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――デカイ檻だ。


中身はここからじゃ確認出来ない。

光を歪ませる特殊な加工でもしてるのか、それとも魔法ってやつの仕業か。

あと、長蛇の客の列。

『好奇心』や『評判』で観に来た連中、ではないだろう。

まるで引力のような何かが人を惹きつけている。

普通に数時間待ちらしいが、それでもリピーターは多いらしい。

一方、檻の中は、人のざわめきに対して静かなものだ。

が……『解る』。

中にはこの檻に大人しく収まってるのが不思議なくらいの【大物】が居るって事は。


「それでも。願わくば。『それ』が馬鹿王子の『望む事の為に』と皆は願ってる」

「……あ?」

「グラヴィもプラン様も。馬鹿王子を止めないのならドリー達も何もしない。それに。無慈悲に――パーク全てを犠牲にしてまで目的を果たす気概があるなら。皆が望む魔王に相応しい」



「おっ、来たねー」


言葉通り、寵はアタシを待っていた。

『檻の中』で。


「あっ、どりーだー」


と。

一人の子供がトテトテ駆け寄って来て、ドリーに抱き着く。


「こんにちは瓏」

「えへー(すりすり)」


ぅわ……何だこの生き物は。

アタシは、さっきの幼稚園で色んな種族の色んな見た目の奴らを見てきた。

一人(って単位でいいのか?)一人、良い意味で人間離れした魅力的な奴らで。

いや、『人間なんか』と比べられない程に愛嬌溢れる奴らで。

ガキ嫌いなアタシでも、今じゃたまにならここのガキの面倒を見てやってもいいとまで思えた。

そういう意味で、もうどんなガキが来ても対応出来ると高を括っていたが……

目の前に来たのは三歳くらいの子供で、種族で言えば普通の人間の見た目だ。

が、すぐに人外だと理解する。


『愛らしすぎる』のだ。


他に語彙が出ないレベルで、人を外れた強烈な愛らしさ。

小さな子が(人も獣も)可愛らしいのは、強い大人に庇護欲を覚えさせて守らせる為、と耳にした事があるが……これは度を超えている。

銀髪で、小顔で、甘い香りがして……この魔性を帯びた特徴、誰かと瓜二つのような――。


「こらっ、犯罪起こしそうなヤラシイ目でうちの弟を見ないのっ」

「弟……?」


見れば、確かに寵をそのまま小さくしたようなガキだ。

明らかに美幼女だが、寵の弟と言われたら納得もいく。


「いいかい。このテーマパークで【一番の宝】である瓏ちゃんを拐おうとしてみな。普段は温厚な大人達が一瞬でヤンチャな時代の顔を見せるだろうし、何より――


そこの【モンスターペアレント】にコマ切れにされちまうよ」


立てた親指を背後に向ける寵。

……アタシは、意識的にそちらを見ないようにしていた。

認識すれば、平常ではいられないのを分かってたから。

それでも、その巨体は意図せずとも視界に入り込んで来る。

美しい銀鱗の胴体、刀身のように厳つく鋭い手と爪、山すら軽く薙ぎ飛ばせそうな尾。


【グラヴィ・ドラゴ・クイーン】


この時点で既に、圧倒的な存在感に押し潰されそうだというのに、『顔』を確認してしまえばどうなるのか。


「おいおいザクロちゃん、【王】を目の前にして目を逸らすなんて失礼――っていうほどあのオバさんに威厳ないかぁガハハッグヘッ! ンのババア! 可愛い息子の頭にゲームのコントローラー投げんじゃねぇ!」

「……(フンッ)」

「いい歳して可愛くそっぽ向きやがって……と、まぁコレが僕のママンことグラヴィちゃんだよ。見たくなきゃ別に顔なんて見なくてもいいさ。ま、見ても『魅了』されないと思うけどもね。既に僕で『耐性』あるだろし」

「……やっぱ、普通に見たらヤベェのか」

「ママンったら、殆どオーラを抑えないからねぇ。いつだったか、直視しちゃった人間が虜になっちゃって、その後【宗教団体】作ったとかなんとか」

「ああ……そういう事か」


ならば納得してしまう。

偶像である【竜】の為ならどんな手も使うあの宗教団体。

順番が違えば、アタシもこの魔王を信仰してたかも知れない。


「にー、だーれー?」

「んー? ああ、紹介遅れたねぇ瓏ちゃん。これから一緒に遊んでくれるお姉さんだよ。ザクロちゃん、こちらはご存知の妃 瓏ちゃんだよ」

「いや、名前も目的もどっちも初耳なんだが……てか、見た目の年齢的に、コイツは幼稚園にやらないのか? 王族だから親の元で英才教育、とかか?」

「や、そんな方針では無いんだけど……瓏ちゃん、大人は平気なのに同世代の子が苦手でね、あまり行きたがらないんだ。僕もそうだったけど、僕の時は『引っ張ってくれる幼馴染』が居たからなぁ……」


遠い目をする寵。

一瞬、その表情が風呂の時のそれとダブって見えて――ん?

トコトコ、瓏がアタシの目の前まで来て、思考が中断された。

クリッとした大きな瞳で見上げて来る。

うっ……近くで見ると、破壊力が凄いな……。


「どりー?」

「あ? 話聞いてたのか。ドリーはさっきまで抱き付いてた奴だ」

「だって、どりーとおなじにおいがする」

「……そのドリーがさっきまでアタシに抱き付いてたから(匂いがついたん)だろ」


ったく……またか。

ここに来てから、ここの奴らに矢鱈ドリーと関連付けられる。

そんなに似てるのか? 近い部分は小麦肌ぐれぇだろ。

他に、何があるってんだ? 何かあるってのか?


「瓏。人見知りなのに初めての相手とお話出来て偉い。このザクロ相手には緊張しない?」

「しないっ(抱きっ)」

「おわっ、と……飛び付いてくんなよ……」


アタシを悶え死なす気なのかこのガキは……別にそういう性癖はねぇってのに、変な気分にさせられる。

これはアタシが変態だからじゃなく、この瓏の強過ぎる魔性が原因の十割だ。


「うんうん。瓏ちゃん、教えの通りに隙あらば女の子のオッパイに顔埋める行動、自然と出来るようになって安心したよ」

「え? わわっ!」


バッと離れた瓏は、顔が真っ赤だ。


「あらら。ザクロちゃん、このむっつりシャイボーイを許しておくれ」

「弟に変な教育すんなよ……あとアタシは別に気にしちゃいな(ゴゴゴゴゴッ)っっ!? なんだこの地鳴り!」

「あーウチのママンの貧乏ゆすりだね。可愛い息子を誑かす女が来たから」

「理不尽だろっ」


運良く制裁は加えられずに済み、本題へ。

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