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ゼムナ戦記  狼の戦場  作者: 八波草三郎
第九話

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陥穽の檻(8)

 レギ・ファングに向けて放たれたボルゲンの斬撃はずしりと重い。本命の攻撃だと覚ったブレアリウスは機体を横へ流すと同時に受けから抜きに変える。

 空中でつんのめった敵機は体勢を崩して隙だらけ。力場盾(リフレクタ)で隠れていない頭部を撃ちぬく。


 エンリコの狙撃で誘爆するのを視界の隅で感じながら次の敵機に視線を移す。勇猛に突進をかけてきたと思ったらいきなりの蹴撃。フェイントも何もない蹴りだが、大型のボルゲンが放つと迫力がある。

 恐怖感を頭の隅に押しやりつつ加速。紙一重ですり抜け、突きだされた右脚を縦に削いだ。交差した自機を瞬時に反転させて背中から胴体に一撃。脚のジェットチャンバーが誘爆するのと前後して本体も爆炎に包まれた。


「どけ! その青い奴はオレが墜とす!」

 赤い剣の紋章に彩られたアルガスが迫る。

「ブレアリウス! もう逃がさんぞ!」

「逃がしてはくれんのだろう?」

「当然だ! 今日こそここを墓場としてくれよう」


(適当にあしらいながら後退するのが正解。だが、それほど甘くはあるまい)

 度重なる恥辱に兄は逸っていると容易に推しはかれる。

(失血で朦朧としているあの時の俺を実力だと勘違いしているな。利用しない手はないか)


 ビームは甘んじて受ける。左腕のリフレクタで弾ける紫電。ワンテンポ遅く振った筒先に兄の姿はない。構わず一射して戸惑う素振りを見せた。

 横合いからの一閃。足元から跳ねあがってくる光刃に切っ先を合わせて誘導する。レギ・ファングの鼻先ぎりぎりを抜けさせた。


「堪えるので限界か? その程度だ、お前は」

「あんたを引きつけておければいい」

「小賢しいぞ。人間種(さる)の技に染まやがって」


 熱くなっているのに剣閃は鋭い。ブレアリウスが斜めに支えた力場刃の先を滑っていくが、下手に受ければ押し切られてしまっただろう。


(ちゃんと刃を立てて受けないと手首が負ける)

 衝撃緩和のシリンダの遊びがエルデニアンの刃をすり抜けさせてしまう。

(それでいて振りぬかずに絞られている。そこから返しが来るのまで警戒しておかねばならん)


 兄は剣技を叩きこまれていると感じた。我流の自分がどこまで通用するか分からないが、臆すれば確実に斬られる。振った数では負けないと言い聞かせて踏みとどまった。


(引きずられて熱くなるな。落ちついて見きわめろ)

 焦点を絞らず、視界を広く取って刻まれる斬線を読む。

(逆に飲みこんでやれ)


 感覚を研ぎ澄ませて全体を見る。徐々にエルデニアンの動きが緩慢になっていく。集中が反応速度を上げているのだ。

 視界を広げるという意識がσ(シグマ)・ルーンに伝わる。アームドスキンとの一体化を促すその装具(ギア)は、より多くの情報を彼に与えはじめた。徐々にレギ・ファングの周囲全てが感覚として掴めるようになってくる。


(兄の技を食らって超えろ)


 横薙ぎの斬撃がくる。ブレアリウスは逆にそちらに上体を倒して下を掻いくぐった。中空を蹴るように加速。斬りあげる一閃をアルガスは反って躱す。

 そこで手首を絞って内に巻きこむ。刃が返ってピッタリと正対した。そのままストンと落とす。


(絞りを使えば確かにスムースに組み立てられる)


 アルガスの胸には斜めに斬痕。ハッチの下半分が舞いながら脱落していく。もう少し深ければ勝負は終わっていた。


「おーまえー! 生意気なぁー!」

「俺だって命懸けだ!」


 兄との剣戟は更に圧力を増す。しかし彼にとって全部が糧になっていた。エルデニアンは知らず練習台としてブレアリウスを鍛えているかたち。


(これでいい。兄を捕虜にした戦闘のときは怒り任せに勢いで圧倒しただけ。レギ・ファングの性能に命を救われた)

 今思えばそう感じる。

(あんなことをしていれば踏み込みがが深くなりすぎる。あの時だってエンリコが冷静に止めてくれなければ危険だったかもしれない)

 自分が今あるのは仲間のお陰だと心に念じる。


 今とてそう。エルデニアンとの戦闘に集中できているのはメイリーやエンリコ、肩を並べて戦う友軍機が敵機を後背に回りこませないようにしてくれているから。シシルが与えてくれたアームドスキンの高機能センサーがそれを教えてくれる。


(これが本来のレギ・ファングの性能。ようやく十全に引きだせている)


 力場同士が噛みあって紫の電光が飛び散る。ブレアリウスとエルデニアンの間で無数の紫電が弾け、重ねるうちに強さが増していく。

 同じことをしているのに違いは如実。兄は激しさを増すごとに技が冴えていくのに対し、彼は冷静になるほどに多彩な攻撃が増え単調でなくなっていく。二人は性質からして異なるのだ。


「確かにあんたはすごい」

「お前がそれほど使えるとは思わなかったぞ」

 彼が讃えればエルデニアンも認める。

「「だが、負けん!」」

 しかし、互いに勝敗はゆずらない。


 光刃が降ってくる。パルススラスターの連発音が響き機体は横っ飛び。切っ先を重ねながら膝元まで落とし、そこから刃を返して滑らせた。

 左手のビームランチャーを真横に振り向け、戦列を抜けようとするボルゲンに直撃を見舞う。滑らせたブレードはエルデニアン機の頭部をかすめただけ。

 兄が狙った左肩を反らせる。抜けたビームはフォローに入ろうとしたメイリーのリフレクタの正面を捉えて一度後退させる。


「まだぁ!」

「いや、もう見えたぞ!」


 すでにラウネルズシャフトの輪郭は大気の向こうに霞んではいない。基部であるグランドアンカーも視界に収まっていた。エアロビークルが到達すれば作戦は成功。


(決着はつかなかったが戦術的には勝利だ)


 ブレアリウスはそう思いこんでいた。

次回 「司令官、砲撃準備をさせろ」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 ……次兄は勘違いしているな。 リーダーに率いられての集団での狩りこそが 狼の本領であるのに……。
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