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28年◯月◯日 妃 寵(15)


扉の奥から赤ん坊の泣き声が聞こえて来る。

ふと、姉妹を拾った時の事を思い出した。

まさか、僕の方が子育ての先輩になるなんて、おかしな話だ。


「(ガチャ)入っていいですよ、寵さん」


扉から顔を覗かせるプランさん。


「今更だけど、僕が入ると『おかしな事』にならない?」

「気にしないでいいのでは? さ、どうぞ」


ソファー、から腰を上げ、部屋の中へ。

室内は少し、熱っぽさがあった。


「珍しく弱ってるみたいだね。今なら簡単にプランテーションを乗っ取れそうだ」

「ふん……貴様にそれだけの野心があれば、この先の心配事は無くなるんじゃがな」


ベッドの上で疲れ顔を見せるママン。

しかしその顔には達成感が滲んでいた。

そして、ママンが抱える【それ】に視線を移して、


「そこで眠ってるのが【僕】かい? 当たり前だけどカワイイね」


少女にしか見えないママンが赤ん坊を抱える様は背徳的にしか見えないが。


「貴様なわけが無いじゃろう……一緒にするな」

「それはそれで無防備すぎるぜ。なんで他人の僕にいの一番に産まれた子を見せようと思ったのさ」

「ふん……気紛れじゃ」

「綺麗だった髪もこんなに乱しちゃって……ジッとしててね」

「こ、こらっ、勝手に手櫛で整えるなっ……」

「それでも抵抗しないところを見ると、相変わらずグラヴィ様の寵さんに対する好感度は振り切れてますね」


と パチリ。

眠っていた赤ちゃんが目を覚まし、僕を見て、


「に? にー、にー」


こちらに手を伸ばすように腕をパタパタ動かす。


「おや、寵さんをもうお兄ちゃんだと理解してるようですよ。それどころか既に首もすわって喋ってますし。賢さと成長の早さは、やはり血ですね」

「いやプランさん、流石に無理がない? 胎教代わりに何度かお腹に話かけた事はあるけど」

「十分ですよそれで。妃ことクイーンの血筋であるならば」

「にー、にー」

「むぅ……余程貴様に物申したいと見える……仕方ない……特別に触れさせてやる」

「産後の家猫ですら飼い主に警戒するってのに。何が楽しくて自分を抱っこしなきゃなんだ……おーよしよし。赤ん坊抱っこするのも久し振りだぁ」

「あー、あー」


破顔しキャッキャと体を揺らす赤ちゃん。


「ママンに抱っこされるより嬉しそうじゃん。これもう僕の息子だろ」

「わけがわからん……」

「赤ちゃんはお手の物だからね。僕で困ったら僕に訊いて」

「疲れてるんじゃから頭を混乱させるな……」

「当然、名前は寵ちゃん、だよね?」

「……誰が同じ名をつけるか……貴様より数段も優れた存在じゃよこやつは」

「まぁ確かに。僕があの日タイムスリップした時点で歴史が変わってるから、例え同じ日に産まれた子供だとしても、それは別人と言えるかもね。 ママンのメンタルや食べた物も僕を産んだ時とは違うだろうし。『船の部品を全て入れ替えても同じ船と言えるのか』……テセウスの船のパラドックスに近い」

「なんの話じゃ……」

「そも、僕は僕の事そこまで好きじゃないのに、この子に気に入られてる時点で完全に別人だ。で、肝心の名前は?」

「子の名は————瓏、じゃ」

「え、なにそれ、キックとか車のギアの種類? ……ああ、あの字か。名前に龍を入れる縛りでもあるの? まぁ、めぐむ、なんて女の子みたいなのよりは良いのかな……いや? 実はこの子、逆に女の子だったり? (チラッ)ちんちん付いてんじゃねぇかっ」

「我は何も言っておらん……」

「ま、男の子で安心したぜ。おー、よしよし瓏ちゃん。君も沢山の女の子を誑かして妃の血を世に広めるんだよ」

「おかしな宿命を負わすな……こやつは捻くれ者にならぬよう真っ直ぐに育てる」

「僕が失敗作みたいじゃないか、否定しないけど。——で、今日呼んだのはその子を見せる為だけ?」


訊ねると、ママンはゆっくり、窓の方に視線を向けて。

「貴様、こちらに来たのは年の頃三つの時だったな。確か、誕生日の日だった、と」


「よく覚えてるねぇ。そう、『今日から三年後』だ」


訊ねておいて、特に何も返さないママン。

だから僕は、追い討ちをかけるように。


「別に、『阻止』してもいいでしょ。どうせタイムパラドックスなんて置きんよ。時間のエキスパートでしょ、ウチら」

「なんの話じゃ……、……別に何が起ころうとも我は何もせん。竜の子供は、例外無く幼少期に『試練』を受ける事になる。親はただ、見守るだけじゃ」

「強情だなぁ。ま、結果こんなイケメンに育つんだから安心する気持ちも分かるけど」

「……貴様には関係の無い話じゃよ」

「あっそ」


成る程、予想通りだ、ママンの決意は。

だったら……僕がこの先『しでかす事』を、きっとママンは怒ってくれるだろうな。


「さ、めでたい日に辛気臭い話はこれまでにして、みんなで記念写真撮ろうぜ。プランさんも」

「喜んで」


スマホを掲げ、自撮りモードに。ママンと瓏を中心に両端を僕とプランさんで挟む。


「な、なにを……我が『それ』を苦手としているのは知っておろう……」

「知らんっ。ママンが弱って逃げられないうちに、ハイチーズッ(カシャ)……よし。後はコレを広報の仕事としてパークのブログにアップしよう」

「晒したら殺すぞ貴様……」

「おーこわいこわい。じゃ、挨拶も済んだし僕はもう帰るよ。瓏ちゃんもママンの元へお帰り」

「やー!」

「な、なに……! 瓏よ、さぁ母の胸に……」

「やっ! にー!」


首を振り、離れまいと僕にしがみつく瓏。新生児とは思えぬ握力。


「貴様……寵……!」

「理不尽な怒りだ」


——その後。

流石に産まれたばかりの子供、すぐに疲れ果てて眠りに落ち、僕は解放された。


「暫く顔を見せるなっ」と嫉妬したママンに捨て台詞を吐かれながら。

家に帰って姉妹に瓏の写真を見せると、「ニャー! 可愛スギィ!」「天使とはまさにこの事ね……」と大絶賛。

早く会いたいと口にしていたが、残念。

会えるのは『三年後』なんだ。



「なるほど……これで、あの時の寵さんの反応も、納得です」

「ん?」

「寵さんと初めてパークを周ったあの日……グラヴィ様と戯れる瓏ちゃんを見て『弟みたいなもの』と、少し引っ掛かる発言をしていたんです。まさか……瓏ちゃんが、寵さん本人だったなんて」

「んー。既に本人かどうかは、日記の通り微妙なラインだね。何を持って同一人物とするかの認識は個人差ありそうだし」

「となると……いつかは瓏ちゃんも寵さんと同じく過去へ飛び、再び猫仔さんと玲玲さんを……そして、龍湖を、再び救ってくれるのですね」


「ああ、それに関しては……、……うん、まぁ、続きを読もうか」

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