもが口を挟んだ。

「このままじゃお互いの端っこに噛みつこうとクルクル回る羽目になっちゃうからじゃない?」

「それにしても遅い」


 今度はスライドをやめた敵部隊が反転して彼ら左翼に目標を変えた。右翼の下がった空隙に入りこんで接近する構え。


「挟撃の好機だ」

「きたきた、右翼が押しだして……こない?」


 エンリコの予想に反して右翼は左へと転進し、空隙を埋めるように動く。それに合わせてアゼルナ部隊も控える。

 後進して距離を取る指示がナビスフィアに出る。連動しながら移動し、結局両軍の相対位置は最初と変わらないところに落ち着いた。


「慎重を通りすぎてじれったい! こんなに消極的でどうすんの?」

 思わず苦言を呈してしまう。

「確かにね」

「アゼルナ軍まで付き合っているのが不気味で敵わん」

「なるなる。連中らしくない大人しさだねぇ」


(司令官が違うとこうも違うわけ? いつもならとっくに痺れを切らして突っ込んでくる奴が出てきてるころなのに)

 何もかもが意外でイライラしてきた。


「挟撃の決定機を逃したのは痛かったかも」

「ああ、抜かれれば危険な状況だったがな」


(あ、本当だ)


 あの時できた空隙を抜かれた場合。右翼は反転に時間がかかり、彼ら左翼は置いていかれる。直掩が砕かれれば艦隊が危険にさらされていた。


(そこまで読んで右翼をスライドさせた? 司令官殿の読みが正しかったってこと?)


 ブレアリウスがそこまで読んだのもメイリーは意外に感じていた。

次回 「わおわお、善意なのに」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 狼の本領は、リーダーを頂点とした集団での狩りです。
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