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煙が晴れ、ボス部屋の中身がハッキリする。
最奥の王座にはローブを羽織った男が座っていて、その手前には如何にも四天王な四人の側近。
……向けられる敵意がピリピリと肌に伝わる。
確実にアタシより強い連中だ。
「アレがこの世界の魔王か?」
「そだねー。さ、行こっ。ほら瓏ちゃん、君の修行なんだから君が先頭っ」
「ん! ざくろ! まもるから!」
「守るって……これアタシ要るか?」
「だから要るって。今回の瓏ちゃんの修行テーマは『足手纏いがいる状況での戦闘』だから。ザクロちゃんを守りながら戦って貰う。君は何もしなくていいよ」
「お姫様」
「ハッキリ言いやがって……あとドリーも気持ち悪ィ事いうな」
足手纏いは事実だから反論出来ないが。
しかし……本当に大丈夫なのか? この三歳児に命預けて。
「■■■! ■■■!!」
側近の一人、魔法使いっぽい三角帽子の女が、こちらに何かを叫びつつ大きな杖を向ける。
状況からして『これ以上近付くな!』的な警告か。
だが、瓏は止まらず、
「しずかにして」
呟いた直後、部屋が『沈んだ』。
正確には、そう思わせるほどの重圧が部屋全体を覆って、ギギギッと、建物が軋む音が辺りから聞こえてくる。
見えない空気に押し潰される感覚はあちら側の方が強いらしく、四天王達は身動きが取れない様子。
「こら瓏ちゃん、いきなり竜の暴圧はルール違反だよ。動けない相手を叩くのは卑怯だからね。解きなさい」
「えー。むぅ、わかったー」
フッと、すぐに空気が軽くなった感覚。
今のは一体……?
「竜の暴圧。瓏はただ相手を軽く睨んだだけ。でも竜の威嚇はそれだけで全てを威圧出来て。瓏ですら本気を出せばアイツら程度圧死させられる」
「……お前らはケロッとしてたな」
自分より下の相手限定の技だろうが……三歳児で既にこれか。
「■■■!!」
当然だが、今のを攻撃と受け取った側近の魔法使いはすぐに戦闘態勢に入り。
杖の先を赤く輝かせ—— カッ!! と『巨大な火球』が放たれた。
アタシら全部を飲み込むほどの容赦無い大きさと勢い。
後ろの寵とドリーに動く気配無し。
つかやべっ、他人事みてぇに傍観しすぎてこのままじゃ——
「ヤァ!!」
……。
アタシらに激突する直前だった火球がブワッと『掻き消された』。
瓏の『気合いの声』だけで。
魔法使いは信じられないモノを見たような顔。
何事も無かったように瓏は再び歩み出し、最奥の王へ向かう。
「■■■……」
次に立ち塞がろうとするのは、武士めいた出で立ちの落ち着いた男。
腰に抱えた鞘から刀っぽい細身の剣を抜き放ち、真っ直ぐ上段に構える。
見据える表情は真剣。
先程の瓏の対応を見てこちらを【敵】と認識したのだろう。
「■■■……■■■……!」
まだ距離があるのに刀を振るった。
速すぎて太刀筋が見えない。
ヒュヒュヒュ 空気を割く音がして ザザザッッッ!!!
……アタシらの足下に、三つの『剣閃』。
瓏がアタシの服を掴んで『引き寄せなきゃ』、今頃アタシだけバラバラだった。
「んふー! にー! あれかっこいー! ぼくもけんふりまわしたい!」
「男の子は剣大好きだなー。気持ちは分かるけど今度ねー。使い方覚えても滅多に使う機会が無いし、そも僕らには『自慢の爪』があるでしょ」
「ん! おかえし!」
剣士の真似をするように、瓏は腕を上げ、手をパーに。
まるで挙手……緊張感の無さに呆れたが……ゾワリ。
その可愛らしく小さく無害そうな手から『身の毛もよだつ何か』を感じて——
あちらが気付く頃にはもう遅い。
「えい!」
瓏が軽く手を振るうと、一瞬暴風のような轟音の後——直線上に『五つの爪痕』。
傷跡は深く、壁を突き抜け、外の風景が覗けるほどで。
そして四天王は……避ける間も無く——全員の見せ場を見せる前に——切り裂かれた。




