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――とまぁ。
コレが、私達『家族』の平均的な一日。
今日はキモチ騒がしかったが、このイベント発生率もそう珍しくない。
兄と関わったあの日から、息をするように『不思議』に触れ、既に不思議ではなく『日常』と思えるくらいには巻き込まれて来た。
全てが順調とも言えず問題だらけの日々だけれど、崩れて欲しくもない日々で。
私達にとっての全ての起点は、兄。
兄さえ大人しくしてくれれば、このままでいられる。
だがいかんせん、王の血を引く兄は『主人公体質』という業を背負っていて。
本人の意思に関わらず、気付けば問題事の渦中に居たりする。
その質は、今日私が巻き込まれた『不思議』の比ではないほど濃密で。
問題が解決した後は、必ず、兄に惚れる【ヒロイン】のオマケ付き。
大抵の場合、兄はハッキリと断って話は終わる(終わらぬ場合もある)のだが……。
全く、猫仔もそうだけど、こんな男のどこがいいのか。
剽軽でフワフワしていて掴み所がないキャラ。
突拍子もなく一貫性もないテキトーな性格。
……だがまぁ。
こんなでも、一応は、私達が認めるだけはある男。
金も地位も名誉も力も美貌もある男。
何より、うざったいほどの愛を注いでくれる男。
『あの日』、私達を抱きしめた兄の温もりは、今も覚えている。
そも、私達が一般男を生理的に毛嫌いするのも、兄が基準を上げた所為だ。
兄のような昔から何でも出来る男を普通と育ってしまった所為で、それ以下は見るに値しなくなった。
兄の所為で、目が肥えた。
……おっと、これではベタ褒めしてるみたいじゃないか。
つまり、何が言いたいかというと……兄には、息を吐くようにヒロインを増やして欲しくない、という事。
殺意の波動を纏った猫仔を抑える私の気持ちにもなって欲しい。
どうか、この先も、何も変わりませんように。
【前前日譚】
「レイ。もう夕方なのにお兄から連絡ない」
「山でのたれ死んでるんじゃない? ま、実際は電波ないとこにいるんでしょ」
「……嫌な予感する」
「いつものことじゃない。心配しないでも明日にでもケロッと帰って来るわよ」
「お兄の安全的な心配とは少し違くて……」
「――そうそう。明日帰って来るから心配要らないよ」
「ゲッ」
「し、糸奇さん……いつの間に」
「ゲッて。そんな露骨な反応せんでも。おっさん泣いちゃうよ?」
「お、お兄は今どこに?」
「うん。ちょっと山奥にある村で一泊するみたい。連絡無いのは御明察の通り、あっちが圏外だからだね。僕の方から、二人が心配してるってメールは送っとくよ」
「……圏外じゃないの?」
「そうだけど?」
「猫仔。この人に物理法則通用しないの知ってるでしょ」
【現在――午後――】
「ほらこっち来て。……えー、この子が今日からウチに住む事になった龍湖ちゃんです。この二人が件の僕の妹? の玲玲と猫仔だよ」
「わー、初めましてっ。先日、寵さんに救って頂いた雨宿龍湖で……あれ? あ、貴方達は今朝のっ。ありがとうございますっ。お陰でこうして寵さんに再会が出来ましたっ!」
「知り合い? なら話は早い。いいかい龍湖。ウチの姉妹は君と同い年だけど、君と違ってこの世界の常識に染まった気難しい年頃だから、グイグイ行かないようにね?」
「龍湖は兎に角、お二人と仲良くなりたいですっ。寵さんを愛す者同士としてっ!」
「そういうの分かるの?」
「はいっ。気の流れを見れば明白ですっ。玲玲さんっ、猫仔さんっ、改めて今後ともよろしくお願いします!」




