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リュシャという娘

 リュシャは不思議な子供だった。

 よく意味の分からない事や大人びた事を言っていたり、まだ幼いというのに大人の言葉を理解している節がある。

 そもそも外見から変わっていて、見るからに普通の人間ではない。


 "亜人"  "獣人"


 そう呼ばれる類の種族だろう。

 真っ白な頭髪、そこから生える特徴的な獣の耳、小さな身体から生えた真っ白な尾、そして開かれた瞳は血を思わせるような真っ赤な瞳だった。




 ■■■




「リュシャ、私の条件を飲むのであれば悪い様にはしない」


「じーじとばーばに、なにもしない?」


「あぁ、お前とずっと一緒に暮らせるとも」


 村長はリュシャと視線を合わせたまま、笑顔を崩しはしなかった。

 その背後でリュシャを止めようとしている老夫婦が他の村人に羽交い絞めにされていたとしても。

 リュシャは視界に老夫婦を収め、決意を込めた眼差しで村長を見つめ返す。


「じーじとばーばにひどいことしないで、まずはそれから」


 村長は一瞬笑顔を固まらせ、ふぅと一つ息を吐くと何かを堪える様に眼を瞑り一言「放してやれ」と村人に言い放った。

 村人から解放された老夫婦は一目散にリュシャの元へ駆け寄り、その小さな身体を抱き締める。


「すまない、私達の力が至らないばかりに」


 翁が顔を苦痛に歪ませ、リュシャへと謝罪を投げかける。


 "家から出ない"


 最も現在リュシャが把握出来ているのはその条件だけで、何故そこまで辛い顔をしたり、謝られているのかはよく分かっていない。


「でも、じーじとばーばといっしょにいて、わたしがおうちからでなければいいんでしょ?だいじょうぶだよ」


 リュシャの言葉を聞いて、リュシャを抱き締めていた老婆がその場に泣き崩れ、翁も苦痛の表情を強めただけだった。

 老夫婦の反応にどうしていいのか分からず戸惑っていたリュシャは、ニヤニヤと笑う村長や村人に嫌悪感を覚えた。


 このままでは埒が明かないと感じた村長は、老夫婦をリュシャから引き離し、あの嫌な笑顔でリュシャへと話し掛ける。


「ではリュシャ、お前はこの小屋から外に出る事も、そこの老夫婦以外の村人と関わる事も禁ずる。そうすれば、お前も、そこの愚か者達も、この村で生きていける事は保証しよう」


「そんなの監禁と同じです村長!この子はまだ遊びたい盛り、小屋に閉じ込め、会話の相手も私達だけだなんて……この子の将来はどうなるのです!!」


「やかましい、と言っただろう。この子は6番目、それ以上でもそれ以下でもないのだ」


 当事者を無視して意味の分からない会話をしないで欲しいと思いはするが、自分が我慢すれば自分を助けてくれた老夫婦は今までと変わらずにここで暮らしていける、それだけでリュシャが決断を下すには十分だった。


「わかった。わたしはリュシャ、おうちからでない、だれともあわない」


 村長がニヤリと更に口角を上げ、いい子だなと、自分の思い通りに進んだと言わんばかりの笑顔で立ち上がった。


「聞いた通りだ、この小屋には誰も近付けるな」


 村長の言葉を聞いた村人達の顔は村長とよく似た笑みを浮かべていて、リュシャは正直気味が悪かった。



 リュシャ同意を得られた村長達は「条件は必ず守らせろ」と老夫婦に言い放ち、ゾロゾロと村へと去って行った。

 そこでリュシャは緊張の糸が途切れたのだろう、その場に座り込み、瞳に溢れんばかりの涙を浮かべる。


「なんであんな条件を飲んでしまったんだい。私達の事は放っておいても生い先短い身、お前の事だけ考えていればよかったんだ…」


「私達がこの村に連れて来てしまったばっかりに、本当にごめんなさい。貴女を守っていた女性に合わせる顔がないわ」


 老夫婦のリュシャに聞かせる、というよりは独白の様なもので、唯々ひたすら懺悔を繰り返していた。



 ■■■




 幼子がリュシャとなり、大きいとも綺麗とも言い難い小屋で監禁生活を送り始める事となった日の夜、優しい老夫婦との監禁生活は思ったよりも苦痛ではなく、むしろ村長や村人と関わらなくて済むから楽だとすら思っていたリュシャ。

 そもそも彼女は()()()()()()()()()()落ち着く暇もなく現在に至ったので、家から出ず、邪魔もされず、記憶の整理をするには丁度いいとすら感じていた。


 何故私は()()()()()いて、()()()()()()()になっているのか。


 今まで過ごして来た記憶と、取り戻した記憶。

 考えるのが大変そうだな、とため息を一つ吐き出した後、今日の騒動で疲れた身体を休ませるべく固く平べったいベッドに横たわる。

 思った以上に寝心地が悪く、眠れないかもと思ったが、思った以上に身体が疲れていたらしく、早々に睡魔は訪れた。


 リュシャが寝入った頃、部屋の扉の前には老夫婦が揃ってリュシャの様子を見に来ていた。


「どうだ、あの子は寝たか?」


「ええ、よほど疲れていたのでしょう。横になって直ぐに寝入ったみたいよ」


「無理もない、今日は色々な事があり過ぎた。むしろ眠れるのならよかった…」


「あの子には可哀相な事をしてしまったわ……連れて来てはいけなかったのよ」


「もう起きてしまった事を嘆いても仕方ない。あの子のこれからを祈って、出来る事は何でもしよう」


 老夫婦は身を寄り添い、涙を流すまいと歯を食いしばる。

 それは自己満足でしかない事だと分かっていても、リュシャへ愛情の出し惜しみをしない事を誓うのだった。


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