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――やっとこさ、ガキどもを寝かしつけた直後、
「ゲッてなんだよー」
「なんの話だよ」
幼稚園での二時間が終わると同時に、ひょっこり戻って来た寵。
「いや? 何だかザクロちゃん、『今からママンに会いに行く』って言ったらゲッて言いそうな気がして」
「……気のせいだろ」
「そ。なら行こっかー」
ガキどもが起きないよう、アタシは静かに立ち上がって、
「むにゃあ……? おーじがいるー?」「おーじぃ?」「おーじだ! みんなおきろー!」
ババババッ!
訓練された兵士のように、ガキどもが一斉に身体を起こした。
「おーじをふくろにしろー!」「みぐるみはがせー!」「ぽけっとからおかしのにおいがするぞー!」
「おやおや。人気者は辛いね」
「ほんとに慕われてんのかよ」
「騒ぎが大きくなる前にここを出る。ママ」
「はいはい。ここは私が納めますんで、皆さんはどうぞ次の場所に」
「悪いねぇプランさん。さ、行くよ」
「少しは悪びれろよ……ったく。気乗りしねぇな」
園長がガキどもを布団で包んでる間に部屋を出るアタシ達。
「ザクロさん」
「……あん?」
「『会えたらまたお会いしましょうね』」
「……ああ」
何気無い、プランの別れの言葉。
それは――永遠の別れのように聞こえた。




