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——『元』縁の神様、五色糸奇さん。


出逢いを司る神様、と言えば聞こえはいいが、同時に『別れ』も司ってもいた——寧ろ本業は縁切りの——神様で。

そんなこの世界の『脚本家』に、私達は皆、翻弄されている。

『あの日』、兄と出逢わせてくれたのもこの人の脚本(縁の巡り合わせ)だろう。

その他諸々、感謝しきれぬ恩のある相手だ。

が……やはり、苦手だという感情は今日も変わらなくって。


——例えば、今日の図書館イベントも、偶然じゃない。


あの人が、何かを『仕込んだ』結果だ。

不自然すぎる偶然の組み合わせ……付き合いも短くない私はすぐに察した。

縁結びや縁切りの力は今でこそ無いが、そこは元神、ある程度のコントロールは今も容易に出来るらしくって。

今日仕込んだ『縁』も、あの人の『目的』の通り道に過ぎず……

多分、瓏とあのツインテ幼女とを出逢わせたのにも意味がある。

その意味が解るのは明日かもしれないし、数年後かもしれない。

そもそもの(私から見た)全ての始まり……十数年前、グラヴィさん率いる魔王軍を異世界から連れて来て、このテーマパークを作った事すら、通過点かもしれない。

バタフライエフェクトのように、複雑な迷路を作る糸奇さん。

糸奇さんにしか見えないゴール。人々を出逢わせ関わらせ、縁を結んで切って。

一体、どんな『終わり』を視ているのだろう。


……なんて。


詰まる所、私のような『一般人』は、深く考えない方が良いのだろう、と、いつも通りの結論に至る。可愛い瓏でも見て切り替えよう。


「まー、もうおしごとおわり?」

「そうじゃなぁ、もう終わりで良いじゃろう。戻るのも面倒いし」

「やたーっ」


はたから見れば、仲の良い母子(姉妹?)にしか見えない。

周りの一般客も、まさかあの少女がこのテーマパークの象徴たるドラゴンとは夢にも思わないだろう。


「じゃあじゃあ、なんかしてあそぼっ。れーねーもっ」

「え? 私も?」

「我は帰って寝たいんじゃがな」


……今更だが。

グラヴィさんは、この場に来てから一度も『私を見ていない』。

私を居ない者として扱っている。

それは別に、特別私が嫌われているというわけでなく……昔からグラヴィさんは、部下である魔物達やパーク関係者としか会話をしないのだ。

客と触れ合うなど以ての外。

仲間や自身が興味のある者以外は、その辺の草と同等に見ている。

……考えれば。

先程、禁書に襲われた時もそうだ。

どれだけ遠く離れていても息子の様子が分かるほどにアンテナの広いグラヴィさんが助けに来なかった理由。

それは至極単純で、『息子の危機では無かった』から。

瓏ならば凡ゆる攻撃や魔法も母から受け継いだ龍鱗で無効化出来るし、大抵の相手は睨めば終わる。瓏が無事ならば出向くまでもない。

例え、私やあの幼女が死のうとも。

それ程に、グラヴィさんにとって私など無価値で……、……

……いや、訂正。


私や猫仔は『特別嫌われている』から、話したくもないのだ。


存在を否定したいほどに恨まれているレベル。

『理由』を考えれば、その気持ちも理解出来て。

八つ裂きにされてもおかしくないのに……皮肉にも、私達の『立ち位置』故に、グラヴィさんは諦めざるを得ない。


「うん? (ピクッ)ふむ、丁度良いタイミングで丁度良い奴が来たぞ瓏。そいつに相手して貰え」

「ちょうどいいやつ?」


「——お? なになに? これどういう組み合わせ?」「にゃあ?」

ヒョッコリ、姿を見せたのは……ドライブをしていた筈の兄と猫仔。


「あっ! にぃ(お兄)ーっ」

「っとっと。急に抱きついちゃびっくりするっていつも言ってるのに。てか、少し重くなったなー瓏ちゃん」

「にゃにゃ! お兄っ、ネッコもローを抱っこしたいっ」

「ほいよ」

「んふーっローの大好きなおっぱいうりうりー。ローは相変わらず可愛くていい匂いー」

「わわっ……ね、ねこねぇ(猫仔姉)くるしっ……」

「貴様、ここに何しに来たんじゃ」

「ここに読みたい漫画の最新巻を取り寄せて貰ってるから見に来たんだよ。そういうママンも何でここに居るの? 怪物園での晒し者な仕事は?」

「ふんっ……気分じゃない。今日は終いじゃ」

「どこに出しても恥ずかしいダメ親だなぁ……もう帰るの?」

「さぁの。貴様がこれから瓏の相手をするのは確定じゃがな。どうせ暇じゃろう」

「一日グータラしてる母親より社会人してるんだが? 別に、瓏ちゃんと遊ぶのは構わないけど」


兄の前では自然体で饒舌なグラヴィさん。

愛情の度合いで言うなら瓏と比べても遜色ないが、それでも、本人は頑なに兄を息子とは認めない様子。


「なんだかお疲れ」

「え? ああ、まぁ色々あってね。さっきまでここに糸奇さんが居たのよ」

「げっ」

「でしょ。てかさっきまで抱えてた瓏は?」

「フられた」


気付けば、瓏は再び兄にコアラのようにくっ付いていて。


「——てわけでさ、妹が欲しくなったんだよ。ブリッと捻り出せない?」

「話が唐突すぎるじゃろ」

「瓏ちゃんも妹欲しいだろ? お兄ちゃんになれるぜ?」

「ほしー!」

「瓏、こやつの戯言に耳を貸すな」

「ちぇっ。あ、そいえば免許取ってさぁ、ドライブして来たんだよ」

「脈略が無さすぎるぞ」

「いーなー」

「ふん……無駄なモノを。移動など時空跳躍が手っ取り早い」

「分かってないなぁ侘び寂びを。じゃあ瓏ちゃん、今度二人でドライブしようか。ママンは車嫌いみたいだしー」

「するーっ」

「べ、別に嫌いとは言っとらんっ」


兄が増えた事で銀髪三姉妹にしか見えない集まりに。

一番身長が高い兄が長女ポジっぽくて、母を弄る様子が素直でない妹に意地悪してるようで。

これこそが、和気藹々とした『本当の家族』。

隣にいる猫仔も、それを遠い目で見ていた。

分かっているんだ、私達が『除け者』でしかない事は。

あり得たであろう眼の前の家族の団らんを壊したのも私達だ。

だからと言って、『時間は戻せない』。

兄でも、グラヴィさんでも。


「君達なにボーッとしてんの? 丁度面白そうなボードゲーム見つけたからするよっ」

「するよよっ」


兄と瓏に腕を掴まれ、顔を見合わせる私と猫仔。

当然、拒否権など無さそうだ。


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