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アタシには、お袋との記憶が無い。


お袋は身体の弱い女だった、らしい。

アタシより背も低く、肉付きも無い貧相な女。

そんなお袋も人並みに結婚し、アタシを宿した。


が、出産には耐えられない身体……の『筈だった』。


ある日を境にお袋の身体は急に丈夫になり、出産も問題なく出来る事に。

かかりつけの医者も驚いたらしい。


『妊娠前より健康になった』と。


親族もたいそう喜んだ。


『お腹の子は神様の使いだ』と。


それからお袋は問題無くアタシを産んで……役目を終えたように『眠り始めた』。

死んだ、のではなく、本当に眠っているのだ。

点滴も必要とせず排泄も無く。

何年も何年も、産んだ時のままの姿で、歳も取らず、今も眠っている。


まるで、お袋だけ『時が止まっている』かのよう。


アタシは、だから、お袋を起こす術を探している。

お袋の身に起きているのは、科学や医学で説明出来ない超常現象。


必然、『そういった方面』に頼る他無く、故に組織を探し当て、身を置いた。


全ては、一度も会話した事の無いお袋を叩き起こし、溜まった恨み言を吐き出す為に。



「泣かせる話じゃないか。君の口から聞けて嬉しいよー」


アタシの話(組織の話まではしてない)にグスンと涙を拭う仕草を見せる寵。

よく言う、わざわざアタシから聞き出さずともその能力で『人の過去』なんざいくらでも暴けるだろうに。

「で。君はそのお母さんの状態、どう思ってるの?」

「……非現実的な要因だと思ってる。恐らく、お袋が急に健康になった辺りから『何か』が始まっていた」


考えられるのは、やはり蒐集品の影響。

お袋を一時的に丈夫にしてアタシを産ませ、その代償として本人の時間を奪う……この等価交換のような『決まり』は、実に蒐集品らしい。

装飾品か、呪詛か、口に入れるモノか……組織の力を使って尚、未だにお袋の身に起きた事を解析出来ていない。

それに、産まれたその【アタシ】自身も、普通とは言えない。

自分で言うのもアレだが、アタシは『身体能力が高い』。

特にトレーニングなどした事が無いが、そこいらの一流アスリートや格闘家より上だろう。

ちょっと怪我をしても『陽にでも当たってれば』その日に治る回復の早さ――まるで植物の光合成のように――。

そういう、色々な異常さ。

普通で無くなった母から産まれた子なんて、そりゃあ普通じゃない。

……そして、これもコイツらに伝えてない事だが。


アタシの使う【時を操るリモコン】は『お袋が持っていた物』だった。


アタシを産んだ後、お袋は親族に『これをこの子が大きくなったら渡して』と言い、すぐに眠り付いたらしい。

何故お袋がこんなモノを持っていたのか……謎しかない。


「ま、そんなとこだろうね。それで、君はお母さんを起こせるであろうナニかを求めてると。ウチの景品でそれらしいモノ……【王子の口付け(プリンスキッス)】辺りかなー?」

「……ああ」


どんな眠りも、それこそ『死者すら』起こせるという薬、らしい。


「ザクロが【それで】いいなら」

「おっと、だから甘やかしちゃダメですよお母様ー。よし、ならそれを君に譲ってやろう。けど、タダで貰うのは嫌だろ? だから、少し『働いて貰う』よー」


今はその薬に、この男に縋るしかない。

頷くしかないのだ。


「ザクロ。この馬鹿王子に従わないでドリーに甘えていいのに」

「ッ!? おま! んっ……! どこ触って……!」


さっきからずっとペチペチ触っていたドリーが、突然、『何本もの手を使ってるように』全身を揉み始めた。


「おー、ドリーが『触手マッサージ』してくれるなんて凄いレアなんだからー、快楽に身を任せてー」

「てめッ……ん! とめっ、ろッ!」


湯の中で何をされてるのか全く見えないが、ヌルヌルした先端部で舐められ撫でられ押され吸われ揉みほぐされ……アタシは必死に声を抑える。

そんな姿を、目の前の寵に見られ、酒の肴にされてると思うと……怒りと情けなさで死にたくなった。


「ハァ……ハァ……」

「もーシリアスな空気だったのにー、ドリー、程々にしなよー、普通の子ならとっくに廃人だからねー。さ、お風呂から上がろー(ザバー)」

「お、おま、急に立つな!」


咄嗟に視線を逸らすアタシ。


「確認したいんじゃなかったーの?」と言いつつ寵は酒の載ったお盆を持って湯船から出た。


それからすぐ、シュルシュルとタオルを巻くような音がしたので、恐る恐る目を向ける。


「ってなんで下に巻いてねぇんだよ!」

「えー? おっぱい見えるの恥ずかしいじゃん? それに、ほら、ちゃんと隠してるしー? (キュ)」

「挟んでるだけだろ! フェイスじゃなくバスタオル使え!」


この状態でもまだ性別が判断付かないほどに巧妙な誤魔化し方。

もう男だろうが女だろうがどうでも良くなった。


――と。


「あ! 見つけましたよ寵さん! 一緒なんてズルいですよザクロさん!」

「ohー! これがジャパニーズ裸の付き合い! ドキドキデース!」

「ええ……なんすかこの状況……寵さんの可愛いお尻しか見えないっす……」

「わぁー、裸のJKがいっぱいだー」

こいつらどうやってここに入って来たんだ? とか、ニコニコ顔の寵かムカつくとか、考えるのも面倒くさい。


ああ、もう。

組織の仕事で何年もバトってた日々より、このわずか数日のが何倍もしんどい……。

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