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「あっ、おかえりなさい石榴さん。もういいんすか?」


「ああ」


部屋の時計を確認する。

どうやら、あちらに居た分だけの時間、そのまま進んでいるようだ。


「おら! おら! ここがええのんか!」「あんっ、最高ですぅ……!」「テクニシャーン……」


「……アレは?」

「見ての通り、寵さんが龍湖さんとアニーさんの背中に乗ってマッサージしてるとこっす。女子部屋に男子が入るのは禁止らしいっすが、今更っすね」

「まぁ、丁度いいか」


アタシは三馬鹿に近付いて、


「おい寵。ちょっと顔貸してくれ」

「んにゃ!? ザクロさん! また寵さんをどこかへ連れてくつもりですねっ」「強欲デース」

「こいつがアタシの行くとこにいただけだよ……五分程度で終わる話しだ」

「おっけー」


寵は女二人から降り、自身の乱れた浴衣を整えた。


「龍湖も同行します!」「面白いソーだからアニーもッ」

「大事な話っぽいからダメよ二人共。そのままおっぱいまろび出したまま廊下に出そうだし」


しゃがんで二人の乱れまくった浴衣を整えた寵は振り返り、

「先に廊下出てて」と促した。



「……そういやドリーは?」

「仕事に行ったか『君に怒られると思って逃げたか』のどっちかだよ」


部屋から出て少し先のとこにある自販機で落ち合うアタシと寵。

幸いなのか人払いをしたのか、他の女子生徒は皆部屋で騒いでるようで、廊下にはアタシら以外皆無。


「なんだよ、怒られるって」

「さぁね。少なくとも今の君の『スッキリした顔』見ればそんな事無いって分かるのにね」

「……そうなのか?」

「『君を見て来た人』なら分かるんじゃないかな、樹ちゃんとかもね。ま、その様子じゃあ、プリンスキッスは君に満足いく結果をもたらせたのかな?」

「ああ……話はそれについてだ」


アタシは一呼吸起き、


「お袋を眠らせたのは『お前ら』で良いんだよな?」

「そうだね」


寵は悪びれもせず、腕組みしながら頷いた。



――お袋は、このテーマパークに来た事がある。


妊娠中、子は産めぬと言われたお袋は、それでもどうしても、お腹の子を誕生させてあげたかった。

現代医学ではどうしようもない我儘。

そんな折……幸か不幸か、お袋はテーマパークの存在を知る。

いや、縁がなければ名を知る事すらない場所……それすら運命だった。

神や仏に祈ってどうにもならぬなら、この際悪魔でもいいと、お袋はチケットを応募し、当たり前のように当選。

テーマパークに来た後は、『自身を無事に出産出来るまで丈夫にする薬』を目的に、G集めに勤しんだ。

……が、それは楽な道のりではなく。

まるでチケット当選に全ての運を使ったのではと思うほどに、稼ぎは難航。

蓄えはすぐに底を尽く。


それを――見計らったように、小さな悪魔は囁いた。


『きみがどうなってもいいなら、たすけてもいいよ』と。


元より、お袋はその覚悟で来た。

申し出を断る理由など、無かった。


「なんやはボフのイメージ酷くはい? (モゴモゴ)」


いつの間にやら自販機(無料)から飲み物を取り出しストローで啜っていた寵は不満顔。


「間違っちゃねェーだろ」

「(ちゅぽん)ふぅ。でも、僕は嘘は吐かなかったろ? ちゃんと、君は産まれてこられたんだから」

「結果、お袋は十数年眠ったままになったがな」


お袋が飲んだモノ……それは『身体を一時的に丈夫にする木の実』。


常人以上の健康体となったお袋は無事に『目的』を果たした。

が――木の実の効果には続きがあって。

『作り変える』のだ。

病に侵され弱った身体を、健康体に。

それはほぼ、ゼロから作り変えるのと同義で。

お袋の場合、終わるまで『二〇年』掛かるという。


「つまり、『あと四年』だね。正直、他の優秀なアイテムや僕の魔法にかかれば『数秒で終わる』話なんだけど、これでも破格の対応だぜ?」

「……解ってるよ」

「マッマからその話聞けたんだから、後で【ドリー】にもお礼言っときなよ」

「……分かってるって」


ドリー。

あの木の妖精がアタシと会って間もない頃にアタシを『娘』だと言った件……アレはあながち『間違いでも無かった』。


お袋が口にした木の実、【王子の心臓プリンスハート】はそもそも『ドリー由来の物』だったのだ。


「ドリーは身内、取り分け『家族』には激甘だからね。プリンスハートのお陰で産まれてこれた君の身体には世界樹の力が宿っているから、ある意味ドリーと同族になった。そりゃあ、常人離れしてるってもんだ」


なら、アタシに吸収されたあのステータス底上げ花……アタシにしか効果が無いとか言ってた意味は、『世界樹の力』が関係してたからか。


「……じゃあお袋を起こした、名前の似てるプリンスキッスも」

「ん、それもドリーがいつでも出せる『気付薬』だね。でも、気分屋なあの子は僕らが頼んでも滅多に出さないから希少品だ。君なら別だろうけど」


思えば、アタシがプリンスキッスの名を出した時にドリーが反応していた気がする。


「因みに、プリハーの方が上位互換だから、もっと希少だよ。どれくらいかっていうと、クルミっぽい見た目と美味しさから、たまに幼稚園のオヤツに出されるくらい希少だ」

「……そーいや今日のオヤツ、クルミっぽかったな……ガキどもにめっちゃ手軽に食わせてんじゃねぇか」

「上位互換だから、『プリハーで寝てる子にプリキは余り効果が無い』よ」


……なるほど、そういう事、か。


「その反応だと、やっぱり君のママン『また寝ちゃった』?」


アタシは頷く。

お袋の奴、最後に、


『ってなわけでー、もうママの為に無茶しないでいいからねー。きちんと高校生らしく恋だの青春だのしてねー。じゃまたー』


なんて、言いたい事だけを言って、お袋は再びゴロンと寝入った。

無茶って……アタシは一言も『組織』だの『蒐集品』だの口にしてないのに……まぁ、プリンスキッスを持ってた事や寵を知ってる事を考慮したら、普通の女子高生だとは思えないだろうが……

それでも、お袋には色々と筒抜けのような感覚を覚えた。


「けど、やっぱりスッキリした事には変わらないんだね。良かったじゃない、目的が叶って」

「スッキリ、ね」


確かに、大元の悩みは解消したに等しい。

が、モヤモヤと燻るものがあるのも事実。


一つ……アタシの危機を何度も救った超特級蒐集品の【リモコン】。

これはお袋に確認した結果、寵がお袋に渡したものだ。

すぐに眠る事になるお袋に何故? もしや、産まれて来るアタシの為にか?


二つ……寵がアタシに黙っていた理由は何だ?

ドリーは、何となくアタシに話そうとしていた場面がチラホラあった気がするが、口籠ったり、それとなく寵が止めていたり。

隠す理由など、それほどあったか?


……他にも、こういうモヤモヤする部分がポツポツあって……正直、触れないでもいい部分かもしれないが……

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