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「そしてこの半年後が今ってわけで……ん?」
「……ぅぅ」
「え。龍湖ちゃん、泣いてる?」
「皆さんが優しすぎるが故に起きた、美しくも悲しいお話でした……。寵さんの優しさの源泉は、全てグラヴィを想う気持ちから来ていたのですね……」
「寵、女の子と仲間以外にはそこまで優しくないけどね。てなわけで、これが寵の過去な訳なんだけど、参考になった?」
「十分です! 今すぐ寵さんを抱き締めたくなりましたっ。戻っていいですかっ? (ふんすっ)」
「うん。そこのエレベーター乗れば戻れるから。僕はも少し残るよ」
「ではっ、失礼しますっ」
「…………行ったか。
はぁ、全く、寵ったら母親の魅力を如何なくモテ力に使ってるんだから。真っ当な使い道だけど。
しかし、まぁ。
確かに寵の目論見はグラの為でもあったけど、
『二つの目的の一つでしかない』
ってのはまだ周りにバレてないっぽいね。
木を隠すなら森の中、とはよく言ったものだ。
『もう一つの目的』を周りに隠してる寵も辛いだろうに。
ほんと。
そんな立派な男の子にそんだけ想われて、【ウチの娘】も幸せ者だよ。
——ね、鋏」




