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ゼムナ戦記  狼の戦場  作者: 八波草三郎
第九話

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陥穽の檻(12)

 ベハルタムのシュトロンの横薙ぎを弾きあげながらエルデニアンのアルガスを照準する。三連射も牽制にならず、兄の猛進は止まらない。勢いのままの突きを力場盾(リフレクタ)の縁で逸らしつつ爪先を跳ねあげた。


「甘いぞ!」

「承知している」


 攻撃に見せかけたフェイント。脚を上げる回転力を利用して後方宙返りをする。ブレアリウスの意思に反応したレギ・ファングはパルススラスターまで動員して機体を下がらせた。

 それで兄の返しの斬撃もベハルタムの狙撃も空振りに終わらせる。一時的に間合いも確保できた。


(あの白い狼も腕は確か。だが重量があるだけ隙もある。一機なら怖ろしくはない)

 サブシートのデードリッテに気配りしての機動でも対処できると感じた。

(エルデニアン機まで加わると厳しい。ベハルタムを撃破する時間はくれないだろう。切り抜けるのが精一杯か)


 アゼルナ軍は、ハルゼトの降下部隊も友軍と判断したようだ。GPF部隊は各所の戦闘が苛烈さを増していく。

 隣の少女はジーレスの高度に注目している。戦闘継続に難しさを感じて離脱タイミングを計っているのだと思われる。


(ならば俺は切り抜けることだけを考えろ)

 集中力を高める。兄との戦闘中に感じた領域まで引き上げなくてはならない。


「さっさと投降しろ」

 エルデニアンが勧告してくる。

「さすれば、あの艇が離脱する時間も稼げるぞ。我らは人質の顔触れが変わるだけで納得してやる。お前だけは生かしておけないがな!」

「そうはいかん」

「好き勝手言わないで! 捕虜の扱いも分かってないのに! やっていることは未開人と一緒だって解らないの?」

 亜麻色髪の娘は義憤を叩きつける。

「女を乗せているだと? そうか。乗せきれなかったか」

「制裁は決定的なんだから!」

「そんなものは開戦時に全て諦めている。何の覚悟もないと思ったか」

 無論、説得など通じないと思っている。彼女が民間人だからこその発想。


 アルガスとブレードを絡めあう。巻き取るつもりのタイミングが同じだったらしく、両者とも振り上げた形で同じ姿勢。そこから刃を叩きつけあい、鍔迫り合いを演じる。

 危機感に震えるヒゲ。勘だけで左手のビームランチャーを肩に担ぐ。本能のままに発射した。ようやく開いた照星(レティクル)ウインドウが飛び去るシュトロンを捉えている。


「女もろとも死にたいか?」

 決断を迫られる。

「そんな無様をさらしたくなければ武装を捨てろ。楽に死なせてやるぞ」

「渡さん。絶対にだ」

「オレを愚弟(ホルドレウス)と一緒にするな。客人扱いしてやろう」


(信用できるものか)

 ブレアリウスは知っている。

(優しさを装うのは従順な相手にだけ。見下しているのは変わらない。反抗されれば暴力に訴えるに違いない)


「理屈をこねようと、あんたは獣性に身を任せているんだ」

「お前とは違う! 獰猛なだけの先祖返りが!」


 息が熱い。集中で体温が上がっている。各種脳内物質が身体能力を限界まで引きだそうとしている。それなのに頭の芯だけが冷たく冴えていく。


(感じろ。機体が教えてくれる)


 エンリコの射撃を回避したベハルタムが踏みこもうとしている。メイリーが横合いから突進し斬り結ぶ。優男の追撃をリフレクタで防ぐしかない。

 それは彼の背後で起こっていること。視界の中では曲剣のエンブレムを付けた灰色のアームドスキンが砲口を突きだしつつ、下段に切っ先を滑らせようとしていた。


(やれ。お前がシシルのくれた力ならできるはずだ、レギ・ファング)


 ターンしながら切っ先でマガジンを軽く削る。振り向きざまに狙撃するが少し照準が甘い。胴体を狙ったつもりがベハルタム機の左脚を根元から吹きとばしたのみ。

 斜め後ろから跳ねあがってくるブレードに刃を合わせて横にそらす。向き直るとエルデニアンのランチャーが誘爆するところ。爆炎をリフレクタで受け流しながら筒先を兄に向けた。


「墜ちろー!」

「おおおぉー!」


 爆圧も使ってアルガスは回避しようとしている。それに合わせて照準をずらす。が、レギ・ファングも爆圧に押されて揺れている。ビームが捉えたのは頭部だけだった。


「よくもー!」

「これでー!」


 斬撃を放とうとするが間合いを外されている。連射しても不規則に機体を揺らしながら後退する兄のアルガスを撃破できない。


「くぅっ!」

「ブルー、ジーレス、高度3万km! 離脱して!」


 デードリッテがタイミングを告げてくる。間を置かず、ナビスフィアも上昇を指示してきた。

 追撃を受けてもジーレスとの接触は静止軌道高度を超える。残っているGPF艦隊からの支援砲撃も受けられるだろう。


「駄目だ。逃げられん」

「どうして?」

「背後を気にしながらでは速度が出ない。狙撃で損害が出る」

 混戦状態からではなおさら。

「ぎりぎりまで引き付けて離脱支援する」

「もう、ブルーったら。仲間思いなんだから」


 批判ではない。少女は苦笑いしている。


「ブレ君、逃げるよ」

「行け」

 短く告げる。

「なに馬鹿言ってんの! 離脱するわよ、ブルー! 指示出てるでしょ!」

「メイリーも行ってくれ」

「何をする気?」

 彼女の声音には怒気がある。

「オレが牽制している間に逃げろ」

「来なさい! 命令よ!」

「君は誰を乗せている? 一人ではないだろう?」


 彼女も二人の機甲隊員を乗せている。背負う命がある。


「それはあんたもよ!」

「レギ・ファングは加速が違う。単機なら離脱可能だ」

「ぐ……」

 事実で反論を封じる。


 メイリーは速やかな離脱を促してから反転した。追撃しようとする部隊に連射を送りこむ。多くは彼を狙ってくるが一部が追撃に向かっている。完全に孤立してしまった。


「すまん。蓋をされた」

「うん、今から高度を取ろうとしたら的だね。逃げられる?」

「君を死なせはせん」


 レギ・ファングは重力に引かれるように地上に向けて加速した。

次は第十話「寒い星の二人」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 星に降りる事に? ……これが敵味方の組み合わせなら[○8小隊]かな? (ビームでお湯を沸かして?)
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