表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
96/147

95

家に帰って、アタシがまず向かうのはお袋の部屋だ。


お袋は未だ目を覚まさない。

お袋を起こす為に組織に入り、様々な蒐集品を試したが、全て空振り。

為す術など無いと、そう諦めかけていた。


だが、四年後――アタシが二〇歳になる頃には目覚めるらしい。


確かな情報。

それまで、アタシは…………


四年後?


今、アタシは何を考えた?

どこからそんな話が出て来た?

どうも今日は色々とおかしい。

外で頭を冷やそうと思って部屋を出ようとし――チラリ、お袋を見る。


……お袋って、こんな微笑んで寝てたか?



家を出たアタシは、フラリ、商店街に足を踏み入れる。

別に自炊出来ない訳ではないがたまには外食しようと……思ったのは事実だが、何となく、自分の家なのに落ち着かなかったのだ。

お袋と二人で静か過ぎるのはいつもなのに。


商店街は、夕飯前の時間なんで活気に満ちている。


ここはあまり好きな場所ではなかった。

家族連れが多く、温かで幸せな雰囲気が漂うこの場所が苦手だった。

しかし、今は不思議と不快感が少ない。

完全に、では無いが、劣等感を然程覚えないのだ。

……これも、記憶の欠如が鍵になっているのだろうか……どうしても引っ掛かるその部分。


ブルル…… ふと、スマホが震える。


『暇ならみんなでご飯食べないっすか?』


樹がそんなメッセージを送って来た。

何だよアイツ、一丁前に気遣ってんのか?

 自然と口角が上がる。

了承の返信を送り、スマホをポケットにしまった。

アイツら、何か隠してるようだが案外ガバそうだし、この後揺さぶりでも掛ければ簡単に 


 フワリ


………………あん?

今、アタシの側を通り過ぎた、一人の少女。

振り返ると、ウチの制服を着た少女が遠ざかって行くのが見える。

知らない奴だ。

いや、そもそもアタシは他の生徒ともあまり交流が無いから、無知なだけではあるけれど……何だ。


匂いというか、空気というか。


何故か、親か姉妹かのような雰囲気を少女に見た。

何者だ?

 無自覚なのか意図的なのか、本人の内側からは蒐集品の秘めた気配を感じる。

少女の足取りは軽くない。

その背中から分かるのは、何か、モヤモヤとした悩みなりを抱えているという事。


……声、掛けるか?


 見ず知らずの奴からンな事されたら警戒されるだろうが……いや。

同じ学校なのは分かったんだ、今は泳がそう。

冷たいようだが、アタシもそこまで善人じゃない。

アタシ自身の事で、今は手一杯で、


「ねぇ、落としたよ」

「え? あ、ありが――」

「ん? どしたの」

「いえ、すごい綺麗だなって……あっ……何かすいません」

「いーよー、よく言われてるから。ふむ、落し物に気付かないほど、何か考え事してたんだね。これも何かの『縁』だ、相談、のるよ」

「そ、そんな……あの……あなたは?」

「通りすがりの王子様さ」


バッ!

 と、アタシは勢い良く振り返る。

……そこには、変わらず賑やかな商店街があるだけ。

少女の姿も既に消えていた。


何故……今、アタシは振り返ったんだろう。


とても、大事な何かが、あったのだろうか。

この、胸にポッカリ空いた穴を、埋めてくれるものだったのか。


――少し強い風が吹く。


少し捲れるスカート……露わになる太もも。

そこには、覚えの無い、花のタトゥーが浮かんでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