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ゼムナ戦記  狼の戦場  作者: 八波草三郎
第十一話

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さすらう意思(10)

「これでひとまず安心ですね」

「おそらくは」


 メルゲンスの艦隊司令室でサムエルは椅子に深く腰掛け、軍帽を卓の上に置いた。増援艦隊の配置を確認して報告しに来たタデーラもリラックスモードに入ったと分かっただろう。


「昇格おめでとうございます」

「喜ぶべきだかどうなんだか、というところです」


 増援艦隊は四十隻。それまでの八十隻と合わせて百二十隻規模の艦隊となった。星間(G)平和維(P)持軍(F)が現場運用する艦隊規模としては破格である。

 それに合わせて彼の階級も「軍団長補」から「軍団長」に上がっている。現場指揮官としては最高位に当たる階級だ。


(つまりは管理局本部もGPF司令部も本件をそれだけ重大案件としたということ)

 サムエルはそう受け取った。

(同時に僕に結果を求めているんですよ。この件を綺麗に片付けてくれとね)


 一時は除隊も覚悟したというのに、ホールデン博士の無事帰還でうやむやになってしまった。彼女の口添えを星間管理局は受け入れたのである。


「重いですね」

「司令部に期待されているのだと思いますよ?」

 期待には彼女の私情も含まれていそうだ。

「簡単ではなさそうです。それなりにダメージを与えているはずなのにアゼルナは方針を転換する気配さえ見せないでしょう?」

「そうですね。民族意識がそうさせるのでしょうか? それともゼムナの遺志を確保しているので優位性は揺るがないと考えているのでしょうか?」

「複合的に不利ではないと思っているのでしょう。それをどう揺るがすかが課題なのですが、シシルの存在を公表すれば少なからず動揺はあるのではないかと思います」


 単なる地方紛争として宙区の報道を賑わわせてきただけの案件が、ゼムナの遺志が絡むのが公になれば確実に変化する。ゴート新宙区の動向は星間銀河圏全体に影響してくるのだ。アゼルナもその矢面に立つとなれば強引な手法だけでは立ち行かなくなると彼は考えている。


「さあ、そろそろ時間です。どんな反応があるか見極めようじゃないですか」

「はい、司令。頑張って、ディディー」


 タデーラが呼びかけた通り、画面にはホールデン博士の姿がある。定刻通り、彼女が生配信を始めたのだ。


『こんにちは、皆さん。告知しました通り、これから生配信をお送りしたいと思います』

 デードリッテが穏やかに微笑み一礼する。

『一部巷を騒がせていたでしょう。どこからか、わたしが戦闘中に行方不明になって殉職説が流れたようです。ご覧のように元気です。傷一つありません』


 今日の彼女は可愛らしい服装。ノースリーブのホールドネックのトップスに、ボトムはフレアミニのスカート。白にオレンジのコントラストで好んでする服装である。

 くるりと回って見せたので怪我などないのは一目で分かる。太腿あたりが際どかったのはご愛敬。そんな恰好で、実はメルゲンスの一室から中継している。


『でも、一度惑星アゼルナから戻れなくなっていたのは事実です。自分で志願して向かったのに、色々あってそんな感じになっちゃって』

 自分の失敗を示すように舌を出す。

『無事に帰ってこられました。ご心配してくださった皆さん、本当にありがとう。ちょっとした手違いだったので誰も悪くないんです』


 GPFを批判するのを戒めるよう、指を振って駄目というジェスチャー。「お願いですよ?」と言い添える。


「フォローも行き届いてます。ありがたいですね」

「そういうの、できる娘ですから」


 タデーラが友人を自慢する。だが、ここからが本題である。


『この生配信は生存報告じゃないんです』

 少し引き締まった表情。

『わたし、皆さんに嘘をついていました。ごめんなさい』


 深く腰を折る。真摯な謝罪からの報告になった。


『報道で出ていたレギ・ファング、あの青いアームドスキンです。あれはわたしが設計したものではありません』

 眉が下がっている。本心から申し訳ないと思っていたのだろう。

『とある方から預かった設計図を基に組み上げたんです。極めて高性能で、画期的な機構が組みこまれています。今のわたしじゃ頑張っても思いつけないほどの素晴らしい設計図でした。それも、さも自分が設計したかのように振る舞っていました』


 身を縮めて俯いている。あまりに悄然としていて非難するのもはばかられるほど。


『弁解になるけど、やむにやまれぬ事情があったんです』

 理解を求めるように片手を差しだしている。

『その設計図の提供者のことを公にできませんでした。それをすると大変な事態が到来するかもしれないと判断があったんです。要請があって設計者であると名乗りましたし、わたしもそうすべきだと思ったので了承しました』


 まるで謝罪会見といった内容だが、その語り口からマイナスなイメージにはなりそうにないと彼は思った。


『明らかな盗用です。心苦しくて仕方ありませんでした』

 意を決したように顔をあげた。

『でも、状況は進んで提供者のことを公表できる……、ううん、しなきゃいけない流れになったんです』

 肩の重荷を下ろしたかのような面持ち。

『だから今日、皆さんにご紹介したい人がいます』


(さて、どんな反応が返ってくるのでしょうか? 色々な意味で)

 ここが勝負どころである。


 薄い影らしきものが徐々に色彩を帯びていく。明瞭になったときには薄桃色のローブを纏った絶世の美女がデードリッテの隣に立っている。


 サムエルはタデーラが出してくれた視聴者のコメントに目を走らせた。

次回 (さあ、ここからが重要ですよ?)

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 ……さて、学会の老害共は……?
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