表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゼムナ戦記  狼の戦場  作者: 八波草三郎
第十話

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

137/224

寒い星の二人(14)

「憐れだな。孤立無援で足掻くか」

 冷静さを取り戻したエルデニアンの口調に嘲りが混じる。

「武人の情けだ。すぐ終わらせてやる」


 周りを取り囲まれようとしている。だが、押すも退くもない。次兄のアルガスに執着していれば敵中深く引き込まれるのは明白だからだ、


「包囲しろ。距離は詰めなくていい。どうせ何もできない」


 戦場は静かになったが緊張感はいささかも薄れていない。先刻までの戦闘は見られている。圧倒的多数であれど相手に油断を期待するのは無理そうだ。


「少し目を瞑っていろ。無茶をする」

「うん……」


 デードリッテに映像酔いまでさせるわけにはいかない。様々な方向からのGですでに身体は限界が近いはず。それを超えて嘔吐しても気にかけている余裕がない。


「降伏するか、ここで散るか選ばせてやる」

「無用だ」


 左手のビームランチャーをラッチに噛ませてブレードグリップを持たせた。双剣を使うのはブレアリウスの本領ではないが、何もしないより遥かにマシ。


「ならば討つ」

「できるか、あんたに?」

 最後の挑発を放つ。

「オレが出る幕もない」

「なら震えて尾を抱いていろ」

「見苦しいぞ、愚弟」


 兄は悪足掻きと受け取ったらしい。人狼の口元に不敵な笑みが浮かんだ。


(これでいい。場づくりはできた。あとは限界まで引きだす)


 胸いっぱいに息を吸い込んで牙を噛み締める。集中力を高め、五体をレギ・ファングに馴染ませるように意識を沈めた。


 右斜め後ろのボルゲンが砲口をピクリと震わせた。スラスターにパルスジェットの連発音を纏わせて一気に距離を詰める。光を灯した筒先をこすり上げ、そのまま横薙ぎへと移行。残る胸から下を蹴って方向転換する。

 次なるビームは機体を上に跳ねさせて躱す。光芒は流れる友軍機を貫き、レギ・ファングの膝が頭部をこそげ取っていった。行きがけにスラスターの基部を斬り裂くとジェットチャンバーの誘爆に飲まれている。


(高みの見物でいられるか?)


 ブレアリウスは次々と包囲のアームドスキンを大破させ、ときに撃破まで持っていく。逆に包囲側は無闇な砲撃ができない。間合いを縮めた時点で相手するのはすぐ近くの敵機だけになっている。


「情けないぞ!」

「それがあんたの器だと言っている」

「黙れぇー!」


 遠距離狙撃は怖くない。エルデニアンのビームも多少の余裕をもって躱せる。ただ、兄の覇気は友軍機を活気づかせる。或る意味たが(・・)を外させた。

 同士討ち(フレンドリーファイア)をものともしない光芒がレギ・ファングに集中しはじめる。危険な熱狂が場を支配していた。


「刻んでやる!」

「やれるものか!」


 袈裟斬りを左で受ける。筒先を拳甲で弾き、放った突きは浅く頭部を削っただけ。右脚がビームで貫かれた。膝からパージする。

 突きぬいた右腕でアルガスを抱きこむようにして膝蹴りを鳩尾あたりに叩きこむ。背後からの砲撃で頭部が半分溶解した。レッドアラートがモニター半面を塗り潰す。


「ぐふぅ!」

「るおおぅ!」


 離れぎわに叩き落とした斬撃は肩に食い込むが、エルデニアンが滑りこませた刃で止まる。雑な照準のアルガスのランチャーが左肘を捉えて吹き飛ばした。ブレアリウスはブレードグリップから右手を放してビームランチャーを握らせる。


「くだらん手管を!」

「そうかな?」


 彼は右のランチャーに一発だけ(・・・・)残しておいた弾液(リキッド)を注ぎこんだ。放たれた青白い集束エネルギーがアルガスの頭部を全壊させる。


「なんだとー!」

「ここだー!」


 ランチャーを放り捨てて再び肩に突きたてていたブレードを握る。引き抜くと、エルデニアン機の腹部に深く突き刺した。二機はぶつかり合う。


「き……さま」

「俺の勝ちだ」


 衝撃で朦朧とした声の次兄に勝負の終わりを告げた。逆噴射をかけて即座に離れる。破壊された機関からプラズマの舌が機体を舐めとろうとしていた。


「このオレが愚弟なんぞに……」

「最期まで虚勢か」


 爆炎に飲まれる兄にブレアリウスは無情な言葉を放った。


   ◇      ◇      ◇


(強い)

 デードリッテは感動していた。

(すごい。どんどん強くなっていく)


 完全に操縦技能のほうが上回っている。高性能な機体を渡せばそれだけ狼は強くなっていく。驚きが感動へと転化していた。


(近付いてもこれないんだもん)


 レギ・ファングは右脚に左腕を失い、頭部までも半壊している。それなのに百機を超えるアゼルナ機が手出しもできない。


(怖いんだ。ブルーに飲まれちゃってる)


 漂う気迫に固まっているアームドスキンの群れ。その中央から青い機体は悠々と上昇していく。


 二人は寒い星をあとにして宇宙へと飛び立っていった。


   ◇      ◇      ◇


「座標はここで合ってるな?」

「合ってる。あれかな?」


 静止軌道に漂うもの。どうやら爆散した戦闘艦の破片らしい。偶然ベクトルが合っていたのか惑星アゼルナを周回しているようだ。


(紛争中は処理が間に合わないのは仕方ないけど)

 しかし、そう長い間放置されはしない。古いものではないはず。


 破片を避けながら分け入っていく。そこに何があるのかは二人には解らない。ただ、シシルのことだから不発ではないと信じていた。


「あ!」

「箱だな」


 箱といっても小さくはない。一辺で40mはある。明らかに破損していない箱状の物体が破片の中に隠されるように漂っていた。


「なにかな?」

「訊かないでくれ」


(予想もつかないよね。入口があれば……)

 レギ・ファングでも中に入れるサイズ。実際に回りこむとスライドハッチらしき物がある。


 二人は顔を見あわせる。頷きあうと開閉操作パネルらしきものにアームドスキンの手を伸ばした。機体認識なのか表示に解除の文字が瞬く。


 ハッチがゆっくりと開いて中身を明らかにしていった。

次は第十一話「さすらう意思」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 ……箱を巡っての争い!? は、某・ガ○ダムでしたか……。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