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翌日。

一〇時前。

学校の駐車場。


「おはよーございまーすっ。あれ? お二人、眠そうですね?」

「ああ……」「色々と、っす……」


ほぼ徹夜だから、な。



昨日今日は、オヤジの喫茶店で組織の仲間達と夜を明かした。

緊急招集会議。

仲間達も、件のテーマパークを知ったのはその時が初めてだったようで、まずは困惑。

次にCMを見せたら、その反応の衝撃さたるや。

非常識な連中が更に根本から常識を覆されるほどの非現実。

『今すぐ攻め込もう』と言う血の気の多いメンバーも居たが……


『誰も【あの人】の正面にすら立てないっすよー。無謀とか蛮勇とかそんな次元の相手じゃないっすー。やっぱり、折角仲良くなれたんだから協力関係になるべきっすー』


そんな風に、アタシと樹とオヤジが喫茶店での出来事や、アタシですら瞬殺されると説明すると、仲間達は大人しくなった。

その後はカタログの中身を読んで、内容に『どこのゲームの設定資料集だよ』と頭を痛めつつ、作戦会議は日が昇るまで続けられた。

仲間達は何度もアタシらの身を案じていたが……既にどこに逃げようと【アイツ】の目を掻い潜る事は不可能。

なら、もう虎穴に突っ込む他選択肢は無い。

正確には虎なんてデカイ猫相手ではなく、『竜穴』なのだが。



「みなさんおはよーございまーすっ。目的地まで一時間ほどバスに揺られる事になりますが、見慣れてるであろう地元の景色でも楽しみつつテーマパークへの思いを馳せて下さーい」


