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寒い星の二人(13)

 前回の五十機ほどと違って、今回の部隊は二百をゆうに超えるだろう。映像解析結果を待つまでもない。


(張られていたな。逃走経路を予測された。こっちの手口も割れている)


 そうでなければ計算が合わない。テキストを送信してから二時間くらいしか経ってないのだ。


「さっきのテキストはおそらくインターセプトされてる」

 残酷な事実を告げる。

「あれもこれも邪魔ばっかり! もう!」

「出る。後手に回ればジリ貧だ」

「厳しい?」

 ヘルメットを装着していたら訊かれた。

弾液(リキッド)がもうほとんどない。包囲を受けたら手も足も出ない」

「捕っちゃえば?」

「ミードが言っていた。制御プラグもチャージプラグも規格が違うらしい」


 情報伝達系も充填系も機能しないではビームランチャーなど鈍器でしかない。それならチャージする限り使用できる力場剣(ブレード)のほうがよほど頼りになる。


「白兵戦になる。舌を噛んでくれるな」

「ん!」


 デードリッテは律儀に口を引き結ぶ。彼女なりに生き残るのに必死なのだ。


(そうだ。まだ詰んでない。何もしないでは活路など見出せない)


 二百五十を超える解析結果を叩き出した部隊は街の上空に達すると散開する。こちらの位置まで知られていない。ただし相手方には別の手段がある。

 断続的にビームをばら撒きながら接近してくる。絨毯爆撃で引きずりだそうとしているのだ。


(食らっていられん)

 フレキシブルカメラの映像ロックオンで狙撃する。対地攻撃速度まで落としていたボルゲンは二連射で直撃を受けた。

(消耗しているのを覚らせるな)

 残り少ない弾液(リキッド)を放出するのは無駄ではない。接近を躊躇させる手管である。


 身を起こすと同時にパルススラスターを跳ね上げる。粉雪を盛大にまき散らしながらレギ・ファングを舞いあがらせた。

 突如として雪原が爆発したかのような情景に戸惑うアゼルナ機。一気に接近すると上半身をそぎ落とした。


(圧倒して追わせないようにせねばならん。次手をふさがれたらもう難しい)


 逃走に向けての損耗を目的をするのではなく、より攻撃的な戦闘を心掛ける。逃走経路のヒントを残すような真似をすれば同じことの繰り返しになるからだ。そして相手の規模は膨れていくだけ。


(攻めろ)


 急接近するボルゲンにビームの一射。力場盾(リフレクタ)をかざさせたところで機体をひるがえらせ踵を落とす。頭部を潰すと、胸部装甲にブレードを滑り込ませた。


(牙を剥け)


 引き抜きざまに背後に一閃。両断した上半分をショルダーユニットで押しやりつつ前に出る。砲口に光を生みだしている敵機に半身を入れる。刃を噛みあわせながら膝を放り込んだ。


(食らいつけ)


 誘爆の衝撃波にレギ・ファングを乗せる。上昇しながら屈曲するボルゲンの背中を狙撃。さらに誘爆が重なっていく。


「勝手をさせるかー!」

 オープン回線から声が響いてきた。

「あんたか!」

「ブレアリウス! ここで墜とす!」


 迫る新型のアルガスには赤い曲剣のエンブレム。追撃部隊を指揮していたのはエルデニアン・アーフ。次兄らしい。


「手こずらせるな! 父上を! アーフの名をどこまで貶めれば気がすむ!」

「俺の命さえないがしろにしておいて何を言う!」


 ブレードごと機体を入れてくる兄に光刃を叩きつけて逸らす。ランチャーの照準だけで牽制を挟み、距離を取らせた。上空から突き下ろしてきたボルゲンのブレードを躱しざまに一閃を走らせた。


「禍根を残せないからだ。全ては家のため!」

「くだらん言い訳だ! あんたはプレッシャーに耐えかねて抵抗できない俺を捌け口にしていた!」

「馬鹿を言うなー!」


(逆鱗か。そう、あんたは自分の未熟さを認めるのが嫌なんだよ。子供の頃も、そして今も)


 爆炎を縫って上昇してくるアルガスに合わせて自機も上昇させる。足下からの縦薙ぎを放ってくるのを紙一重で避ける。推力を緩めてレギ・ファングを泳がせながらの横一閃。それは兄のアルガスを仰け反らせるための一手。


「誰が貴様なぞ怖れるか!」

「そうだ。怖れていたのは俺じゃない。父だろう?」


 ブレアリウスの照準にエルデニアンは後退しつつ上体を屈ませる。その時にはレギ・ファングは加速して返した切っ先を走らせていた。

 目前に迫る光輝の刃を次兄は躱し切れない。左のショルダーユニットに斬線を刻む。しかし内部機構までは届いていない手応え。


「あんたは父が何を思うのか分からずに自然と加減していた。怒りを買いたくなかったんだ」

「だから何だと言う! 貴様には父上のお考えが分かっていたとでも?」

「そんなものは俺にも分からん」

 エルデニアンは「大口を叩くな!」と吠える。

「だが、一つ分かっていることがある。あんたが剣を握っている理由は内心の臆病さを隠したいからだ」

「言わせるか!」

「尻尾を巻いて震えているのさえ耐えられないから剣を握るしかなかったんだよ!」


 アルガスはブレードを出鱈目に振るいはじめる。その剣幕に配下のアームドスキンは近寄るのも控えていた。

 力任せの斬撃は捌きやすい。弾き、受け流しながら隙を探る。パルスジェットを噴かして空中でステップを刻みながら手数を使わせて消耗を強いる。


(このまま追い詰めていく)


 援護を挟もうとするアームドスキンにレーザーロックオンで牽制を仕掛ける。エルデニアンとだけ対峙すればいい場づくりに意識を割く。


「そうか。分かったぞ、ブレアリウス」

 急に兄は手を引いた。

「お前、もう弾液(リキッド)を切らしているな?」


 ほくそ笑む気配を放つ次兄に、ブレアリウスは黙って間合いを取った。

次回 「少し目を瞑っていろ。無茶をする」

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[一言] 更新有り難うございます。 賢者は自らが愚かであると知っている。 強者は自らが弱いことを知っている。
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