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……
……
……動けない。
指一つ、瞬き一つ、呼吸一つままならない。
ショックで?
いや、これはショックでなのか?
心の何処かで解っていた事だろう?
アタシが知りたかった事、目を背けていた事は——『代価』。
虫のいい話だと思っていた。
ドリーのお陰でお袋がアタシを産めて良かったねハイ終わり……な筈が無い。
その代価を、誰も口にしていなかった。
いや、お袋も敢えて隠したのだろう。
感覚が麻痺していたが、お袋とアタシの二つの命が助かった……本来なら安い代価の筈が無い。
今の会話の内容が、恐らくその『代価』についてで。
しかし、『アタシを好きに使える』——言葉のままであるならば、破格な安値の代価。
アタシが自分の意思で決めたと思っていた『蒐集品集め』の仕事も、そう誘導されたか、ドリー細胞の潜在意識かは分からないが、 結果的にはこうして寵の思惑通りとなったわけだ。
この程度の話、今までの衝撃的な事実に比べたらそこまででもなく、別に寵の口から直接告げられても気にしなかった……筈、なのに。
——何故、今、アタシの『中身』がこうもグチャグチャなんだろう。
『特別』じゃなかったから?
『量産型の駒』扱いされたから?
『アタシの意思』なんて存在しないかもしれないから?
……分からない。
全部正解かもしれないし、違うかもしれない。
ただ、一つだけ確実なのは——それが『身の程を弁えない烏滸がましい思い』だという事。
これ以上贅沢を言うなんて、我儘でしかない。
……泣きたくなる。
少し前のアタシなら、いいように扱われていたと知ればブチ切れるくらいの元気はあったのに。
いつからアタシはこんなに弱くなったんだ?
グチグチと……まるで傷付きやすい年相応の女みたいだ。
この事実を抱えたまま、この先、二十歳まで、こんなメンタルでやっていけるのか……?
「気を落とす必要ないっすよ、石榴さんっ」




