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■6年■月■日 き■■ ■ぐ■(3)
いない、いない。
どこにもいない。
「どしたの寵? 初めて覚えた『未来視』で何か変なモノでも見えた?」
「え? あの、その……」
こんなこと、しきさんだけには、いえないことなのに。
「もしかして、僕の将来の娘で君の幼馴染こと【鋏】の件かな?」
「っ! そ、そうっ。あんなに、なかがよかったのに……みらいのせかいだと、つるぎちゃんが『いなくなってる』の!」
「はぁ、成る程ね。最後に会ったのは?」
「……かこのせかいにくるまえ、いっしょにおふろに、はいってて……」
「直前までは一緒にいたのね、オーケー。――さて。僕はその居なくなった理由を知ってるけど、『知りたい』?」
まっすぐな、すいこまれるようなひとみで、しきさんがといかけます。
きけば、ぼくのじんせいがおおきくうごきそうな、そんなといかけ。
ぼくは、まよわずうなずきます。
すでに、かこにきているので、いまさらです。
「覚悟は完了してるようだね。じゃあ言うよ。鋏は今、『並行世界』にいる」
「え?」
よく、わかりません。
しきさんのせつめいを、かいつまむと……。
・ぼくがかこにとぶとき、つるぎちゃんも、まきこまれた
・けれど、ぼくとおなじかこに、じゃなく、べつの『せかいせん』にとんでしまった
「原因は、僕が鋏に継承させたであろう『神の力』だろうね。『縁を支配する力』。
この力は、やろうと思えば『並行世界の縁の糸』も捉えられる。別世界の自分や知り合いがどんな生活をしているか覗けたりするんだ。やる理由は殆ど無いけど。
で、今回ばかりは『悪い方』に進んでしまったようで」
かこにとぼうとしたぼくを、つるぎちゃんはとめようとして。
ひっしにてをのばしてつかんだのは、ぼくのうでじゃなく、『べつのせかいとつながるえんのいと』で。
「結果、鋏だけ『並行世界』に飛ばされた。時代的にはここと同じで、君達にとっては十数年前の世界だね。その存在をリアルタイムで感じ取れるのは、同じ力を持つ僕くらいだろう。幸いにも怪我とかは無いみたいだけど、うーん」
「ど、どうすれば、たすけられるのっ? しきさんならっ」
「可能、だったんだけど、その辺のバランスが複雑な事になっててねぇ」
「ふくざつ……?」
「うん。ただの一般人や僕以下の存在なら問答無用にサルベージ出来たんだ。縁の糸を『引っ張れば』、例え並行世界の相手だろうがこっちに連れてこられた。でも今回は『僕と同じ力を待つ神様』。相手が『救出に同意』してくれるんならスムーズに行けたんだけど」
「え? つるぎちゃん、『かえりたいない』って?」
「帰りたくはあるんだろう。けど、そこは『女の子』だからね。加えて、僕の娘だってんならその捻くれた思考も読める。【王子様】を待ってるんだよ。
助けに来てくれるね。言いたい事、わかる?」
ぼくは、うなずきます。
「君の持つその能力の性質上クリアは簡単かもしれないし逆に足枷になるかもしれない。
どちらにしろ、苦しい道であるのは確定だ。姉妹の世話だってあるしね。
それでも。君は鋏の為に、茨の道を進めるかい?」
かんがえるまでも、ありません。
「いくっ!!」
「それでこそ漢や」




