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■8年■月■日 ■寵(15)
「やぁ寵。産まれたばかりな瓏ちゃんは可愛かったかい?」
「そりゃあ小さい頃の僕だからね。可愛いに決まってるよ。糸奇さんも見に行けばいいのに」
「意地悪を言う。グラが絶対会わせてくれないの分かってて」
「……本来の世界なら、鋏がもうこの世界に居たんだよね」
「そうだね。世界線を移った影響で、存在そのものがこの世界線から消えた。あの子が新たに産まれる事は無いよ」
「……前に九魔さんと話だけど、あの人は違和感覚えてたね。『夢で寵ちゃんと小さな女の子が遊んでるシーンが出たけど、何故だか女の子を私の子供だと認識してた』とかって」
「ウチの嫁は勘が良いからねぇ。伊達に僕の嫁じゃ無いよ」
「きちんと、現実にしてあげなきゃね」
何をしてでも。
大丈夫。
【駒】は増えた。
「ふむ。寵は、鋏を助ける為に今までも色々と異世界に行く方法を試してくれた。アイテム、場所、特殊能力者。しかし、そのどれも、鋏の居る特定の異世界へは行けなかった。
今後、君はどのような方法を目論んでいるんだい?」
「糸奇さんなら、想像つくでしょ? てかその為に『色んな女の子に出逢わせてる』んでしょ?」
「君の口から言って貰うことに意味があるんだよ」
「……無いなら『作ればいい』」
幸福にも、僕にはあの魔王の優秀な血が流れている。
きっと、産まれる子も優秀で特殊な力を持つだろう。
それこそ、『異世界に行く力』だって。
そして、瓏も産まれた。
駒は多いに越した事はない。
「やっぱり、その方向に行くんだね」
「軽蔑する?」
「まさか。君の血はもっと世界に広めるべきだ。僕は元縁の神。素敵な出逢いを提供するのが仕事だしね。
……ただ。
グラは『悲しむ』だろなって」
それが一番辛いだろう? と、糸奇さんは訊いているようで。
でも。
「なんやかんやママンは僕に甘いし、許してくれるさ。それに、この先、瓏を『コピー』したりして悲しませるのは確定だからね。一つや二つ、増えても構わないでしょ」
「こりゃあ確かに。誰にも言いたくないだろうねぇ」




