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「…………はぁ」


僕のため息を、周りは『肯定』と捉えただろう。

そしてそれは、正しい。

でも少し、悪足掻き。


「何でそう思ったの?」

「……ズレている。瓏が産まれてから今現在までの時間に、ズレがある。本来ならばあと72秒経過している」

「成る程。本物と複製に齟齬があると。でもそれはただ、瓏が過去に跳ぶのに失敗して、肉体が少し若返る魔法になった、とはならない?」

「……ならばその際に魔力が減っている。だが、コレに内包する魔力に増減は無かった」

「そんなの僕らの力なら幾らでも調整……、……うん、こんな議論は不毛だね。よくぞ見抜きました」


降参とばかりにホールドアップすると、今まで黙っていた仲間の皆さんが騒ついて、


「な、なんでやメグ坊!?」「グラヴィ様の覚悟は貴方が一番理解出来る筈!」「まぁ何かやらかすだろうとは思ってましたけどもねぇ」

「落ち着いてみんな。誤解して欲しく無いのは、瓏は確かにキチンと過去には飛んでる、という事。だから僕らの過去の輝きが失われたわけじゃないんだ」


僕の複製の力は無から有を産み出すわけじゃない。

僕がした事は、過去に跳ぶ直前の瓏を引っ張って来ただけ。

過去や未来に干渉してもなおズレ(タイムパラドックス)が起きないよう緻密な調整を一瞬でこなせるのが力の真髄。


「確かにこの子はさっきコピペした瓏だけど、【紛い物】でも【似た何か】でも【コレ】でもない。しいて言うなら、【別の可能性】かな。ま、三歳なのは変わらないから別の形で試練はあるんだろうけど……てなわけで皆、新たな可能性に満ちた瓏を温かく見守ってやってね。じゃ」

「待て! 納得出来るわけがない! 話は終わっとらん!」

「僕は全てをゲロったけど?」

「まだ重要な事を聞いて無い! ——何故! 『こんな事』をした!」

「それ、言わせる?」

「言え!」


そんな声を荒げられても……正直言いたくねぇなぁ。

ちょっとウチのママンは、相手の心情を理解する力が欠けている。

周りのみんなは『解ってる』だろうから、代わりに言ってくれねぇかなぁ。


「こんちはー」


と、ここでタイミング良く救いの手が。


「おーおー、記念日だってのに良い感じに盛り下がってらっしゃる。その様子だと……やっぱり。『手筈通り』上手くいったようだね、寵」

「おかげさまで」

「貴様糸奇! 我が居住に近づくなとあれほど——いやそれより『手筈通り』じゃと!? やはり貴様が手を引いていたか!!」

「おーおー、興奮してらっしゃる。君がすんなり納得しないのも手筈通りだよ」

「貴様は……! いつも……! 自分の掌の上のように……! 我らの誇りを愚弄して……!」

「興奮し過ぎだよグラ。勘違いしないでくれ。今回の計画、確かに僕も手を貸したけど、主導はやはり寵だよ」

「何の為にじゃ! 我の滑稽な顔を見る為か!」


すると、糸奇さんは少し怒ったように眉を顰めて、


「流石にその解答は僕も引くくらいの母親失格ぶりだぜ。寵は『君を寂しくさせない為に三歳の頃から』この計画を練ってたってのに」


「————は?」

「やっぱり、分かってなかったか」


糸奇さんは肩を竦めた後、周りのパーク関係者に目をやって、「他のみんなは寵の動機に気付いてるだろうけど」と前置きし。


「さっきも言ったけど、僕が手を貸したのはほんの些細な部分だけだ。僕がまだ神様だった頃、

『縁の力』を使えた時期に縁を弄って『君達が確認するであろう今日という未来を誤認させた』、それだけさ。この結末を阻止されないように、ね」


瓏を抱えたまま、さっきのママンのように壁に背を預ける僕。

解説は嫌われ者の糸奇さんがこの上ないほどに適任だ。


「寵がこの計画を僕に相談しに来たのは一五年前、寵が僕達の前に現れた『次の日』だ。姉妹を拾った日でもある。

その日の夜、『まーをひとりにしたくない』と、決意した男の顔で相談に来たんだよ」


そうだったっけ?


「考えてみな。三歳児が、誰も自分を知らない世界に来て、赤ん坊の世話もする事になって……なのに、

『未来の母親に寂しい思いをさせたくない』と決意したその覚悟を」


子供だったしそこまで深く考えてなかったような。


「今まで『魔法が使えない』とピエロを演じてた理由も分かるだろ?

