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ゼムナ戦記  狼の戦場  作者: 八波草三郎
第十話

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寒い星の二人(5)

 デードリッテとブレアリウスの潜伏生活にレギ・ファングは必須になる。放棄するなど考えられない。


「俺は先祖返りだから人の住んでいるところには行けん」

「どうしようもないよね」


 最近は自分を()()と言わなくなった。彼女を含めた周囲が、卑下をうるさく戒めたからだろう。


「同様に君も無理だ。この惑星(ほし)には今人間種(サピエンテクス)が一人もいないかもしれん」

「余計に目立っちゃうもんね」


 普通に潜伏するなら身軽なほうが確実性が高い。しかし食料調達も難しければ移動の足も必要。ましてや大気圏離脱して脱出するにはアームドスキンの能力に頼る以外にない。


「レギ・ファングは動いてくれる」

 狼は横目で青いアームドスキンを見る。

「戦闘が激しかったから今の反応液(パワーリキッド)の稼働時間はあと二百時間くらいだった」

「戦闘無しなら八日は持つね」

「サブパックもある。換装すれば千時間は動いてくれる」

 本体の稼働時間に不安はない。

「ただ弾液(リキッド)が心許ない」

「ビームランチャーは節約しなきゃダメか~」


 激戦で消耗したところに補給も怠ったらしい。人狼は戦闘に目星がついたと早合点したのを後悔している。


「一戦か、頑張っても二戦しか持たせられない」

「戦闘は基本的に避けなきゃだね」

 彼はひと口お茶をすすってから頷いた。

「ブレードとリフレクタは使用できる。稼働時間の限りはな」

「白兵戦しかできないと厳しいね」

「君のこともある。リスクは最低限にしたい」


 ブレアリウス一人なら白兵戦偏重でもいいのだろう。しかし、デードリッテが乗っていると激しい機動が基本の近接戦闘は身体の負担が大きい。


「ごめんね」

「構わん。離脱時から織り込み済みだ」

 逃亡を決意したときから考慮していたらしい。

「問題は整備を受けられんことだ。ノーメンテでどれくらい動くものか解らん」

「そっちは大丈夫。わたしが解るもん」

「教えてくれ」


 力仕事は狼に任せて、彼女が知識を動員すれば可能なはず。さっそく取りかかる。


「加圧をリクエストするからちょっと待ってね」

 彼に肩車されて上腕のメンテナンスハッチを開けている。

「8.2。8.5まで上げるからロータリープラグをちょっと右に回して」

「徐々にいくぞ」

「うん。もうちょい……、はい、そこ!」


 携帯コンソールを接続した少女が数値を読み、工具を持つブレアリウスに指示して調整していく。コクピットで全身チェックをすると、やはり駆動の激しい腕や大腿の数値が落ち気味だったので調整していった。


「シリンダジェルの補充はできないけど、調整だけしていけば状態はキープできるから安心して」

「便利なものだな」

「正確にいえばアームドスキンがそういうふうにできてるの。アストロウォーカーより実用性も高いかも」


 知識さえあれば長期運用維持は難しくない構造を持っている。機械的な単一筺体としては完結の域に達していると感じられるほど。


「レギ・ファングの運用の目処はついた。食料もなんとかなる」

 条件が揃えば脱出も不可能ではないと狼は計算しているようだ。

「あとはどうやって大気圏離脱するかだね?」

「無闇に動いても追跡を受ける」

「追撃されない場所と拾ってもらえるタイミングを模索しないと、かぁ」

 思索にふける。

「監視にしろ連絡にしろ電波の出力を上げれば発見されること請け合いだもんね」

「論外だな」

「時間をかけて地味に方法を探るしかなさそう」


 困難なのは星間(G)平和維(P)持軍(F)艦隊への連絡方法。

 無策に宇宙に出てもどちらに発見されるかは賭けになる。そんな無謀はできない。ランデブーを計画しないと話にならない。


 今は呼吸できる外気がある。だが、宇宙に出れば外気の取り込みはできない。稼働時間はコクピットの炭素交換フィルターの使用限界とヘルメットのフィルターの残時間との戦いになってしまう。レギ・ファングの稼働時間のほうが長いくらいだ。


「リスクはあるけど、街の近くまで行って電波を拾わないと。見つからないように侵入するテクニックには自信ないけど」

「うむ、それしかない」


 片付けをした二人は再びコクピットの住人へと戻った。


   ◇      ◇      ◇


 同伴者は初めての場所にも臆することなく耳も尾も立てて堂々と歩いている。その自信は金色の瞳にも表れているとアルディウス・アーフは読みとった。


(変に権力におもねったりせず、役に立ってくれるなら良い手駒になってくれそうなんだけどね)

 彼には期待を持つ。


 斜め後ろを歩いているのはスレイオス・スルド。その後ろに白銀の狼ベハルタム・ゲルヘンが続く。

 元より繋がりのあったアルディウスは、ハルゼトを離反してきた民族統一派の面々とディルギアシャフトのグランドアンカーで会い、二人を自宅に客人として迎えた。

 今日は彼らを支族会議堂に連れてきている。議長のテネルメア・ポージフに引きあわせるためだ。


「失礼のないように頼むよ」

 言い添えておく。

「ポージフ議長は難しい人物ではないが人心掌握術に優れている。不興を買うとアゼルナで重用するのは厳しいね。裏方で終わりたくなければ認められるほうがいい」

「それでいて近付きすぎるなとおっしゃりたいのでしょう?」

「察しがいいのは助かるね。サポートはするから地道に立場を確立する努力をしてほしいもんだ」


(頭が回りすぎるのも困る。立場を弁えていて、自分の得意分野で才能を示してくれるだけでいい)

 操作しやすい相手でいてくれと願う。変な野心は不要である。


 議長室の前まで着きタッチパネルで到着を報せるとすぐにアンロックの表示が出た。前もって告げていたお陰だろう。


(おや?)


 入室すると議長以外に彼の父親フェルドナンの姿を認め、アルディウスは少し驚いた。

次回 「認められたいですからね」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難うございます。 ……さて、じり貧に……。
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