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ゼムナ戦記  狼の戦場  作者: 八波草三郎
第二話

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さまよえる魂(1)

「はい、先生!」

「なんですか、エンリコ君?」

 デードリッテは傭兵協会ソルジャーズ・ユニオンの青年を指す。


 その日の話の流れで、星間銀河圏に多くの人種があれどほとんどが人間種(サピエンテクス)なのかを説明しなくてはならなくなった。収斂進化の意味について、概念を並べ立てても理解が得られない。

 どうして獣人種(ゾアントピテクス)が少数派なのかを説く過程で、当然アゼルナンの話になる。そこで希望者を募って空いていたブリーフィングルームへと移動し、作戦説明用の投影パネルを使ってアゼルナンの発生過程を教えることになった。

 当然教師は生物考古学者デードリッテ・ホールデン博士である。


「ブレ君は先祖返りです。先祖の形態を表しているということは、アゼルナンの先祖も狼の一種だと思っていいんですか?」

「正解です、エンリコ君。アゼルナンの原種とされる肉食四足獣も、多くの惑星で類似種が発見されている狼でした」

 資料文献は多々存在するし、立証する化石なども発見されている。

「じゃあ、他の惑星でも狼進化系の人種がいてもおかしくないんじゃないですか?」

「猫進化系が比較的多く発見されているのに対し、犬や狼などの進化系種が少ないのは事実です。そこに収斂進化の意味が隠されているのですよ」

「全然わかりませーん」

 両手をあげて余計な発言をする彼をブライトスティックで指して咎める。

「今から説明してさしあげます」


 こうなると授業のノリだ。彼女自身は講演を行うことはあっても教壇に立ったことはない。少し面白くなってきていた。

 ただし、噂を聞いて続々と人が増えてきて困る。都度、説明をくり返すわけにはいかないと思っていたら、通信士(ナビオペ)の女性が補助を申し出てくれる。彼女にこれまでの概要を纏めてもらって画面脇でスクロールさせた。


「犬や狼の仲間は雑食に寄ったものが多いですがほぼ肉食と言って構いません。なので口吻(マズル)が長いのです。アゼルナンの原種も完全肉食だとされています」

 資料にある想像図を表示させた。

「なんでマズルが長いんですか?」

「諸説ありますが、狩猟をするうえで攻撃力を増すために強靭な顎を獲得したという説。狩った獲物を食べるときに骨から肉を齧りとったり、鼻面を突っこんで内臓を食べるのに便利だという説が有力です。わたしは総合的にマズルが長い種が狩猟や摂食が上手だったために他が淘汰されたと考えています」

「おお」

 感心の声が響く。


 それもそのはず、デードリッテは最前に座っているブレアリウスの所に行き、自分の腕をマズルに添えて肉を効率よく齧りとれる様を見せたり、お腹に当てて突っこみやすいと示したりした。

 本人はいたたまれなさそうな様子を見せるも、その仮定は今後の論説に関わってくるので我慢してもらう。親しげになされるがままの狼に口笛をとばす者も出てきた。


「このようにマズルが長いのは本来肉食獣として顕性遺伝であるべき要素です」

 題材になった生徒にするようにブレアリウスの頭を撫でる。

「つまり優れている点です。なのにアゼルナンの多くは長いマズルを捨てました。なぜでしょう? 分かる人はいますか?」

「肉食獣じゃなくなったから?」

「それは正解とは言えません」

 メイリーの答えに首を振る。

「要らなくなったからだよね。生活環境の変化に対応して形を変えていったんだ」

「メグさん、大筋では正解です」

「やったぁ!」

 無邪気に喜んでいる。なんとマーガレット戦隊長までも前列近くを確保していた。


 マズルの長さは肉食獣として顕性遺伝。ある意味ではブレアリウスのような先祖返りの形態は正しいのだと強調する。どのくらいの確率で発生するのかも調べたし、それも当然だと主張する。


(でも、極端に資料が少なかった。たぶんアゼルナの文化の所為)

 仮定ではなく確信に近い。


「地質調査の資料で、惑星アゼルナでは非常にプレート活動が活発な時期に周期性があると判明しています。それはこの惑星ハルゼトも関与していると考えられます」

 意外と感じられたようでルーム内がざわつく。

「およそ五十八万年前、このハルゼトは大きく軌道を変えています。大質量の小惑星の衝突が原因と考えられます」

「ハルゼトが軌道を変えるとアゼルナに影響があるんだ」

「そうです、メイリーさん。兄弟星といえるアゼルナとハルゼトの軌道が近付きました。惑星の大きさでいえばハルゼトが多少小さい程度。公転速度は僅かだけ早かったのです。この僅かだけ(・・)が問題でした」


 公転周期の僅かなずれがアゼルナとハルゼトが接近する周期を生みだす。数千年おきに接近する二つの惑星(ほし)は互いに潮汐力を発生させ、海洋の水位を大きく変化させるだけでなくプレート活動の活発化まで誘発させているのだ。


「じゃ、ハルゼトも大きな地震とか津波が起こる?」

 肩を抱くメイリーは地震が苦手なのかもしれない。

「起こると思います。ですが計算上二百年ほど先ですが」

「その頃には色んな対策打てるね。安心した」

「ええ、人類には天災にも耐えうる英知があります。ただ、アゼルナの生物たちにはまだありませんでした。多くの種が天災にさらされ、消えていったりもしたはずです。その中にアゼルナンの原種も含まれていました」


 ここからが本題であるとデードリッテは皆に伝えた。

次回 「アゼルナンの原種は島で独自に進化した小型種でした」

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[一言] 更新有り難うございます。 イキナリの授業風景!?
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