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「あっ、ドリーさん! こんにちは!」
駆け寄って、木に抱き着く龍湖。
木は返事するように、カサカサと葉を揺らす。
「ohー? もしかしてこの木、意思があるんデスカー?」
「はいっ。テーマパークを回って清掃活動等をする木の魔物ドリーさんですっ。こうして会うのは二回目ですが、初めての時からとっても優しくしてくれた方なんですよー」
【魔物】
このテーマパークに足を踏み入れてから、魔物という存在は多く目撃した。
普通に、スライムやら角ウサギやら鎧騎士が外をウロついていたのだ。
危害を加えない限り襲われないらしいし、他の一般客はゲームから飛び出したような魔物達を見て嬉しそうに興奮していたが……アレらは本当に異様な存在だった。
「ナルホドー。初めましてドリーさん、アニーデス!」
カサカサ……
「ど、どうも、樹っす」
カサカサ……
自己紹介に律儀に反応するドリー。
カサ……
ふと、ドリーは幹を僅かに動かし、まるでアタシを見るように動きを止めた。
目なんてどこにも無いのに、感じる視線。
口は無い(と思う)が、何を言いたいかは分かる。
「……石榴だ」
カサカサッ 少し激しく葉を揺らして——『ぽふん』
「わっ! ドリーさん、まるで『子供を相手するように』石榴さんの頭を撫でてるっす! 器用に枝なんて伸ばしてっ」
「イイナーザクロッ。特別扱いされてるデースッ」
「甘々です! ザクロさん、ドリーさんとお知り合いだったんですかっ?」
「んなワケねぇだろ……」
ドリーは撫でる手(枝?)を止めない。
慣れているのか、枝先に葉を生やし、優しい手(枝)付き。
……やはり、このドリーとかいう魔物……他の魔物とは『何か』が違う気がする。
強さや見た目という意味ではなく、『雰囲気』のような何かが。
それはアタシだけが気付けるであろう違和感。
なんで、アタシはドリーを見て懐かしさの他に【お袋】を連想したんだ……?
「ん? あ、結構休んでたっすねっ。時間は有限っ。勿体無いから次のとこ行きましょ次のとこっ」
「あー、アタシはちょっと……行きたい場所あっから、お前ら好きに周って来ていいぞ」
「エー! 水臭いデスよザクロッ!」
「そんな事言って寵さんと逢瀬を交わすつもりですねっ、許せませんっ!」
「まぁまぁ二人とも……石榴さん、じゃあ後で連絡して合流する流れで良いっすか?」
察してくれた樹に頷くと、「じゃあウチらもフラフラして来るっす!」と、三人はその場を離れて行った。
「……、……で、『お前は』いつまでここに居るんだよ」
カサカサ? まるで疑問形の様な葉音。
「……まぁいい。アタシも、もう行くからな」
ベンチから腰を上げ、『目的地』を目指す。
コイツ自身に思う事は山ほどあるが、そも会話も成り立たない相手に質問も何も無い。
YESNOの遣り取りや筆談など出来そうではあるが……なにより、コイツは目立って仕方ない。
カサカサ
カサカサ
カサカサ
……………………はぁ。
「なんで付いて来てんだよ」
音でバレバレだ、デケェから影でも分かるし。
つぅか、どうなってんだその足? 根、か?
ワシャワシャとイソギンチャクみたく蠢かせて進む様はキモいの一言。
お掃除ロボみたいな役割だってんなら、効率的な構造なんだろうが。
カサカサ、カサ
「『たまたま進行方向が同じ』? だったら先に行っていいぞ。って、なんでアタシ今の理解出来たんだ……」
カサッカサ
「『いいとこ連れてってやる』? だからアタシは目的地が……ちっ。どうせ頷くまで付き纏うんだろ。なら——」
言い終わる前に、アタシの手を蔦で絡ませ、まるで手でも繋ぐように先行するドリー。
見た目だけでも目を引く奴だってのに……当然、集まる他の客の視線。
アタシに生き恥を晒させるのが目的かよ。
「なぁ、お前、せめてもうちょい目立たない見た目になれねぇのかよ。人並に小さくなるとかよぉ」
ピタリ。
ドリー立ち止まり、絡ませていた蔦を解いた。
プルプルと幹も震わせている。
なんだ、怒ったのか? どこにそんなポイントがあった。
——メキッ。
突然。
幹に、縦に一本、亀裂がはしる。
損傷? いや……これはまるで……サナギが『羽化』する前触れのような——ズリュリ。
そんな、ナマコが滑ったような生々しい音と共に、亀裂から『何かが飛び出した』。
「ふぅ」
……少女。
小学生ほどの小さな少女。




