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――――――。

――――。

――。


                         ゴドンッ

……意識の外から物音が飛び込んで来た。

何かが倒れたような嫌な音だ。

現在の時刻は夜中の二時。丑三つ時。

なんやかんや心地いい雨の音で寝てしまったようだが、異音で起きてしまったようだ。


「ふにゅ……あっ……寵さん……?」

「君も起きたのかい。少し、このまま待ってな。僕は様子を見に」


 ぅぅ……


「ッ! お、お婆ちゃんの呻き声が聞こえますっ」


言うが早いか、龍湖は浴衣が乱れるのも気にせず這うように部屋の外へ。

流石、耳が良いな。

後を追うと……お婆ちゃんが廊下で倒れていた。


「お婆ちゃんっ、お婆ちゃんっ!」


這い寄り、半身を起こす龍湖。


「はぁ……龍湖かい。ふぅ。どうやら、お婆ちゃんにもお迎えが来たらしい」

「いや! いやです! 独りにしないで下さい!」


悲痛な叫びを上げる龍湖に、しかしお婆ちゃんは微笑み返し、側に立つ僕を見上げる。


「お婆ちゃんもその事だけが心配だったけど、この方が来てくださったからもう心残りは無いよ。我儘を言えば、ひ孫は見たかったけどねぇ」

「この方って……寵さん、が?」

「ああ……お婆ちゃん、夢で未来を視たんだよ。そうしたら笑ってるお前が出て来てね。ここじゃない、キラキラした遊園地みたいなとこだった。そんな夢を視た翌日……この方が来て下さったんだ」

「ゆ、遊園地? で、でも、龍湖はこの村から……」

「この方を見た瞬間、この世のモノとは思えぬ神聖な何かを感じ取って驚いてしまったけれど……こうして今際の際に立って、ハッキリしたよ。今は、お前みたいに気のようなモノがお婆ちゃんにも見える。なんて、神々しい気を放つ方なんだい」


ありがたやーと手を合わせるお婆ちゃん。

死に際とは思えぬ穏やかな顔。

僕は仏が何かか。


「失礼ながら、どのようなお立場のお方なのかはこのババアには見当もつきませんが……どうか後生です。この娘を、どうか救ってやって下さいませ……」


深々、頭を下げるお婆ちゃん。


「そんな最後みたいなこと言わないで下さいお婆ちゃん! ああ……でも、どんどん気が弱くなってって……」


龍湖はもう涙でグチャグチャ。

僕はしゃがんで、お婆ちゃんの肩にポンっと手を置く。

僕は今から、厳しい事を言わねばならない。


「流石にそこまでのお願いは重いぜお婆ちゃん。なんで――自分でやってね」


直後、

お婆ちゃんの身体はパァー……と光って――――――。


「え? え? ど、どういう事、だい? 急に、身体が軽くなって……苦しく、無い?」


すくり、お婆ちゃんは立ち上がる。

その姿にはもう弱々しさなど感じられない。


「お、お婆ちゃん? い、一体何が……あんなに淡かった気の光が……昔みたいな眩しい輝き、に?」

「これでもう三〇年は死ねないぜお婆ちゃん。多分ひ孫も見られるんじゃない? さ、次は龍湖だ」

「え? 寵さん、次って――むにゅ!?」


ガシリと両手で龍湖の顔を掴み、ジッと凝視しつつ。


「君には『この先の出来事』を観察して貰った方がいいから、悪いけど……『没個性』になって貰うよ」

「こ、個性って……あ、ああ……!」

 

本人の許可を取る前に、僕は彼女を『戻した』。


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