バスガイドのようなコスですっかり仕切り役となった寵が、アタシら一年をバスへと誘導する。


――今言ってたように、テーマパークの場所は本当にアタシら組織にとって灯台下暗し。


ゲームでいう、はじまりの町のすぐ近くにラスダンがある感じだ。

車で気軽に行けるラスダン。


「めぐむっちはどのバスにのるのー?」「うちらのとこきてよーっ」「中でカラオケしよー」


相変わらず隙あらば女子高生に囲まれる寵。

同じバスになれば龍湖のやつがうるさそうだし何が起こるか予想不可能なんで、絶対に避けたい所だが……。


「落ち着けぃ。均等にみんなのとこまわってやるから安心せぃ」


一年全てで五クラス、一時間程度の道のりでどうやってまわるんだと首を傾げそうになったが……まぁ、無理やり実現するのだろう。

因みに、上級生らは自分達の時に伝説のテーマパークに行けなかった事に血の涙を流して悔しがってるのだとか。

今も、教室の窓から数十人単位で、こちらを睨め付けているのが分かる。


「では、皆さん乗り込んで下さーい。出発しますよー」


バスは走り出す。

某有名テーマパークは『夢の国』なんてキャッチコピーがあったが。

ウチらがこれから向かうのは、『異世界ファンタジー』だ。



「うー……寵さんが来るのまだですかぁ」

「まだ発車して一〇分も経ってないっすよ龍湖さん」


走るバスの中。

アタシらは最後部座席に座っていた。


『まるでヤンキーな石榴さんが周りを威圧して陣取ったみたいっす』なんて樹は言ってたが、アタシは何もしてないし、ただ偶然、最後部が空いていただけだ。


「お二人は既に周る所など決めているのですか? 少しばかりならば、経験者たる龍湖が案内出来ますよっ」


ふんすっ、と自慢気に(デカい)胸を張る龍湖。


「そういえば既に行ってると言ってたっすね。寵さんに助けて貰ってすぐに、でしたっけ?」

「はいっ。自然以外何も無い田舎から出て初めて見た都会の景色だったので、かるちゃーぎゃっぷ? を感じましたねっ」

「まぁ……『あんな村』に比べたら都会っすよね」

「え? 樹さん、龍湖の村を見た事があるんです?」

「い、いや! 想像っすよ想像っ。話を戻すっすが、テーマパークの『ここが一番の見所』ってのあるっす?」

「うーん……全てがおススメですが……やはり、圧倒的なのは【グラヴィ様】ですねぇ」

「ああ、確かテーマパークの顔、だったっすか?」


グラヴィ、というのは、ガイドブックの説明をそのまま信じるなら【ドラゴン】らしい。

テーマパーク創設者の一人で……寵の母親。

その姿は、ガイドブックには載っていなかった。

怪物園、というモンスターだらけのスポットの最奥にいるらしいが、テーマパークで一番の集客率を誇るほどに常に行列で。

『自分の目で確かめよう!』という糞みたいなゲームの攻略本に載ってそうな一文にイラっとした。


「グラヴィ様は高貴なお方。『認めた者』以外は存在すら認知して貰えませんっ。はぁ……早く認められたいです」

「しかし、ドラゴンねぇ。恐竜みたいな感じっすかね? 私のイメージじゃ、デカいトカゲ、的なのを想像してるっすが」

「チッチッチッ、そんな想像の範囲におさまる方ではありませんよグラヴィ様は。まさに高位の存在。見た瞬間、寵さんと同じ次元の方と理解しますっ」

「まるで崇拝の域っすねぇ」


ドラゴン、といえば、アタシら組織が危険視する敵組織の一つに【神竜会】てのがあるが……こいつらは『神に捧ぐ』という名目で蒐集品を集めていて、その為ならば一般人を巻き込もうと構わないという過激な組織。

当時は、ありもしない偶像を神格化するヤベェ奴らだと思っていたが……もし、ドラゴンなんて存在に寵並の魅力があるとするなら……。


「おや?」


――不意に、龍湖は左手の窓に指を向けて、


「あの車、様子がおかしくないです?」


ここは交差点で、今バスは赤信号で止まっていて。

目の前には横断歩道があり、何人も渡っている。

件の車は右折しようとウィンカーを点滅させていて。

だが、確かに龍湖の言うように、運転手の中年女性は、何か辛そうにハンドルに突っ伏していた。

そして次の瞬間……グンッと急発進。

車は、歩道を渡る母娘に突っ込もうとしていた。

咄嗟にポケットに手を突っ込みリモコンを掴んだが――間に合わない。


キィン


耳鳴り。

反射的に瞬きをしたアタシが、次に見るであろう凄惨な世界は……『止まっていた』。

信号も、人も、車も、音も。

アタシは何もしてない。

アタシのリモコンに、世界を止めるほどの力は無い。


『よっ、と』


ガゴンッ ――外から、何か鈍い音。

止まっていた筈の世界で、生き物の気配。

……まぁそりゃあ、【そいつ】以外居ないか。

そいつは、静止した暴走車を『片足でひっくり返し』、満足気にウンウン頷いて。

それからひょこひょこと『何かを背負ったまま』このバスまで歩いてきて、足で扉を開け、入って来た。


「――あれぇ? んー、ザクロちゃんは『止まってない』んだ」


寵は、それほど驚いてない表情で首を傾げ、


「てか、そんな後ろの席に居るとかヤンキーかな?」

「うるせぇ。……色々突っ込みてぇが、まず、状況を説明しろ」

「んー? 車が暴れてたから『止め』たのよ。どうもあのおばさん、持病の心臓病だかの発作が急に来て、気を失ったみたい。ま、ああやってひっくり返したからもう暴れないし、病気も『治した』からもう安全だよ」

「説明されてもわかんねぇ……」

「じゃ、動かすよー。はいっ(パチンッ)」


寵が指を鳴らすと、世界の時間は再び進み出して。


「あ、あれっ? く、車がひっくり返ってるっす!? さっき、突っ込みそうな感じだったのにっ?」


ボーッと見ていた横断歩道の連中もハッとし、すぐに中年女性の車に駆け寄って救助を始めた。


「って寵さん! 来てくれたんですねっ」

「まーねー。あ、運転手さーん、あの車の事は気にせず先に進んで下さーい」


目の前で起きた奇妙な出来事に、信号が青になっても動けずにいたバスの運転手が、寵の言葉に頷き、再発進。

少しざわついていた車内だったが、すぐに元の空気に戻った。


「ンー? アレェ? ここワァ?」


と。

寵が背負っていたモノ――昨日喫茶店に居た外人少女のアニーが目を覚まし、キョロキョロと周囲を見て。


「フワッ!? おんぶされてるデスッ。ドウシテッ? メグムいいニオイッ」

「忘れたの? さっき君ンとこのバスで話してた時、『あとで龍湖達とも話したいデース』って言ってたっしょや。連れて来てあげたんだから感謝しろい」

「アニーさんっ。そういえば隣のクラスでしたねぇっ」


キャーおひさーと手を合わせる龍湖とアニーはこうして見るとイマドキの若者だが、どちらも生涯が笑えないレベルで壮絶過ぎる。

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