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龍湖と寵が喫茶店から出た後、アタシ達は今後の方針を練り直した。
オヤジの懸念通り、世界が違いすぎるあの相手に、ウチらは為す術が無い事。
一先ず、龍湖と仲良くしていれば相手も下手に動いてこない(希望的観測だが)であろうという事。
あれほどの力を持った奴がウチらに関わってくるメリットが謎な以上、手の打ちようが無いという事。
目下……まずは、どうにかして『テーマパークへの入場』を目指そうという話に。
あれだけ派手に絡んで来たんだ、暫くは寵と会う事も無いだろう、と。
そう思っていた。
——だというのに。
「まさか、早速翌日に寵さんが学校に来るとは思わなかったっすよねぇ」
「ああ……」
野郎、何を企んでやがる。
おちょくりに来たなんてだけの目的じゃあ流石に……、……いや、ありそうだから困る。
そんな件の寵だが、現在 「イェーイ」 と女子達に囲まれて何故か写真撮影会を始めていた。
テーマパークの制服だとかいう、西洋の村娘風コスなんて目立つ格好な上にあの人目を惹く見た目だから、囲まれるのも仕方がないが……
広告を見て、知ってる奴は知ってるという有名な広報でもあるようだ。
「あわわわ……寵さんが学校に……! け、けれど人混みで近付けませんっ」
「龍湖さんはいつも家で会ってるから良いじゃないっすか。ていうか今更っすが、年頃の男女が同棲してるなんて、ふ、不純っす……!」
「そうなんですか? 龍湖と寵さんは普通に生活しているだけですよ?」
「ほ、本当に? 家ではあまりくっ付いたりしてない、と?」
「せいぜい一緒にお風呂に入ったり同じ布団で寝ているくらいです」
「行くとこまで行ってるっす……! な、なら、尚更ここで絡む必要ないっすよねっ」
「それとこれとは別腹ですっ。龍湖は常に飢えているのにっ、目の前にご褒美をぶら下げられたら我慢など不可能ですっ」
「意外と肉食系っす……」
「——やぁみんな、昨日ぶり」
「ふぁ……!?」
突然、音も無く背後に立たれ、ポフンッと頭に手を置かれる感覚に、思わず声が漏れてしまう。
が、今回は咄嗟に舌を噛み、意思を保って、
「きゅ、急に触んな!」
背後に、殺す勢いで肘打ちを放つも、当然のように空を切り、
「やっぱりJKだらけの空間は空気が美味しいよ(ポンポンっ)」
「はふんっ」「んふー」
変態くさいセリフを吐きながら、今度は樹と龍湖の頭を撫でていた。
「構われないで寂しかったかい、妹達よ」
「ぅぅ……いつから私達が妹になったっすか……?」
「僕より年下の女の子はみんな妹さ。あ、弟はいらないです」
「世界のお兄様です……! でも、龍湖だけのお兄様になって欲しいという独占欲も……!」
「アホな遣り取りやめろ。それより……寵。お前、ウチらをテーマパークに招待って、マジに言ってんのか?」
「マジだよぉ。こんな機会滅多にないぜぇ? あー、でも、龍湖はもう行ってるし、君達も旅行は『行かない』んだっけ?」
なんで知ってんだよ……まぁ、考えても無駄だ。
「いや、気が変わった。招待されてやる」
「石榴さん!? そんな、勢いで決めて!」
「早いも遅いもねぇよ。こいつ相手に『時間』は無意味だ」
「(フゴフゴ)二人は行くんでふねっ。龍湖も勿論行きまふ! 寵さんの居る所ならどこへでほっ」
「龍湖さんも調子がいいっすねぇ……って、寵さんの『後頭部に顔くっつけて』何やってんすか……」
「こうやっへ頭皮の匂いを嗅いでると落ち着くんでふ(フゴフゴ)」
「そ、そっすか……」
「君らも来るの? なら歓迎するよ」
さて……勢いで言ってしまったが、明日、か。
準備、という準備は無いな、何泊するか分からんが。
リモコンは持って行くべきか? 相手方を刺激しないか? そもそも通用する『世界』なのか?
情報が無さすぎる。
組織の人間が、アレからテーマパークについて『行ったという奴のブログ』なり『SNS』なりで調べてくれてはいるが、どれも真偽の判断がつかない情報ばかり。
自分の目で見ろ、と言われているかのよう。
このまわりくどい嫌がらせ感は、寵の奴が好きそうだ。
「じゃ、話が纏まった所で……はーい(パンパン)皆さん席に着いて下さーい。今からこのくっそ分厚いパンフレットという名のカタログを配りますんで、目を通しておいて下さーい」
手を叩き、教師のように振る舞い出す寵。
こういう場には慣れているのか、周りをコントロールする動きは様になっていた。
そして、前の席から送られてくる本当に分厚く重いパンフレット、まるで辞書だ。
有難い。
ホームページにはこれのPDFすら無かったので、確実な情報にやっと触れられる。
マップ、アトラクション、店の情報……
ウチらの界隈からしたら、これだけでも特級蒐集品並の価値がある本。
帰ったらコピーして、組織の奴らにも配ろう。
さて……中身に驚く心構えは出来ている。
アタシは、腹に力を込め、ページをめくった。