全ては『この結末』を察せられないようにする為。母親の笑顔の為に仲間全員を騙してたんだ。泣ける話じゃないか」


バレなさ過ぎて魔王軍の危機管理能力を疑うレベルだった、仲間相手でも少しは疑え。


「ふんふん、成る程、少し『過去を見てみた』けど、寵ったら事前にみんなの前で複製の魔法を見せてたのね。律儀に。

いい? みんな。なんでわざわざ『みんながいる前でそんな事を』したと思う? 別の日でも良い筈だし、誤魔化すことも出来た。これでは非難は免れない。

その理由は簡単。非難を受けるつもりだったからだ。ボコボコにされるくらい構わないと思っていた」


流石にボコボコは勘弁。

この人達の攻撃、普通にダメージ通るし。


「大罪を犯した寵への制裁を、グラは止めないだろう。主人を悲しませた男だぜ? 君達は気兼ねなく罰を与える事が出来た。

なのに、未だに寵の顔は綺麗なまま。

ここが寵のあざとい所だよ。

殴られる覚悟はあるけど、同時に、殴られないだけの信頼も築いていたんだから。

二重の意味で自分を人質に取ってる。

そして寵の予定通り、君らは寵を殴れない」


痛いのは嫌だからね。


「分かってるよ、分かるってばよ。『この結末』を君達だって夢みた事があるくらい。

寵を責められない。

例えグラに八つ裂きにされようと、そのグラの為に、瓏を『どうにかしよう』と考えたりした筈だ。

君達だって今やどの異世界でも魔王をやれるくらいの実力者。

寵より上手くやれるだろう。

でも、君達はやらなかった。

いや、違うな。

『やっていいのは寵だけ』と君達はどこかで期待してたんだ。

正直になりなよ。

みんな、寵にここまでさせてしまった罪悪感と、同時に、この結末に『ホッと』もしてるんじゃない?」


周囲から僕に視線が集まっているのを感じる。

僕は既にターンエンドだから何も言わないぞ。


「もうみんな受け入れようぜ。母親思いな寵がここまで演出してくれたんだ。

例え今から君達が『何か』しようと、凡ゆる可能性の対策は『終わってる』。

構想十年以上だぜ? みんな、寵に詰まされてんだ。

——これは、簡単な話さ。

『そこの』瓏は過去には行かなかった、だから引き続き皆で愛そう。それだけ」


僕の言いたかった事を殆ど代弁してくれた糸奇さん。

なんだけど、基本糸奇さんは魔王軍にメッチャ嫌われてるから、幾ら普通に話してても煽りにしか聞こえないようで、皆の苛立ちが目に見えて伝わってくる。


「……貴様、いつまで我が居住で偉そうにほざいとる。誰も貴様の講釈なぞ聞いとらん。早く消えろ。これは我ら身内の問題じゃ」

「へいへい。ああ、最後に。——きっと、過去に行った瓏もそこの瓏も、似たような場面に遭遇したら寵と同じ事すると思うから……

あまり『息子を舐めるなよ?』」

「消えろ!!」

「はーい。じゃーねーみんな、じゃーねー寵。あとまだ会話させて貰えない瓏。お誕生日おめでとー」


スタコラサッサと糸奇さんは去って行った。

ああ、誕生日だったな、そういえば、今日は。

瓏のと、僕の。

帰ってから改めて姉妹に祝って貰わなきゃ。

あと、今度運転免許取りに行かなきゃ。


「ん……んー? あれー? ぼく、おふろにいたのに、ねてた?」


と。

母親の怒号で、瓏が起きてしまった。

良いタイミングだ。


「うん、寝てたんだよ。あとは歯磨きして寝ましょうねー、はい、ママン。あとはよろしく」


ママンは拒否せず、何も言わずに瓏を受け取る。

怒りも喜びも感じないが……ただただ悲しい瞳。

僕も、瓏も、みんなも。

もう先に進むしかないのだ。


「にー、かえるのー?」

「帰るよー。また明日ねー」

「んー、ばいばい」


誰も僕を引き止めはしないだろう。

ビターエンドとなったこの物語も、誰も止められない。

温めてきた全ての作戦をやり遂げた僕はリビングから出ようとドアノブに手を掛けて、


「——この、大莫迦者がッ……」


立ち止まる事なく、妃家を出た。


——はぁ。

やめてくれよ。

怒られるより、無反応より。

母親のそういう絞り出すようなか弱い泣き声が、一番クるんだってのに。

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