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翌日。

学校、昼休み。


「はぁ……」

「おや、ため息なんてついてどうしたんですか、【ザクロ】さん」

「フレンドリーに名前で呼ぶな。周りにもぜってぇ言わせねぇのに会ってまだ数日で馴れ馴れし過ぎる」

「そっすよ! 私も石榴さんをザクロちゃんって言いたいのに!」

「樹さんも呼びたいのならば呼べばいいのに。同世代の方々との距離感は難しいですねぇ」


悩ましげな息を漏らしつつ頬に手を添える少女。

雨宿龍湖。

数日前、突然ここに転校して来た、空色の長髪が特徴の個性的な奴。

容姿端麗な上に明るい性格で、すぐに周りの奴らを虜にしていたが……何故かアタシらとつるみ出した。


「龍湖、昨日調べましたよ? 着崩した制服と琥珀のような髪色……ザクロさんはジャンル的に『褐色ギャル』ってやつですねっ。そういう人達は基本的に頭空っぽらしいですが、ザクロさんは知的な感じですっ」

「ぶん殴られてぇのか」

「ギャルでもあるしちょいとヤンキーも入ってるっすね! 私にドストライクな属性っす!」

「お前も黙れよ……ったく」

「学校という場に就学出来たのは生まれて初めてですが、やはり楽しい所ですねっ。こうして友人も出来て……『あの方に言われた通り』です」


……これだ。

ゾクリと、肌が粟立つ。

こいつは、時折こんな『陰』を覗かせる。

深淵を思わせる瞳。

その明るい性格とは折り合わないのに、妙にしっくり来る年不相応な『色っぽさ』。

――こいつは、隠す事なく『あの村出身』とアタシ達に告げた。



その村は誰も、というか、どの組織も認知出来なかった『存在しない村』。

そこを(この界隈で)認識出来たのは、ウチの組織の奴が初めてだろう。

そいつは『感覚が鋭く』、匂いや音や肌で【蒐集品】の在り処を探り当てられる貴重な人材で。

そんな奴が、別件でとある山を調査していた時に偶然辿り着いたのが、その村だ。


龍泉りゅうせん村】


そいつは、足を踏み入れた瞬間『異常だ』と全身で感じたらしい。

『荷造りをしていた』村人を一人見つけ、そいつは迷った登山客を装い、話を聞いた。

なんでも――村は数世紀ほど、買い物の時以外は外部と関わりを持たなかったらしいが、ここ最近、『色々あって』人が外に出るようになったという。

その村人も、その日で村から市内に越すのだと。

すっかり、もぬけの殻となった村。


何があったのか……村人は濁すばかりで答えてはくれなかったが、絶対に何かあると確信を持ったそいつは村人に許可を得て、村を少し散策した。


村全体から放たれる『蒐集品の気配』。

そいつは、特に強い場所を求めて歩いて……辿り着いたのは『湖』だった。

結局、それ以外の情報は無く、こっちに戻ったそいつは、その事をアタシ達に報告する。

撮った湖の写真を見ただけで、アタシ達も『何か』を感じて。

後日、改めて調査に向かおうと話し合っていたのだが……


その翌日。


転校生が来て、クラスメイトの前で『龍泉村出身』と告げたのだ。

当然、周りはその村を知らず『どこかの田舎から来た美少女』という認識でそれ以上の追求はしなかったが……

アタシと樹は、その事実以上に、転校生を見た瞬間から異様な気配を感じ取っていた。

同名の別の村、なんて線は一切無いと思えるほどに異様な女。

どう切り出そうか、と。

転校生に怪しまれずにどう村の情報を得ようか、と昼に屋上で樹と飯を食いながら作戦会議をしていた時……

「こんにちは。仲良くして下さい」

唐突に、転校生は自ら近づいて提案して来た。

自分で言うのもアレだが、アタシ達は自身が『話掛けづらい』空気を出していると自覚があるのに。

どうも、転校生は『空気が読めない』奴らしい。

手間が省けて助かった、などと楽観的にはなれない。

逆に、都合が良すぎて怪しさよりもまず恐怖を感じた。

それから転校生は、一方的に語り出した、村の事を。


『巫女』、『龍の神』、『盲目』、『止まない雨』、『契約』……


カタギからすればどんな不思議ちゃんかと……『不思議ワード』連発で美少女を考慮しても若干引かれそうな自己紹介だったが……残念ながらアタシ達はそれを(表向きでは笑いつつ)信じざるを得ない。

こいつが別組織の奴でこのタイミングで龍泉村の話をアタシらにして動揺を誘ってる、という回りくどい可能性はこの際考えない。

「なんでアタシらに話したんだ?」

ごく自然な反応を装って聞き返すと、

「波長の合いそうな相手には話していい、と言われてるので。龍湖、オーラが見えるんです」

これまた不思議発言……ならば、どれだけ頭を悩ませずに済むか。

こいつの話は、どうも全てガチっぽい。

なら……その龍神様とやらの水の力で能力者になったという村人達の存在も放ってはおけない。

バレたら、他組織の奴らが放っておかないからだ。

「村を出た奴らは、急な生活の変化は平気そうなのか? 手続きとかも色々あるだろ」

我ながら自然な導入。

それに対し、転校生はニコリと眩しい笑顔を見せて、

「ご心配なくっ。我々を【救ってくれた方】が、その後の面倒も見てくださったのでっ」



龍湖は水筒から注いだ熱いお茶を一口飲んだ後、


「ふぅ……そういえば明日、修学旅行というものがあるそうですねっ」

「あー、確か京都とかに行くやつっすよねぇ。私と石榴さんは行かないから関係ないっすが」

「そうなんです?」

「ああ……バイト、で忙しいからな。ていうか、こういうのって二年とか三年になって行くもんだろ? なんで一年のアタシらが行けるんだよ」

「今更っすよ。毎年一回旅行があるという変わった学校っすから」


本来なら学校に通う事すら無駄だとも思ってるんだが……『お袋との約束』だからな。

樹も樹で何か理由があるんだろう。


「なるほど。まぁ龍湖も行かないので一緒ですが(ズズズッ)」

「そうなんすか。あ、積立金の問題とか?」

「いえ。一日たりとも『あの方』と離れ離れになりたくないので……(ポッ)」

「そ、それはそれは……お熱いっすねぇ……」

「あの方には『旅行行って青春してこい』と文字通りお尻をペチペチ叩かれましたが、断固拒否しました」

「容赦無い人っすねぇ。転校してきて数日で男子に『二桁告白』された龍湖さんの尻を楽器がわりにするだなんて……『やはり』只者じゃあないっす」


アホな会話ではあるが、無視出来ない内容でもある。

今は少しでも【そいつ】の情報が欲しい。

他の仕事を後回しにしてでも、今はそいつに集中したい。

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