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樹の魔物から出てきた小学生ほどの小さな少女。


肩までのショートパッツン白髪はくはつで、白いワンピを着て、その二つが映える小麦色の褐色肌。

プルプルと頭を振り、スゥ――瞼を開き、アタシを見る。

エメラルドのような、清々しい翠の瞳。

そいつは、アタシの手を取り、


「いこ」

「いや待てや」


『?』なんて顔であざとく首なんて傾げやがって、突っ込みどころ多過ぎんだよ。


「お前、ドリー、なのか?」

「ん。見ての通り中の人」

「見てわかんねぇよ。てか、その抜け殻な木はどうすんだ、どうなってんだ」

「ん。しまう」


シュルルルル……まるで掃除機のコードのように、少女ドリーのスカートの中に収まっていく抜け殻。

四、五メートルほどあったそれなりの高さの木が、跡形も無く消えた。


「いこ」

「……まぁ、確かにさっきよりはマシな姿になったが」

「あ。忘れてた」


ドリーはアタシの手にあった花(さっき木ドリーが落とした奴)を取り返し……アタシの髪につける。


「いこ」

「見た目がバカに見られるから外していいか」

「だめ」


どこまでアタシを生き恥に晒したいんだ。



――パーク内を歩くアタシ達。

その間、特に会話は無く。

だが不思議と気まずくも無い。

時折、すれ違う奴等にチラリと目を向けられたりするが……この奇天烈なテーマパーク内において、手を繋ぐ女二人など目立ちもし無いだろう。

姉妹か何かだと思われて終わるだけだ。


「お前、なんでアタシに構うんだよ。ただの暇潰しか?」


答えに期待はしてないが、アタシはダメ元でドリーに訊ねる。

カタログや寵曰く、基本、魔物は客に馴れ合わないという。

心を許すのは、パークの関係者(イコールほぼ魔物の連中)か、龍湖の話じゃあ寵が連れて来た特別な奴だけ。

が、龍湖の話を信じるならドリーは少し例外で比較的友好的な奴らしいし、今の状況もこいつの気まぐれという線が一番濃い。

ドリーはチラリとアタシを見て、クイッと、顎で『その方向』を示す。

パークのずうっと奥の方……そこに見えるのは雲をも突き抜けるほどの【馬鹿でかい木】。


「アレが【ユグドラシル(世界樹)】。全ての『中心』」

「……ああ、らしいな」


カタログで存在は知ってたが、いきなりどうした。


「世界はユグドラシルから始まった。水も空気も動物も人も魔物もユグドラシルが全ての命を作った」

「その命ってのは『お前の世界』の奴ら限定だろ……」


色々あって異世界からこの世界に引越してきたらしい。

魔物の領地を丸ごと魔王がここに持って来たってとんでもねぇ話。


「だから当然――食べ物も全て『ユグドラシル産』」

「ッ!?」


まさか、本当に『よもつへぐい』があるってのか?


「お前……ここの飯食った奴はもう『魔物の仲間入り』だと? もう『ここから出られねぇ』と?」

「? なんの話」

「いや……お前がアタシに構う理由を訊いてんだが」


こいつ『天然』かよ。

まぁ木のままの姿よりは意思疎通出来る分マシか。


「ドリーはユグドラシルの『枝』」


分身体、って意味か?

動けない世界樹の意思を実行する存在。

若しくは、女王アリと働きアリ的な主従関係。


「そして――ザクロはドリーの『子供』」

「いや、違うが」


違うが……なんだ? この『しっくり』くる感じは……?

