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その後私達は、
闇の双六——止まったマスに書かれたイベントが実際に起こる——を遊んだり、
闇のゲームブック——ゲームマスターが考えた世界観に飛び込んで各々自由な役職でトップを目指す体験型TRPG——を遊んだりして……
図書館で騒がしく異色なゲームを楽しみ瓏も満足したかと思えば、建物を出た直後「『あそこ』で遊びたいっ」と我儘を言い出して……
キィッ! キィッ!
「あははっ、はっげしぃー!」
「オラオラッ、こんなん序の口やぞっ」
兄弟はいたって普通の公園に飛び込み、いたって普通の遊具で楽しみ出した。
が、そこはいじめっ子な兄、優しく弟を楽しませるわけが無くって。
——ブランコに乗った瓏を力一杯押して振り子の限界に挑んだり(時には一周させ勢いで瓏が飛ばされたり)、
——グローブジャングル(回転する丸いジャングルジム)にしがみついた瓏を力一杯回したり(時には遊具が回転したまま外れコマの様に地中深く沈んだり)、
——シーソーに乗った瓏を反対側から勢いよく揺らしたり(時にはロケットのように空へ発射させ雲を突き抜けさせたり)……
そんな意地悪されても、瓏はキャッキャと楽しそう。
母親と同じくらい兄が好きなだけはある。
因みにその母グラヴィさんは、兄を怒るでもなくオモチャにされる瓏を静かにベンチで眺めていた。
そういう『教育方針』なのだ。
……このように、遊具だけ見れば普通な公園。
現実世界では危険と撤去された類の遊具もいくつか置いてあるが、他に特色の無い遊び場。
こんな色物ばかりのテーマパーク内では逆に異質な存在だが、子供達には『れとろなかんじがいい』と人気のスポットらしい。
今もチラホラ、自由奔放に遊ぶ子供達の姿が見えて。
中には、瓏と同じ保育所(テーマパーク内にある)の子達も居たようで、兄弟の遊び姿が目立った結果、ぼくもわたしもと兄の元に集まり出した。
危険な遊具を危険に使っていたので普通は止めるべき……だが、『あの保育所』に通うガキの殆どは、パーク関係者を親に持つチビ達なわけで。
つまり、瓏と同じく頑丈なんで、まず怪我などしない。
「おー。お兄、ガキどもに人気だねぇ。蜜に群がるアリみたい」
「たまに保育所に顔出してガキどもいじめてるらしいから、顔覚えられてるんでしょ」
「お兄取られて瓏がほっぺプクーってしてる。かわいい」
そして始まるガキども VS 兄の遊び勝負。
ドッチボールや鬼ごっこ、缶蹴りという一見可愛らしい普通の遊び。
だがそこは先述した通り、ガキどもも普通でない——化け物の子供という——面子。
その遊びの光景たるや、まるで『皆で協力し兄を殺そう』という勢いの、宛ら異能バトルの様相を呈していて……
しかし、そこは現役の悪童たる兄。
降り掛かる殺意という名の無邪気を軽くいなし、ガキどもをバッタバッタと文字通りに吹き飛ばしていく。
死屍累々。
ゲーム終了後は、毎度子供達が地面に転がっている光景が当たり前になっていて……
『あっはっはっ!』『またまけたー!』『つぎだつぎだー!』
けれど、ガキどもは倒れながらもケラケラ楽しそうに笑う。
まるでさっきの瓏と同じ反応。
ガキ相手に大人気なくボコボコにして勝利した上でガキを楽しませる……この技術は流石だ。
技術というよりセンスや才能と言えばいいのか……強いて言うなら、兄の持つ空気感が周りを惹きつける。
本人はそんな意識、一切無いのだろうが。
こういう『自然と子供を楽しませられる』奴が、面白い絵本が作れたりするのだろう。
「昔は、ネッコらもここで、三人で遊んだね。なんだかノスタルジック」
「ほとんど覚えてないわよ、そんなの」
「昔のレーは素直だったから、今のローみたく周りにお兄取られると頬膨らましてた」
「別に今ツンデレでもないけど。てかノスタルジー感じるほど私ら年取ってないでしょ」
