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「ぅわぁ……分かってはいたっすが、龍湖さん、おっぱい大きいっすね……大き過ぎて引くっす……」


「本当にBIGデース! 本国も顔負けデスヨー」

「そういうアニーさんもBIGじゃないっすか! ボンキュッボンデース! それに比べて……」

「マァマァ。慎ましい方がキモノが似合うと聞いてマース。イツキは自信を持つデース」

「大きくても良い事なんて無いですよねぇ。あっ、でも寵さんは『大きいのは良い事だ』と頷いていたので誇らしいですっ」


更衣室で騒がしい水着集団がいたので関わらないよう無視した。


「あっ、ザクロさんです!」「little girlと一緒デース」「遂に誘拐っすか!?」


関わられてしまった。


「ザクロもプールに行くデス?」

「いや……アタシはコイツにここに連れて来られて何がなんやら」

「うーん。もしかして、『オーラを見るに』ドリーさんです?」

「(こくり)」

「え!? この子あの木っすか!? リアル擬人萌えキャラ化……もう何でもアリっすね……」

「何だか懐かれてな。おい、もしかしてマジにプール利用か? 死んでも水着なんて着たくないんだが」

「(ふるふる)」


って事は、つまりは『温泉利用』か。

ここはプール施設と温泉施設の更衣室が一緒みたいで、だから馬鹿みたいに広い。

無料で異世界産の『エステ道具やら飲み物やらアイスやらマッサージ器具やら休憩所やら』が利用出来るらしく、ここで一日過ごす奴もいるのだと。

プールと温泉……何故かまだ全裸の方がマシだと思ってしまう。


「エー! ザクロ、プールに来ないデス? あんなに楽しそうナノニッ」


アニーが指差すテレビモニターには、温泉施設とプール施設の紹介動画が流れている。

宝石を敷き詰めたかのようなキラキラした砂浜、

可愛らしいのから厳ついのまで揃った水棲魔物モンスター

黄金に輝くさざ波とどこまでも続いてそうな水平線。

プールといいつつほぼ海な施設で、確かに魅力的だ……が。


「悪いが、今はコイツに付き合ってやってんだ。お前らで楽しんで来てくれ」

「了解っす」

「うーん……確かにこの辺に『寵さんが通ったオーラの残り香』があったんですがねぇ」


不穏な言葉を残しつつ、龍湖一行はプールエリアへと消えて行った。


――で。


服を脱いで身体にタオルを巻いたアタシは、再びドリーに手を引かれてどこかを目指している。

因みにドリーは迷う事なくすっぽんぽん。


「おい、色んな風呂通り過ぎてったが、そろそろ落ち着かせてくれ」

「もうすぐ」


たく……今は別に風呂入る気分でもねぇのに。


「っと(ドンッ)……くぅ。ぉいおい、いきなり止まんなよ」


ぶつかったアタシがヨロけるって相当だぞ……こんなガキみてぇな体なのに、デカイ木に体当たりしたような衝撃だった。


「ここ」


ドリーの指差す先には……


「木の壁以外、何も無いが」


本当に通路の途中。

その壁が他と色が違うだとか、隠し扉的なそういうのもない。

逆に、『らしい』とも言えるが。


「行けばわかる」


ドリーが壁に手を当てると……『飲み込まれた』。

まぁ、そういう事だよな。

壁に見えてるだけで、この先に道があるらしい。


「間違えて一般客が入ったりしねぇのか」

「従業員とか以外は通れない」


なら普通にスタッフオンリーの扉置いときゃいいだろうに。


――隠し通路を進んで行って。


突き当たりには、一つの扉。

ドリーがそこを開くと…………緑が、目の前に広がった。

竹林。

涼しい風でさわさわと葉が揺れ、肺の奥から浄化されるような感覚。

中央にある湯船を中心に竹林が広がっている露天風呂が、そこにはあった。

しかし……なんていうか。


「普通だな」

「しんぷるいずべすと」


まぁ奇怪な場所に案内されるよりはマシだが。


「入る前に掛けざぷん

「ああ(バシャ!)って掛けてくんなよっ。せめてタオル外してからにしてくれっ」


どうにも、こいつはアタシをもてなしたい様子だが、いかんせん慣れてない感半端ねぇ。


ちゃぷん……ちゃぷん……


と。

湯船の方から人の気配。