お袋とこいつは見た目も何もかも違うってのに。

こいつとさっき初めて会った時に感じた『懐かしさ』は一体……。


「――よぉ、やっぱり来てたか」

「ケケケッ」


と。

背後から男二人の声。

その声に、不思議と穏やかだった気分が一気に不快指数マックスに。


「テメェら……なんでここに」


振り返った先に居たのは、予想を覆す事無く、見たくも話したくもねぇ野郎二人組。

身体がデカイだけの筋肉ハゲと病的に肌の白いガリモヒカン。

コイツらは他組織【ディアボロス】の奴らで、ウチの組織が最も嫌悪する糞以下の集団だ。

蒐集品を手に入れる為なら女子供にも手を掛け、その蒐集品も金儲けや女相手に使う下衆ども。


「『なんで』? お前もあのCMを見たんだろ?」「ケケケッ、楽しそうな場所じゃねぇか」

「ふんっ、律儀にここのチケットを手に入れたのか」

「勿論だとも」「ケケケッ、ここに入ろうとしてたカップルに『譲って貰って』なっ」

「ゴミどもが……」


アタシは拳をポキポキ鳴らす。

コイツらのことだ、ここを乗っ取る腹積もりだろう。

一秒でも早く駆除しねーと……ウチの学生らの思い出に余計なもんが紛れる前に。


「おいおい、物騒じゃねぇか、仲良くしようぜ?」「ケケケッ、そうそう。いつもデートに誘ってるだろぉ?」


言いつつ、奴らは懐から獲物を取り出す。

鎖鎌と、ナイフの――この肌がざわつく感じは――蒐集品。

見た事無いブツなんで、その力も未知数。

今までは運良く勝てちゃいるが、コイツらとアタシの力量に差は殆ど無い。


しかし……不思議と、今のアタシは負ける気がしなかった。


【寵】という上位の存在を見てしまったせいだろうか。

こんな奴ら、モブ雑魚にしか見えない。


「ハッ! 今までの俺らだと思うなよ!」「ケケケッ! リモコンはもう通用しねぇぜ!」

「てめぇらには使うまでもねぇ。御託はいいから掛かって来な」


筋肉ハゲはヒュンヒュンと鎖鎌を回し、躊躇なくアタシ目掛け放つ。

凄い勢いで向かって来る鎌。

普通なら警戒し避けている所だが……何を思ったかアタシは鎌を『素手で掴んだ』。


「んな!?」


そのまま繋ぎ目の鎖部分を握り、グンッと引っ張っぱると、釣られたように飛び込んで来るハゲ。

懐に入った所で思いっ切り腹に膝を入れると、「グエッ!」 カエルが轢かれたみたいな声を漏らし、地面へと沈んだ。

この鎌、触れたら何か悪影響があったんだろうが……何となく『大丈夫』だと思ったのだ。


「ケケケッ!? て、テメェ! なんで平気なんだよおおおお」


ナイフを持って向かって来る色白ガリ。

コイツもさっさと処理してやろうと、アタシも地面を蹴って殴り掛かって、


スパンッ!


……何か小気味良い音がしたなと認識した時には、色白ガリは地面へと倒れていた。

その頬には、赤いアザ。


「知り合いだった?」


首を傾げるドリーの、スカートの中から、尻尾のように垂れる、植物の蔓。

これでハタいたのか……その気になれば、首を飛ばすなど造作もないだろう。


「いや、確かめる前にハタくなよ……ホントに知り合いならどうするんだ」

「どっちにしろハタいてた。ザクロが嫌な顔してた相手だったから」

「素晴らしい判断だよ全く」


しかし、それなりに騒いでたつもりだったが、誰一人客はこっちを見てないな。

アトラクションやショッピングに夢中で、こんなつまらない催しなど興味ないのだろう。

それが正解だ。


「で、どうする? こいつら」

「こうする」


ドリーは倒れてる野郎二人に近付いて……蔓でヒョイと持ち上げ……ブンッ!

テーマパークの外へと放り投げた。

すぐに空の彼方へと消える野郎ども。

あの勢いだと、島の外の海まで飛ばされたな……。

分かってはいたが、このドリー、こいつらやアタシが足下にも及ばない程に強い。


「ドリーはパークの清掃担当だから」

「素晴らしい仕事ぶりだぜ全く……、……ん?」


ふと。

蔓の先っぽには、男達が持っていた蒐集品が絡まっているのが見えて。


「それ……回収するのか?」

「ん。『都合が良い』から」と、スカートの中に仕舞った様子。


危険物の回収……考えるまでもなく、至極真っ当な判断。

ドリーはパーク従業員だから尚更。

それに、コイツらは蒐集品に関しちゃアタシら含め他組織よりも扱いに長けている(どころか生み出す側の)連中だ。

餅は餅屋。

外野が口を出せない領域……だが……いや、今はいいか。


――何事も無かったかのように、再び歩き出すアタシ達。


「ん……」


手をグーパーし、アタシは自身の調子を確認する。

今の戦闘、やはり引っ掛かる部分がある。

調子が『良過ぎた』のだ。

相手の動きが止まって見えたし、蒐集品の影響も(今の所)受けてないし。


「その花には能力向上と呪いの無効化効果がある」

「あ?」


……もしかして、アタシの考えを読んだのか?

花? この、ドリーが渡して来たヤツのことか?


「そういう、しゅ……アイテム、なのか? 誰もが超人化出来るような」

「誰もじゃない。ザクロは『特別』」

「は? それってどういう」

「もうすぐつく」


話をぶった切るドリー。

未だ分からぬ目的地。

少しだけ、ドリーの歩くペースが早くなった気がした。


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