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ゼムナ戦記  狼の戦場  作者: 八波草三郎
第一話

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青き狼(10)

 握手を交わした手は大きく堅かった。女性とはいえ荒事に長けたパイロットを纏める人物。相応の人生を重ねてきたのだろうとデードリッテは思う。


「面白いな、本当に狼だ」

 つづけてブレアリウスとも握手している。

「キーウェラ操機団長、あまり言及するのは……」

「事情は存じてますよ。ですが彼に後ろめたいところは何もないようです。ならば普通に接するのが良いと思いませんか?」

「……!」


(わたしは彼を憐れんでいたのかもしれない。それは余計に傷付ける行為かも)

 ブレアリウスの様子を窺う。


 多少気後れするふうではあるが彼は堂々と手を握っている。青い瞳が彼女を捉えると、何てことはないと言いたいようにゆっくりと細められた。


(わたし、甘えてる。寛大で優しい狼だから許してくれてるんだ)

 後悔するだけではいけない。行動で示さねば。


「私のことはメグで結構」

「ではディディーとお呼びください、メグ」

 マーガレットが後ろを示す。

「これはザリ・ゴドマン操機団長補。私の副官です。そしてあれはロレフ・リットニー操機長。うちの新鋭。感想を聞くために呼びました」

「よろしくお願い申しあげる」

「お会いできて光栄です、ホールデン博士」


 壮年の副官は重々しく、新鋭パイロットは生真面目に挨拶してくる。彼女も随伴者を紹介していった。


「で、ディディーは何でここへ?」

 口調も砕けてきた。

「それとなく察せないこともないけど」

「ブルーにσ(シグマ)・ルーンを着けさせているのでバレバレですね。彼をアームドスキンに乗せようとしています」

「どうして?」

「アームドスキンの真価を見せてくれると感じたからです」

 当然の疑問には明確な答えが必要だろう。

「なるほどねぇ。私にも見せてもらいたい」

「構いませんよ」


(自信はある。でも、ブルーがどれくらいで慣熟してくれるかは未知数)

 時期尚早かもしれない。でも退けない。彼女に認めさせれば確実にシュトロンを確保できるはず。


「博士はうちの子のが変って言ってたけど、それが普通?」

「こういうものらしいよ。可愛らしいのくっつけてるのは恥ずかしいって最初は思ったけどさ、彼のに比べるとマシかもしれないね」

 メイリーがロレフのアバターを見て言葉を交わしている。

「そっか、こんな二頭身キャラが普通か。(はず)っ!」

「言わないでよ。まだ慣れないんだから」

「いっそブレ君みたいに突き抜けてたほうがよくない?」

 エンリコも混ざって3Dアバター論になっていく。


 ブレアリウスは聞こえていないと言わんばかりに視線をあさってのほうへ。しかし頭上の仔狼は尻尾を後ろ脚に挟んでクルクルと回っている。恥じ入っているらしい。

 デードリッテが手を差し伸べると走ってきて頬擦りする。それで気を許してくれていると確認できる。


(このシステムは人の心を裸にしてしまう。でも、陰湿な確執を遠ざけてもくれる。判断に困るところ)

 そう思いつつも、狼の心情を計るのには便利な事このうえない。


「皆さんは傭兵協会ソルジャーズ・ユニオンの人を見下すようなところはないんですね?」

 気になっている点を投げかけてみる。

「それはね。手伝ってくれって頼んで、肩を並べて戦う相手だよ。変な隔たりがあると困る」

「まったくいないっていえば嘘になるかも」

 マーガレットに続けてロレフが補足。

「だいたいさ、僕たちだって星間軍のエリートからは落ちこぼれだって思われているし、現に聞こえよがしに言われてる。そんなつらさを知ってるのに協会(ユニオン)のソルジャーを見下すなんて馬鹿げてる」

「そうなんですね」


 どうやら星間(G)平和維(P)持軍(F)(G)(F)の一段下だという風潮があるらしい。


「今回は絶好のチャンスなんだ」

 ロレフは続ける。

「管理局はシュトロンの実機配備の試金石だと思ってる。こっちに先に回されてるんだ。ここで使いこなして成果を挙げてみせれば、さあどちらが優秀かって話にもなる。鼻を明かしてやりたいもんだね」

「野心があるんですね」

平和維持軍(うち)で成績をあげて星間軍に上がっていく操機士も結構いるんだよ。あまり腰かけだと思われたくはないんだけどね」


(色々と事情があるんだ)

 デードリッテには初めて触れる世界である。


「事はそんなに単純ではありませんぞ、戦隊長殿」

 屈強な副官が野太い声で告げる。

「その星間軍をもってしてもゴート宙区が連合すれば厳しいと考えられているのです。本件のアームドスキン導入に関しては最大限の努力をして迅速に進めなくてはならないと自分は愚考いたします」

「分かってるよ、ザリ。そんな感じだからよろしくね、ディディー?」

「はい、アームドスキンが星間銀河にもたらすものが重要なのは承知しているつもりです」


(色んな思惑がある。そこにわたしの思いひとつ滑りこませたくらいなら簡単に薄まるくらいに)

 彼女の意図を含める算段には狼の協力は必須。


「じゃあ、練習してみよ、ブルー」

 操縦殻(コクピットシェル)だけのようなシミュレータに彼を誘う。

「ああ。先で構わないのか、メグ?」

「見に来ただけだからね。ついでに使ってるとこを……」

「こら、戦隊長殿になんて口のきき方を!」

 ザリが聞きとがめる。

「いいって。ディディーが見こんだ男がどんなもんか見せてちょうだい」

「努力はしてみよう」


(面白がってる。ブルーは分け隔てないから)

 誰に対してもフラットな狼に興味を抱いている。売り込むにはもってこいの状況。


σ(シグマ)・ルーンにエンチャント。(スリー)(ツー)(ワン)機体同調(シンクロン)成功(コンプリート)

 システム音声がブレアリウスのσ・ルーンとの接続を告げる。


 デードリッテ自身は感じたことのない感覚を狼は覚えているはずだ。

次回 「だよね。説明が本当に難しいの」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 ……何故か浮かんだ脳内BGMが[What a feeling]でした。
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