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ゼムナ戦記  狼の戦場  作者: 八波草三郎
第八話

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異種間慕情(4)

「お待たせしました、メイリーさん」

 追憶にふけっているうちに時間が過ぎていたらしい。

「エンリコはちょっと癖っぽい操縦をするんで調整に手間取っちゃって」

「構いやしないわ、あんたの腕に命預けてるんだから。納得するまで付き合ってちょうだい」

「もちろんですよ」

 信頼の主、整備士(メカニック)のミードは満足げに朗らかに笑う。


 彼女が使っていたシュトロン508A番機から吸いあげていたデータを基準に調整を加えていく。各部のシリンダの加圧曲線設定。常温超電導ステッピングモーターの感度に関わるパルスコントロール。それらはゼクトロンにも流用可能。あとは慣熟訓練後に機体特性に合わせた再調整をしていくことになる。


「ストローク調整とかは組み立て時にやらせといたんで問題ないはずです。設定値だけ反映させたら大丈夫……、っと終了。ざっと確認してみてください」

「コンフォーム取ったんならいいよ。宇宙(そと)で試してみる」

 整合確認を飛ばす。

「メイリーさんのは楽でいいですよ。上手に使ってくれますんで」

「どんな機体だって乗りこなすのが商売だったからよ。エンリコは欲を出してるだけ。あいつだっていざとなればあるがままに使うから」

「癖をつけない操縦ってのも商売柄なんですかね」


 規定値設定(デフォルト)でも働けるよう心掛けてはいる。それでも全く注文を付けないのは無理だ。こだわればキリがないのも事実。


「あれのほうが固まってて楽なんじゃない?」

「いやいやいや、とんでもない」

 青いアームドスキンを親指で示すとミードは盛大に手を振って否定する。

「ディディーちゃんがウルフとがっつり組んでブラッシュアップしてんですよ?」

「そのぶんベースは固まってるんでしょ?」

「余計に難しいです。手を入れるときは緊張しますって」


 バランスを崩してしまわないかと不安になるらしい。それなら手を付けなければいいものだが、ブレアリウスは彼を頼るという。


「動かし方が違うんで」

 彼は説明に困っている。

「他のみんなはまず、思ったとこにズバッといくような調整をしてもらいたがりますね。分かると思いますけど」

「そりゃあね。それ以上に何があるんだか」

「ウルフはまだ進化してるんですよ。手応えの感触から感覚的な操作までどんどんシャープになってます。場合によってはシリンダのピーク圧を弱めたりとかの調整を考えなきゃいけなかったり」


 駆動全体に影響するような部分に手を加えてほしがるので困るらしい。冷や汗をかきながらデードリッテと意見交換するという。


(ブルーらしいね。ミードの仕事を尊重するからこそ最終的には彼に依存するんだわ。厳しいんだか優しいんだか)

 思わず失笑がこぼれる。


「あたしたちとは違う、一段上の領域で動かしてんのね。そりゃあ要求も高くなる」

 呆れたように肩を竦める。それはポーズ。

「でも、同じだけ自分も厳しく絞りあげてるから許してやってくれない?」

「知ってますよ。ぼくらが珍しくのんびりした半舷休暇のときもウルフは頑張ってましたからね」

「あっちはあっちで期待に応えるのに必死なのよ」


 デードリッテもシシルも結果を求めている。それがブレアリウスの未来に良い影響があると知っているからだとしても、本人が感じるプレッシャーは想像を絶する。メイリーの乗りかかった舟は意外と大きい。


「ぼくもできるだけはしますよ」

 吹っ切れたように微笑む。

「抽象的でもいいんで、気になったところは言ってください。中身はシンディ……、ソフトウェア担当と分析して対応しますんで」

「了解。ところであなたたち、うまくいってんの?」

「あちゃ……」

 藪をつついたという面持ち。

「まあ。同業者なら意見の違いも出るでしょうけど並行セクションですからね。すり合わせるだけです」

「上手にやんなさいよ。うちの子(ブルー)と違って何ひとつ障害がないんだから将来も語れるでしょ?」

「いやー……、一応考えてはいますから」


 メイリーは肩をひとつ叩いてからパイロットシートに背を委ねる。注意を促すミードにウインクを送ってから操縦殻(コクピットシェル)内に格納させた。


σ(シグマ)・ルーンにエンチャント。機体同調(シンクロン)成功(コンプリート)

 システムナビは変わらない声音。

『パイロットデータ登録完了。ゼクトロン21番機はメイリー・ヤック操機長の生体データを起動キーに設定いたします』

「よろしくね」

『こちらこそ。全機能をもってサポートさせていただきます』


 固定の音声認識応答だとしても、会話することでなんとなく馴染む感覚がある。そういう意識の問題も彼女は大事だと思っていた。


「発進どうぞ!」

「行ってくるわ」


 発進サインが「Go」に変わる。思考スイッチでビームランチャーをラックから外して腰のラッチに噛ませると開放ボタンをタップした。足下の発艦ハッチが開放されてフットレストが倒れると機体はストンと星の海に落ちる。


「遅いよ、リーダー」

「いけるか?」


 そこには「45」のナンバリングをされたゼクトロンとレギ・ファングが待っている。意識して親指を立てる動作をさせた。


「まっかせなさい!」

「ほいほーい。じゃ、新しい彼女のご機嫌伺いといきますかねぇー」

「少しずつ踏むぞ」


 青い背中が複数のパルスジェットを瞬かせながら徐々に加速していく。フォーメーションを心掛けながら軽く踏み込んだ。ガツンとくる感じはない。絶え間なく連続して背を押されるような感触。しかし、ゼクトロンは一気に加速している。


「ひゃあ!」

 思わず声が出た。


(ずいぶんとじゃじゃ馬っぽい)


 メイリーは一段と気を引き締めた。

次回 「メイリー、それは普通の方法なの?」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 ……まぁ、大元のコンセプトが鋼鉄(?)の身体ですからねぇ……。
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