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31年◯月◯日 妃 寵(18)


「ふーっ」


主役がケーキに立つ三本の蝋燭の火を消したのを確認して、


「瓏ちゃん三歳の誕生日おめでとーっ。かんぱーいっ」


カンパーイッ!

広くもないリビングを埋め尽くす大人達が、僕に続いて一斉にグラスをかかげる。

この通り、今日は瓏の誕生日。

例年通りであるならば、パークにある城の中で盛大に、なのだが……今日は『特別』だ。


日本には、七五三という『その歳まで生きてくれた』子供を祝い成長を祈る行事があるが、竜族にも『必ず試練が降りかかる年齢』というのがあって。

その通例? ジンクス? 呪い? の始まりが三歳なのだ。

よって今日は、壮行会も兼ねている。

例によって、本人は何も知らない。


「んー? どしたー瓏ちゃん。主役だってのに上の空って感じで」

「え? ぼく、ぼーっとしてた?」

「ふふん。女の子の事でも考えてたんでしょ? しかも年上の」

「っ! なんでわかるのっ」

「君の事は『自分の事のように』分かるよ。で、どんなお姉さんだった?」

「な、なんか、ねこみみおねえさんと、かみがきらきらおねえさんっ」

「んー、聞いただけで美人を連想させるねぇ」


——仕込みは無事、機能したようだ。

全てのきっかけ。

僕の時と同じように、瓏も出会った綺麗でおっぱいのデカイお姉さん二人組。

思い返せば。

僕の時も、僕の前に現れたのは【猫仔と玲玲】だった。

前後関係は分からないが、姉妹はその時も誰かに助けられ、成長し、幼き僕に会いに来たのだ。

いや……誰かじゃない。

その時も、別の僕が助けたんだ。

自身を過去視で確かめようと思えば出来るが、するまでもない。

僕であるならばどんな時空の僕であろうと、あの役割は誰にも譲らないだろう。

幼き僕は別の成長した僕とは会わなかったけれど、その役割が変わる事は無い。

因みに……分かってはいたが、姉妹に『瓏をナンパしろ』、と頼んだ時は、二人とも渋い顔を見せた。

言わずともその意味を察する二人。

だってそれは一人の男の子を(ある意味)知人一人居ない過去という別世界に飛ばせ、という意味と同義だから。


『すぐに君達と出逢えるから寂しくない』


と説得しても逆効果で、どうも自分達の所為で僕が犠牲になったと考えてしまうようだ。

だが、


『君達以外でも可能だけど、役目(責任)を別の子達に譲って(放り投げて)いいの?』

『二人共、僕以外の奴に拾われてもいいの?』


と脅すと、渋々了承。

僕の人生が姉妹ありきなように、姉妹の人生も僕ありきなのだ。


「またすぐ会えるよ。僕が保証するぜ」

「ほんとっ?」


パァッと顔が明るくなる瓏。

自分の誕生日より嬉しそうだ。


「余計な事を言うな」

「あっ、まーっ!」

「お前がその呼び方で呼ぶなっ」


裏声で瓏の声を再現したのに。


「ほら瓏。お前の好きな洋梨のタルトを持ってきてやったぞ」

「わーいっ」

「だからお前にじゃないわいっ」


気持ちも表情も瓏になりきってたのに。


「そらロー坊っ、肉も食え肉もっ」「ふふ、貴方の好きなおそばもありますわよ」「瓏の欲しかったゲームもあるでっ」

「わーっ、いたれりつくせりーっ」


主役らしくチヤホヤされる瓏。


「(ヒソヒソ)ママンもそうだけど、ちょっと露骨に構いすぎじゃない? 誕生日とはいえ怪しまれるよ?」

「(ボソッ)考え過ぎじゃ」


そうかなぁ? その詰めの甘さ、命取りになるぜ?


「ワッハッハ! ロー坊! お前はメグ坊みたく『落ちこぼれ』になるなよー?」「まさか、『あの時以来』……ごほんっ。時魔法を『使えない』だなんてねぇ」「体術やその他の方面では問題無いんやがなぁ」


調子に乗って僕にダメ出しするパークのみんな。

そんなみんなだが。

姉妹を瓏に会わせるという、堂々とした僕の仕込みを、ママンもパークのみんなも、一切止めなかった。

忘れてる筈無いのに。

昔、僕から直接『今日の事』を聞いてるのに。

コレが『正規ルート』だと信じて疑わないのだ。

瓏に試練を与える大役を、任されている。

それだけ、僕はみんなから『信頼』を得ている。


『予定通り』に。


「むー、にーは、おちこぼれじゃないっ!」

「ぐすん……僕を庇ってくれるなんて泣かせてくれるぜ瓏ちゃん。そんな君には僕からプレゼントだ。後ろ向いて」

「え? うんっ」


僕に背中を見せる瓏ちゃん。

僕を真似してか、お尻あたりまで髪を伸ばした髪がサラリと揺れる。

その長髪を手に取り……キュキュッと。


「はい、終わり」

「え? なーにー? (いそいそ)あ! これ! にーと同じ【りぼん】!」

「そ。【竜の髭】。竜から一本しか生えない触覚。僕が昔ママンから貰った『世界で一つだけ』の魔法アイテムさ」

「いーのー? あれ? でも、いまもにーのかみに『おなじの』ついてる……?」

「うん。それは僕がさっき作った『複製コピー品』だからね」

「んー? まぁなんでもいい! おんなじなのうれしい!」


ぴょんぴょん跳ねる瓏。

皆がその姿を見て和む中……「少し見せてみろ」と、怪訝な顔をしたママンが、瓏の髪に手を伸ばす。

ちっ、流石に勘がいい。


「……どういうことじゃ? 『全く同じ』物……。貴様、これをどう『複製』した?」

「そら魔法よ。コピー&ペースト。転写と貼付。この世界を『ワードソフト』に見立てて『静と動・進と退』を支配してはじめて実現可能な時魔法複合技さ」


——ざわつく大人達。

少し、不穏な空気。


だがもう、『遅い』。


「どういうことだメグ坊?」「魔法は使えなかったんじゃ……」「そんな高難易度の魔法を……何故隠していたんですの?」

「ふふん。いざって時に無能のふりしてたやつが、隠してた力を見せたら盛り上がるでしょ?」

「今は『その時』じゃなかろう……」

「みんな、どーしたのー?」


呆れ顔のママンと、よく分かってない瓏。

そう。

みんなよく分かってない。


今が『その時』だってのに。

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