「レイも遊びに参加して来たら。子供の気持ちがわかって面白い本描けるかも」
「まるで『心読んだ』かのような唐突さね。私が、ああいうごちゃごちゃしたのニガテなの知ってるでしょ。まぁパークの知り合いの子供達だからその辺のガキよりは全然拒否感無いけど……そういうあんたこそ仲間に入れて貰ったら?」
「……今は大人の人達が多いから」
「うん? ああ」
納得。
猫仔の視線の先はグラヴィさんの座るベンチ……だったが、今は人(?)が増えていた。
グラヴィさんが女性の集団に囲まれている。
あの二人の母だ、少女状態でも竜状態でも関係なく、あの人は目立つ。
そういう王者のオーラが出ているのか、パーク内を歩けば今のように『客などに』囲まれる状況も珍しく無い。
普通なら顰めっ面でもしそうな状況……だが、どうもリラックスしながら談笑している様子で。
それもその筈、あの集団はガキどもの母親……つまりはパークの従業員達なのだ。
グラヴィさんは、従業員にだけは優しい(一部除く)という代表の鑑のような人。
まぁ十数年前までは、異世界にて魔王グラヴィさんの下に暴れまわっていた信頼出来る魔物達であるから、その態度の柔らかさも当然と言えば当然だが。
過去も現在も変わらぬ固い主従関係。
お互い子供も出来て、より一層、仲間同士の結束感が増したように思える。
因みにその保護者らも、ちぎっては投げられる我が子らを「ホホホッ」と微笑ましく眺めていた。
魔王と同等に、その息子である兄に対しても信頼は固く、愛情は我が子同然に溢れていて。
『うちの腑抜けたガキを徹底的に鍛え上げて欲しい』
と時たま依頼するほどだ。
兄も兄で、昔から可愛がって貰った魔王軍の面々だし、『若』だの『王子』だのとチヤホヤされて満更でもなく、そんな経緯もあって、時たま保育所に顔を出している。
……話が逸れた、猫仔の話に戻ろう。
昔ほどではないが、猫仔は大人が苦手だ。
それは、グラヴィさんが私達を嫌っているという話と繋がっていて。
レディース総長のような彼女が露骨に相手を嫌えば、心酔する下の者の態度がどうなるかなど想像に難く無い。
加えて、猫仔には『心が読める』力があり、当時は制御も出来ずモロに大人達——全員ではなく一部の良くも悪くもハッキリした性格の人——の心の悪意を浴びていた。
兄が常に周りに睨みを利かせてくれたお陰で手を出される事も無かったし、大人達も私達が成長するにつれ認めてくれるようになったしで、飽くまで過去の話だが……
それでも、猫仔の苦手意識はそう簡単に払拭されぬよう。
ゆえに、パークの大人達の前では極力目立たないようにしている。
「ぬわークソガキども! 僕にのしかかってピラミッドを作るなー! 助けてネッコ!」
目立たぬようにしてる、のに。
空気を読まぬ兄は、周りの視線を猫仔に集中させた。
アワワと唇を震わす猫仔。
「た、助けろって」
「当然っ、このピラミッドを解体するんだよー! はやくー!」
「う、うん」
猫仔がピラミッドの方に向けて腕を伸ばし、ギュッと手を握り、
その手をクレーンゲームのように上げると……
「わわっ」「ういてるーっ」「わしらぷらいずかー!」
ゴッソリ、見えぬアームで子供達だけをゲット。
こんなゲーセン泣かせの強設定UFOキャッチャーなど存在しないだろう。
それから静かにアームを開き、兄の横にリリースさせる。
——これは猫仔の力の『一部』。
俗に言う『超能力』と呼ばれるものだが、他にも『読心(ESP)』や、今の『念力(PK)』なども扱えて。
だからといって、私同様、それを『日常生活で活かせてるか』と訊かれたらNOである。
「すっごーい」「もっととびたいっ」「ふ、ふん、とぶなどわたくしでもできますわっ」
アンコールを叫ぶ子供達。
チョイチョイとこちらに手招きする兄。
私達にもガキの相手をさせたいらしい。
勘弁して……私はさっきので疲れてるのに……
まぁ、あの親達が見てる前で、子供達の希望を断れるわけがないのだが。