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「で、パークに残る分身体はお前で最後っすか? どうせ本当の事は言わなそうだし、外の世界にまだウジャウジャGみたいに居るんでしょうけど」


「確かに分身体は外に居ますが……テーマパークの私はこれ最後……本当です……そして私はオリジナル……分身体であの方を見るのは……失礼ですからね……」

「どうでもいいしお前の存在が失礼っす。『レイドボス』らしく早く消えるっす(シッシ)」

「長い会話イベントデース!」

「でもしっかりと『世界観』に入りきってる樹さん凄いですねぇ。まぁもう終わりっぽいですけど……ん? あ!」


バッと振り返る龍湖。

コイツが反応する相手など一人しかおらず、


「おお……!」と邪も【そいつ】を見て、瀕死な自分の現状すら忘れるほどの感極まった声を漏らす。


誰もが注目するのをやめられない、それほどの引力。

一瞬にして場の『主役』となってしまう生まれ持っての魅力。

最早皆、直前のイザコザなどどうでも良くなっている。


「やーみんな、おつかれー。ドリー」

「ん」


クイッとドリーが指を上げると、ズボボッ! 地中から巨大な植物(ハエトリグサのようなあからさまな見た目)が顔を出して、


「ふ……今回は……ご子息である寵様を一目見られただけ……僥倖としましょう」


バクリッ! 邪を、大きな口で丸呑みした。


「……ふむ。二〇分で防衛完了か、まぁまぁだね。てなわけで、ミッションコンプリートー。良い仕事ぶりだったよ君達ィ」

「「「イェーイ!!!」」」


ハイタッチを交わす(ドリーを除く)四人。

つか、魔物達も二〇分で潰したのかよ……相手は表の世界の武力を凝縮したような奴らなのに……まぁ実力差は分かりきってたが。


……はぁ。


別にアタシが動いた意味など皆無だったが、それでも、脅威が去ったという安堵感に気が抜ける。


「お疲れザクロ。パークを守ってくれた」

「……嫌味かよ」


末期だな、今日一日ベタベタして来てウザかった筈のコイツを、二時間ぶりに見たぐらいで安心するなんて。

この感情も全部ドリー細胞ってやつの所為にしたいところだが。


「で、この三馬鹿は、何の為にこの戦いの場に来たんだ。ゲームだのなんだのって」

「さぁ」

「私が説明するっすよ!」


ヌッと現れた樹が、アタシのとこに現れるまでの一五分の出来事を振り返った。


——アタシが旅館から去った後、助太刀に向かおうとした樹。

だがその途中、再会した寵から『今の君じゃあ危険だよ』と止められる。

実力不足……それは樹が以前から、そしてこのテーマパークでより一層顕著に現れた無視出来ない部分だった。

Gを稼ぐ上で、あらゆる面で実力はあるに越した事は無い。

自身の願いを叶えるには、まず強くならなくてはスタート地点にも立てないのだ。


だからこそ、『鍛えてあげようか?』という寵の甘言は、まさに救いの手で。


それを盗み聞いていた龍湖とアニーも修行に無理矢理参加して——。


「このテーマパーク以上に時間の流れが遅い『精神と時の部屋』みたいなとこに案内されたっす。そこで約ひと月ばかり、思い出すのもおぞましい地獄の修行を……いや、アニーさんは楽しそうだったし、龍湖さんもトラウマにヒーヒー言いながら寵さんと同じ空間に居れて幸せそうでした、強制成長からの酒盛りは最高でしたけど……兎に角、やっと自信が持てる自分になれたっす!」

「そ、そうか、大変だったな」


少し楽しそうだと思ったが、あいつの性格考えたら生温い空間じゃないのは今日一日で痛感してるからな……。


「因みに、さっきあの二人が叫んでた『ゲーム』云々てのは何なんだ?」

「寵さんが今回の襲撃を二人にはそう誤魔化したんすよ。『定期的に行われるサプライズ』だって。『撃退数が多ければそれだけGが貰える』と付け加えて」

「ああ、だからアニーのやつ、『抜け駆け』云々言ってたのか」

「でも、本当にGはくれるみたいっすよ、ほら」


樹の腕時計型デバイスには現在の所持Gが表示されていて、ついさっき五千ばかり追加された履歴があった。

結構な額だ、それこそ一般人ならここで最終日まで豪遊出来るレベル。

樹の場合邪一人討伐でこれなのだから、アニーや龍湖にはもっと入金されてるだろう。

それほどの数の人の形をした敵を、葬り去った対価。


今回の敵——アタシや樹は奴を人間だなんて思えないし覚悟も決めているので容赦無く刃を振るえるが、龍湖やアニーは真実を知った時平気なのか?


龍湖の場合……G稼ぎの目的はべらぼうに高い『寵とのデート権』らしく、寵に魅入られた龍湖はその為なら何でもやってしまいそうな覚悟は感じるが……アニーにも、それに準ずる程の欲しいものがあるのだろうか?

全ては余計なお世話でしかないが。


「これだけ貰えたら、私の目的にグッと近づけるっす! ……怖いのは、寵さんに修行を見て貰えた事っす。価値を値段にしたら天文学的な数字になるんでしょうが……目的を果たすのを待って貰えるなら、後は煮ようが焼かれようが受け入れるっす!」

「それだけで済めば良いがなぁ……」


脅しでなく、アイツの時間はこの世界でも相当な価値だろう。

なんせ、母や弟ですら寵の順番待ちに並んでいるほど。

どんなリターンを求めて来るのか、想像するのも恐ろしいが…………ん?

……そういや、いつの間にかドリーの奴がいない? どこに……って、寵の側で何かやってた。


「あ、ここにも落ちてた」

「ん」


アレは……邪が遺した蒐集品を回収してるのか。

あの時に引き続き、危険物の回収は従業員として当然の仕事だが……邪が言ってた【献上品】という言葉が引っ掛かって。

まさか……しかし寵のやつ、はなから『そういう目的』で……?


「あっ、魔物の皆さんがゾロゾロとこっちにやって来ましたよ寵さんっ」


龍湖の呼び掛けに、寵は「ん、そうだった」と作業をやめ、ドリーから何か入った布袋を受け取り、魔物達に寄って行って、


「みんなもおつかれー。はいキビダンゴだよー」


と一人一人にささやかな報酬を直接与えていた。

桃太郎かよ……けど魔物達もめっちゃ喜んでるし……アレ食えば強くなれる効果あんのか?

ただの団子でも、王子が配れば嬉しいのかもしれんが。

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