異種間慕情(5)
気分転換ていどの運動をメイリー編隊の三人としていたデードリッテのところへ、珍しくロレフが合流する。連れ立って食事休憩にした。
「星間平和維持軍の宙区本部は経済封鎖が功を奏してないのを懸念してるらしくてね。戦隊長にうるさく現状報告を求めてきているんだってさ」
彼は彼でデードリッテに状況を聞かせに来たようだ。
「メグに?」
「弱体化の気配が見られないなら別の手法も検案されるんだろうけどね」
「なるなる。確かに継戦能力に陰りはないかも」
エンリコも分析している。
「元より鉱物資源には困らない惑星だ」
「うん、そうみたい」
深く調べるまでもなく彼女にも分かる。
地殻変動が激しいアゼルナは、地下で生成された鉱物資源が隆起や火山活動で露出してくる。各種の鉱物は露天掘りで賄えるほど豊富に存在し、過去は輸出資源となっていた。
「そっちは納得できるんだけどさ、慢性的な気候不順は否めないだろう? 食糧問題が出てくるんじゃないかと踏んでたらしい」
地上は火山活動の所為で寒冷である。
「静止軌道プラントで生産している。軌道エレベータで降ろすだけ。管理局が与えた技術だ」
「それなんだよなぁ。贅沢を憶えたんだから、輸入が途切れれば市民に不満が出そうなもんだと読んでたんじゃないか?」
「一時的なものだ。ほとんどの歴史を独立独歩で進んできたのだから、少し引き締めるだけで我慢は利く」
ブレアリウスは子供の頃に歴史資料にもしっかりと目を通していたという。彼の外の世界への憧れを代弁する悲しいものだとしても、知識としては利用価値がある。
「まさか静止軌道プラントを作戦目標にするとか言わないよね?」
メイリーが先回りする。
「それは無理さ。国同士ならともかく、管理局は絶対にできない。人権を無視した市民生活の圧迫なんかね」
「安心した」
「結果として手詰まりになる。プラントには手を出せない。同じ理由で軌道エレベータも。封じこめるなら一番の目標なのにさ」
戦闘艦艇に機材や要員を送りこむのも軌道エレベータである。破壊してしまえば宇宙戦力を封じられる。しかし、ライフラインをも担っていれば攻略対象に設定しにくい。
こちらでも管理局が提供した赤道付近以外でもローコストで安全に軌道エレベータを設置できる技術が機能している所為で手詰まりを生む。
「通り一辺倒の泥沼戦闘しか手段が無いときてる」
それはマーガレットの代弁なのだろう。
「厭戦機運を高める手法が封じられちゃあね」
「メイリー、それは普通の方法なの?」
「まあね。つぶし合いが嫌なら市民に政府を攻撃させるしかない。内部から崩壊すれば手を挙げるしかなくなるでしょ?」
ようやく理解できてきた。
「他の方法は? 例えば、支族会議の星間銀河圏離脱方針は誤ってると思わせたらいいんでしょ? 開かれた自由を象徴するような文化を送りつづけたら考えを変えないかな?」
「それで一回失敗してるからねぇ。聞く耳持たないのかもね」
「一応はそっちの手法も続けてるみたいなんだけどさ」
そう言われたらそうだと気付く。デードリッテが観ているような異種間恋愛ドラマはハイパーネットだけでなくエリアネットにも乗っている。アゼルナでも普通に観られているはずだ。
「規制かけてるのは技術情報関連だけ。エンタテインメントなんかの情緒に訴えかけるものは積極的に流しっぱなし」
「効果ないのかな?」
「どうなんだろうね。夢物語みたいに別世界のものと割り切ってるのかもしれないね」
メイリーも首をかしげる。
「他国に比べて環境は厳しいと分かっているのに戦争を続けようとする支族会議を支持する。抑圧しているのは管理局や大多数を占める人間種だと思いたい? 打開してアゼルナンだけの民族文化圏を築こうとしてる?」
「負ければ次は統制管理国落ちは確実なんだから、それなりの覚悟で挑んでいるんだろうけど」
エンリコも真意は見えないようだ。
経済破綻や重大な星間法違反を犯した国家に課される措置が統制管理国入り。星間管理局の指導下で更生を認められるまでは内政外交経済施策に全て監査が入る。仮に公平公正な視点で修正が加えられようとも、国家としては屈辱的な状態といえよう。
星間宇宙歴1305年の経済破綻による管理局の救済出動時はハルゼトを独立国として認めることで統制管理国落ちは回避した。1427年の現在、百二十年余りの時間は更生に十分だと管理局サイドは考えていただろう。
しかし、結果は禍根を増幅していたにすぎなかったようだ。アゼルナは今回の紛争で管理局の影響を排除できないと国家としての歴史を事実上終える。
「GPF派遣艦隊に対する勝利宣言と星間銀河圏脱退宣言を同時に打ちあげる気だろうか? ここまで徹底してるなら、去る者は追わずも有りなんじゃないかと思ってしまうね」
ロレフは「それがスマートなんじゃない?」と言い切ってしまう。
が、デードリッテやブレアリウスたちにしてみれば割り切れなどしない。彼は知らないが、四人は支族会議が何を握りこんでいるか知っているからである。
「ん……、まあ首脳陣にしてみればそうもいかないでしょ」
メイリーが軌道修正にかかる。
「アームドスキン技術を保有した非加盟国が、辺境とはいえザザ宙区のど真ん中にあるんじゃ周辺国は気が気じゃないわ」
「おっとそうだった。そもそもアームドスキン技術がどこから漏れたかも不明だったね。そのあたりを明らかにしない限り、ここは退けないってとこか」
「司令官殿の頭の中にはしっかりと収まってるんだと思うわよ」
メイリーの見事な対応にデードリッテは目配せを送った。
次回 (いっぺん帰ってシャワー浴びて可愛い下着にしといたほうがいいかも!)




