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ゼムナ戦記  狼の戦場  作者: 八波草三郎
第十二話

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探究と生命(4)

「なになに?」

「どういうことです?」


 ユーリンとタデーラは事情が飲みこめない様子。デードリッテも理解に苦しんで混乱していた。


『それがどういう意味か解りますか?』

 学術協会のスポークスマンは語調を強める。

『学問は人類共有の財産です。星間銀河圏の誰もが自由に学問をする権利を有しています。ゴート遺跡の存在を隠蔽されれば学問の自由は阻害されるでしょう』


(何をどうしたら、そういう結論になっちゃうの?)

 意味不明である。


『遺跡に記された超文明の知識と技術は隠匿され、管理局のみがそれを利用しようとする。技術的優位性を確保して、加盟国との格差を生もうとしているのです』

 危険性が挙げられていく。

『星間管理局の、加盟国に対する支配力の強化に繋げる姿勢が懸念されます。それを我ら学術協会は糾弾しているのです』


 論調が飛躍してきた。デードリッテは気持ち悪さを感じる。


「はぁ? 管理局が銀河の支配を画策してるとか言いたいわけ?」

「かなり無茶な論法です」

 二人とも苛立ちを隠さない。


『例えば遺跡が有する知識に、高い薬効を示す薬剤があったとしましょう。これを管理局が独占するとどうなりますか? 恭順を示さねば、各国政府は国民の生命を守れなくなるという意味です』

 恐怖感をあおってくる。

『政府首脳が国民を守る義務を負っている限り管理局には逆らえなくなります。これは正常な状態と言えますか?』


(誰もそんなことしようとするわけないもん)

 彼女はむしろ論調に異常さを危惧する。


『あくまで一例です。実際にはそうならないことを望んでいます』

 スポークスマンは語調を緩める。

『しかし、いかなる学術分野においても同様の事例が起こりうることを示したまで。もしかしたら誰も知りえないうちにそんなことが起こっていたかもしれないのです。それが何より怖ろしいと思いませんか?』


「こいつ、あおるだけあおっといて!」

「極端な事例で恐怖感をあおる。怪しげな手法ですよ」

 タデーラは冷静に分析している。


『我々はどうすれば学問の自由と人類の権利が守られるかを知っています』

 胸を張って断言している。

『ゴート遺跡のような研究材料は人類の財産として共有されるべきなのです。科学者も技術者も誰もが自由に研究できて、人類に貢献できる状態であらねばなりません。決して管理局が独占していいものではないのです』


(あ、これマズい)

 肌が泡立つような感覚を得る。


『我々学術協会は星間管理局に対し、ゴート遺跡の解放を要望します』

 協会の総意として宣言が行われる。

『アゼルナ紛争終結後は速やかに協会に委譲していただきたい。我らは必ずや公平に全ての研究者が探究の対象にできる状態にすることをお約束します』


「いけない。ブルーが怒っちゃう」

 危惧が現実になりそうだ。

「シシルにもとんでもなく失礼な話」

「彼は今どこに?」

「メイリー編隊も編入部隊と一緒に訓練。通信士(ナビオペ)も研修中の娘に任せてる」


 要員も含めて、新規編入戦力との合同訓練が実施されているからユーリンは非番だったのだ。訓練監督は戦隊長のマーガレットなので、サムエルを始めとした司令部も参加していない。


「どうしよう?」

「っても、秘密にするのは無理なんじゃない?」

「そもそもメイリーさんから連絡来たのよ?」

 目を見合わせる。

「あー! 訓練終わってるー!」

「と、とりあえず相談しないと。司令にお時間いただけるか訊いてみるわ」

「狼が飛びださないよう、足留め、する?」


 三人娘は慌ただしく席を立った。


   ◇      ◇      ◇


 デードリッテの予想通り、人狼は憤慨していた。格納庫(ハンガー)の一角で剣呑な空気をかもし出す彼をエンリコとメイリーが宥めている。


「なんて言い草だ。信じられん」

『落ち着きなさいな、ブレアリウス。一方的な見解ですのよ』

 問題の焦点であるシシルに宥められる。

「腹が立たないのか? 人格を認めんと言っているぞ」

『意識の問題でしょう? あなたはわたくしを最初から人として見ていたの。でも、こちらの文化圏ではシステムの一部みたいな認識なのではなくて』

「いやいや、シシルと話したら誰もただのシステムナビの進化形だなんて思いませんって」

 優男も賛同してくれる。


 そこへメイリーも戻ってきた。彼女はデードリッテに連絡を入れると言って離れていたのだ。


「シシルのほうが正しいわ。触れたことのある人間にしかわからない」

 話の末尾は聞こえていたらしい。

「想像に過ぎないけど、新宙区の人を除いてね」

『ええ、ゴート人類圏では特別扱いしてくださいますけど、普通は人工知能の仮想人格など対人インターフェイスくらいにしか思わないでしょうし』

「断じて違う! 俺にとっては貴女以上に情の深い人はいない。それが解らないなど愚かに過ぎる」

 また怒りがこみ上げてくる。

『気持ちは嬉しいわ。でもね、わたくしたちは個々の存在を広く知らしめるつもりなど無かったの。ゴート系人類への干渉を避けるための措置だったし、星間銀河圏に対しては最低限の干渉だけで観察に徹しようとしていたわ』

「知らないなら知らせてみせる。パートナーとして比類ない力を示せばいいのか? 人類に畏怖を感じさせればいいのか?」

『いけません。それは危険な考えでしてよ?』


(どうすればシシルを認めさせることができる? できなければ胸を張ってパートナーなどとは言えん。どうすればいい?)


 ブレアリウスは無力感にさいなまれていた。

次回 「思う存分騒ぎたててくれる、と」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 ……なんだ、結局は自分が世界を支配したいのか……。
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