てっきり貸切状態だと思ったが、確かにそんな説明は無かった。


「おい、先客居るみてぇだから別のとこ行った方がいんじゃねぇか」

「問題ない」


言いつつズケズケと湯船に近付くドリー。

それはお前が相手に気遣う感情皆無だから言える台詞だろ。

ったく……これじゃあ気も心も休まる気がしねぇ。

アタシも、そろそろと湯船のに近付く。

湯に浸かる先客の背中が見えて来て……思わず『見惚れた』。


――長い銀髪を結い上げたお団子は可愛らしく。

――それでいて晒されたうなじは色っぽく。

――絹のように純白な美しい肌は赤く火照っていて。

――湯に浮かべたお盆の上の徳利とお猪口で酒を飲む姿は様になっていた。


というか寵だった。


「お前、なんでここにいんだよっ」


咄嗟にアタシは身体を手で隠し(タオルが濡れて透けているので)叫ぶも寵は反応しない。

というか、こちらに気付いてすらいない。

アタシが知る常に自信ありげな表情とは真逆な、どこか憂いを帯びた切なくも妖艶な横顔。

それすらも、一つの絵画や彫刻のような【作品】だった。

チッ……認めたくはねえが、やっぱこいつは『別格』だ。

さっきのゲス野郎どもからは一切感じなかった、ゾワゾワとした肌のざわつき。

恐怖でなのか、別の要素でなのか……どちらにせよアタシの本能が負けを認めちまってる。


「……おや? 二人して来てたんだ」


アタシの知る顔に戻る寵。


「今更かよ。てか、ここ、女湯じゃねぇのか」

「ん? ドリー、説明してないの? ここ混浴だよ。混浴というか、家族風呂だけど」


家族風呂……男女の利用を問わない、基本、夫婦とかが使うアレだっけか……いや、待て。


「入り口は女湯側からしかないだろ?」

「や? ほら、反対側にも扉あるよ。というか、そもそも僕も『女湯側から入った』けども」


騒ぎになるだろ……と思ったが、こいつの場合、この見た目のおかげで目立ちこそすれ止める奴なんて居ないし、タオルで身体隠せば尚更分からんし、そもタオル無しでも止められないだろう。


「なに? そんなに僕の裸が気になるの? 実は『付いてない』かもよ?」

「き、気になるわけあるかっ」


しかし……この先を考えたら、その性別だけハッキリさせたいのは事実。

アタシは、こいつが男だと『聞いてる』だけだ。

普通に女だった場合……まぁ、何が変わるでもないが、気持ち心持ちが楽になる、アタシが。


「いつまでも突っ立ってると風邪引くよ。確かめたきゃこっち来な。あ、入る時タオルは取ってね」

「い、いや、アタシは入るつもりは(バサッ!)ッッ! テメ! ドリー! タオル返せ!」


アタシからバスタオルを剥ぎ取ってそこいらにポイッと放り投げたドリーは、再び手を取って湯船に引きずり込もうとする。

アタシが振りほどけない程に『重い』力。

必然、タオルを失ったアタシは全裸なわけで、更には片手が塞がっているってわけで――『どっちか』を隠しても、どっちかが『見られてしまう』わけで――


「てめ! ぶち殺すぞ見んな!」

「へへ、女の子らしい声上げるじゃねぇか。出るとこは出てる引き締まったボディだぜ」

「ガン見かよっ、少しは遠慮しろ!」

「まーまー。お風呂は丁度濁り湯だし、入った方が身体隠せるよ?」


今はそれに従う他ないが、誘導された感が気に入らない。

なにより、人のを見ておいて、こ慣れたようなその余裕な反応がむかつく。

アタシは『バシャン』と飛び込むように湯船に入り、肩まで身を沈めた。


「ようこそ。しかし、何だかんだ男と同じ湯に入るなんてヤラシい女だぜ」

「やかましい。テメーを男として見てねぇだけだ」

「ひどいなー」と寵はスカした態度で、くぴりとお猪口を口に含んだ。


――そのまま一分くらいは、誰も口を開かなかった。


チョポチョポと湯口から出る湯の心地いい音で、激しかった心臓の鼓動も落ち着いて来た。

今入ってるこの湯も特殊なモノなんだろう……疲労がどんどん湯に溶け込んで行くのを感じる。

いや……この温泉に限らず……そも、このテーマパークに足を踏み入れてまず思ったのが、『居心地の良さ』だ。

初めて来た筈なのに、まるで実家にでもいるかのような『空気の旨さ』。

疲れていても、異常に回復が早い。

アタシ以外の他の客も、同じ事を思っているのだろうか?


