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——アタシは足裏に力を込めて、
ガガガガガッッッッッ!!!!!
…………は?
突然の発砲音と共に、何体かの邪が吹っ飛んだ。
「フッ——抜け駆けは許さないデスヨ、ザクロ!」
パペットの口から出る煙をフッとしながらドヤ顔で現れた金髪浴衣スレンダー美少女。
「お前、アニーか? 何でここに……てか、今の、その手にあるパペットが……?」
「すっとぼけてもムダデース!」
アニーは両手のパペットの口を開け、邪に向けると——ガガガッ! 青白い弾を放ち、敵をミンチにする。
この感じ……あの弾丸は『魔力』か? 日本や中国じゃ『気』って呼ぶ力がそれに近いが。
「おやおや、お仲間ですか? お初にお目にかかる元気なお嬢さんですね」
堪らず邪は一箇所に固まるのを避け、散らばり、ドーナツ型のようにアタシ達を囲んだ。
「ちっ……おいアニー、そのパペットマシンガンについては後で訊くとして、危険だから離れろ。あの敵の壁吹っ飛ばして道作ってやるから」
「その手にはノらないデース! 『優勝』するのはアニーデスヨ!」
「何の話だよ……」
話してる内に、ジリジリと間隔を狭めていく邪。
アタシ一人なら問題無いが、アニーを守りながら戦えるか? それとも、背中をアニーに任せていいのか?
「かなりスリルのある『アトラクション』デース! ザクロが動かないならアニーが全ていただくデスヨ……!」
アニーは再び邪にパペットを向け——プスンッ。
「ohー……『チャージ不足』デース」
「何がしたいんだよお前はっ」
その隙を見逃す邪ではなく、一斉に手にある蒐集品をこちらに向けて——
「水陣! 凶雨!」
…………あ?
突然、ザーッと、水? 『赤い雨』? 反射的に空を見上げる。
フヨフヨと赤い雲がアタシらを中心にドーナツ型に出来ていて、邪どもだけを雨で濡らす。
動かない方がいい。
ただの直感だが……いや、誰が見てもそう思うだろうが、触れたらヤベー雨だ。
案の定、邪どもがギャーギャー断末魔を上げ始め……ジュクジュクと煙を上げながら溶け出し……数秒後、その場にはローブだけが残っていた。
敵は全滅。
世にも恐ろしい、肉だけを溶かす毒の酸性雨、ってとこか? つかこの雨の特性、誰かがしてた話にも出て来たような……。
「ふふ。この『ゲーム』、龍湖の一人勝ちですねっ」
ブルンとドヤ顔で現れた浴衣姿の豊満龍巫女を見て、アタシは思い出した。
今の雨、龍湖の村の元支配者である龍が使ったって技じゃねぇか。
龍湖も使えたのか? 雨女だった龍湖は、だから当時の記憶で雨が苦手じゃなかったのか?
「ズルいデスタツコ! 『範囲攻撃』は反則デース!」
「ダメなんてルールは無かったですよアニーさんっ。というかパペットマシンガンも範囲攻撃ですっ。龍湖はまた寵さんと二人きりデートする為にGを貯めるんですっ」
寵……今の会話の流れで、コイツらの行動原理に大凡の察しがついた。
「おいお前ら、よく分かんねぇが言い争いは後にしろ。この辺は危険だから離れ——」
危険だと、自分で言っておきながら、アタシは油断していた。
邪 竜……アイツは、ゾンビのようにシブとく、夜の闇のように息を潜めるのが得意で、底なし沼のようにしつこい奴だった。
——アタシらの足元の陰が波のように揺らめく。
照明の点滅? 鳥が横切った? テーマパーク特有の現象?
違う。
足元からの蒐集品の香り。
ヤベッ、とアタシが認識すると同時に、奴は飛び出てきて……!
「雷刃——童子切!」
カッッッ!
……目の前で雷が落ちた、そう思えるほどの眩しい一閃が、影を両断する。
「フッ、どうやらベストタイミングで来られたみたいっすね。まるで主人公っす」
ドヤ顔を晒して現れたのは、浴衣姿の標準体型ポニテ(それなり美)少女。
まさか、こいつに助けられるとはな。
そこそこ一緒に仕事して来たが、ここまで動ける奴だったか? ここまで自信を帯びた顔の出来る堂々とした奴だったか?
「これが……『鬼神を封じた』という刀、童子切……本来の力……素晴らしいです樹さん」
ボソリ、上半身と下半身が切断されてるってのに、当たり前のように会話を始めようとする邪。
「相変わらずしぶとい奴っす。でも、斬っても斬っても分裂出来る筈のお前のプラナリア、上手く機能してないっすよね? この童子切本来のデタラメな斬れ味と雷撃で、切断面をズタズタにし細胞の電気信号を狂わせてやったからっす」
今までのコイツは、童子切の力をそこまで引き出せなかったのに、何があった?