「ねぇ」


と、寵の奴はアタシの落ち着きを見計らったように、


「ザクロちゃんも飲む? ヤンキーだし強そうだけど」

「飲まねぇよ……てか、聞いた話だとお前、まだ一八なんだろ」

「うっわ、ヤンキーの癖に真面目すぎんだろ、良い子ちゃんぶんなや」

「だからヤンキーじゃねぇし……アレか? ここは自分達の領土で自分は王子様だから、日本の法律なんざ知らねえってか」

「んなことない(くぴっ)ふぅ……僕の本籍地はちゃんと日本だからルールは守ってるよ。ただ、今の僕は『ハタチ』だから」


……ああ、そういう意味か、相変わらず無茶苦茶な奴だ。

こいつ、時間の魔法で自分をハタチまで成長させやがった。


「いや、見た目変わってねーじゃねぇか。つか、それでセーフってなるのか……?」

「僕ったら見た目の成長が一六で止まっててねー。そうだ、君もハタチになれば一緒に呑めるよ、ほいっ」

「や、誰も飲みたいなんて一言も……ッッ!?」


グググッ――突如、身体の凡ゆる部分の肉付きが増していって、視点も高くなる。


「ほほーん。さすが成長期、四年も経てばそれだけ女の身体になるって事か。『楽しみ』だ」

「……勝手な事してねぇで、すぐに戻せよ。うわ、声も変わってて気持ち悪ぃ……」

「えー、勿体無い。君も呑んで溜まったストレス発散させようよー」

「この状況が一番のストレスなんだよ、いいから戻せっ」


唇を尖らせつつアタシの時間を巻き戻す寵。

やはり、今は今の姿の方がしっくり来る。

にしても、相手に触れるとかの条件無しに魔法を行使出来るとか……ほんと、何でもありだなコイツ。


「んっんっ」

「……お前はお前で、急に人の身体揉み始めて、どうしたんだよ」


アタシの背中に抱き付いてグリグリし出すドリー。


「その子なりに君を癒してるんだよ。寝不足で疲れてそうだからね。まぁ、その子って呼んだけど僕らより全然年上で……五百歳だっけ?」

「(ムスッ)よんひゃく」

「誤差の範囲だなっ」とケラケラ笑う寵。


もう色々とファンタジー過ぎる設定だらけだが、今はそんな事を突っ込むよりも。


「アタシがコイツにそこまで懐かれる理由が分からんのだが」

「んー? その子はなんか言わなかったー?」

「あ? 確か、アタシを子供だのどうのって……」

「『そこまで』言ってんのかよドリー。『隠しとけ』つったろー」

「ふん。バカ王子の言う事きく義務ドリーにない」

「そだねー。ま、それだけ聞いても相手はイミフだしねー。口下手なドリーが上手く説明出来ると思えないしー」

「おい、今の会話、明らかにアタシに関するソレだろ」

「んー、ほら、アレだよ。ドリーが言ったのは『人類みなキョウダイ』的なアレだよー」

「誤魔化されるかっ」


そんなアタシの追求を寵はのらりくらりと躱し、お猪口に酒を注ぎながら、


「君が知りたいのは、ホントにそんな事かなー?」


射抜くような問いに、ドキリと心臓が跳ねる。


「どういう意味だよ……」

「君は、このテーマパークで【手に入れたいもの】があるんじゃなーい?」

「っ……」

「ザクロ。何が欲しい? ドリーが持って来てあげる」

「ちょっとお母様ー、そんなに甘やかしたらこの子の為になりませんよー」

「甘やかす教育方針」

「お母様は黙ってて下さーい。……ザクロちゃん僕は見てたよー。君がバスの中でじっくり、カタログの『グラ稼ぎ』の項を見てたのを。何が欲しいんだーい?」

「……言ってどうなる。条件付きで譲るってか?」


そんな怪しい話、乗るわけがない。


「欲しいモノとその理由次第だねー。安いモノなら自力も難しくないけど、高いモノだとG稼ぎはリスクだらけさー。それでも欲しいモノ、なんだろー?」


……そうだ。

今まで組織に属してたのも、ソレを見つけるのが目的だった。

でも、それらしいのを見つけても、効果が無く空振りばかりで。

いよいよ諦めかけていた時に、このテーマパークの存在。

意地を張る場面じゃない。


「チッ……、……お袋が、起きないんだよ」


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