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それから私は、まだ読んだ事の無い本【異世界拷問辞典】を手に取り、図書館内にあるカフェでチャイを頼んだ


あと、適当な一般席に腰を下ろした。

因みに、ここには完全防音の個室もある。

本に集中したいなら、そういうサービスを利用するのも有りだが……私の場合、あえて利用客の多い一般席を選ぶ事が多い。

少し騒ついてた方が集中出来るのだ、個人的に。


チャイを一口含み、メガネを掛け、己を読者モードに切り替えて。

さぁ本の世界に没入するぞ


「びえええええんっっ」


……というタイミングで、騒音が飛び込んできた。

泣き声……恐らく小さな少女。

振り返らない。

関わり合いになりたくないから。

子供の金切り声くらい、不快ではあるが環境音と変わりない。


「びえええええんっっ! ムァムァー!」


迷子か……まぁその内知り合いの司書でも来てくれるだろう。

周りの客もチラチラ振り返っているが、関わりたそうな者は居ない。

特に男性からすれば、最近何かと幼女への扱いが難しい時期なので尚更。


「びえええええ……あ、ふくろうさんだー」


ガキ特有の切り替えの早さ。

幼女が見つけたのはこの図書館に数羽いる従業員、ミミズクの魔物ミミーだろう。

フクロウとは少し違うが、別に指摘するほどでもない。


「ふくろうさーんっ。あ、とんでにげちゃった……まてまてー」


仕事以外では無愛想なミミー。

子供にすら媚を売らぬほど。


「まてまてー。あっ」


あっ。

ピタリ、ミミーが止まり木にした先は……私の頭。

このミミズク、顔見知りの私に丸投げにしたな。

当然のように、トコトコこちらまで来る幼女。

ペシペシと頭の上のミミーをはたいて退かそうとするも、微動だにしない。


「おねーちゃんとはなかよしさんなんだねーっ。ねーおねーちゃん、いっしょにそのことあそぼーっ」


諦めて振り返ると、アニメキャラのようなピンク髪ツインテールがニコニコしていた。


「えっと……なに? お姉ちゃん、今ちょっと忙しいから『あっち行ってなさい』」

「やーだっ」


……は? なんで? 『効かない』? …………もしかして。

この子、『耐性持ち』か『糸奇さんに加護』されてる?

後者って事になると、この子が私に絡んで来るのも『縁(運命)』だったという事か……面倒い。

つまりは回避不可という事。


「はぁ。あなた、母親を探してるんじゃないの? 迷子センターくらいになら連れてってあげるわよ」

「むーっ。まいごになったのはままのほうなのっ」

「物は言いようね」

「とにかくっ、どうせままとはあとであえるからいっしょにあそぼっ」


なんで私が……ガキは苦手だ。


適当に、絵本でも読ませてれば静かになるだろうと考えた私は、児童書が集まるエリア——本が多過ぎて棚単位ではなくフロア単位でジャンル分けされてる——まで連れて行く事に。

幼女が本に夢中になってる間、迷子センターに電話し、親をここまで引っ張って来る完璧な作戦。


「ほら、好きなの選んで読んでなさい」

「おほー。まようー」


顔をキョロキョロ動かし選別を始めた幼女から視線を切り、私はすぐ横の本棚に目をやる。

『昔は』妹と共に入り浸っていたものだ。

適当に棚から一冊手に取り、パラパラ流し見。

人間と仲良くなりたいモンスターの子供の話がコミカルに描かれている。

絵本は好きだ。

最近では文字だらけの本ばかり読んでいるが、絵本や児童書はとても素晴らしいものだと考えている。

単純なストーリーに見えて、隠れた深いテーマ。

全てが主人公のハッピーエンドな話ばかりでなく、因果応報、痛い目を見る話も混じっていて。

かといって、別に、教訓が込められてなくてもいい。

イキイキしたキャラクター達がみんなでおいしそうなケーキを作るだけの話もワクワクして大好き。

それは、この図書館にある『異世界産』でも同じ。

時代も言葉も種族も思想も違うのに、何故かこのジャンルは壁を感じさせない。

ほっこりと温かい雰囲気は変わらないのだ。

意外にも、簡単に描けそうに見える絵本は、その実奥が深く正解が無い。

言うは易し、作るは難し。子供を楽しませる、というのは大人相手以上に難しい。

最近、それを『身をもって』痛感している。


——っと、ボーッとし過ぎた。


本を棚に戻し、さっさと迷子センターに電話しようと幼女に視線を戻すと……居ない。


「……、……まぁいいか」


私は踵を返し元居た席に戻ろうと「おねぇーぢゃあんっ!!」したのに、頭上から声が降り注いで来た。

反射的に見上げると——宙に浮かぶ本棚の上に『幼女が乗っかっていて』。


「きゃははは! たかいたかーい! いーながめー!」


本人は助けを求めるでもなくハシャいでいて楽しそうだが——周りには上って飛び移れるものも何も無いのに——どうやってあそこまで行ったのか。

いや、それよりどうしよう。碌なオチが待ってないのは明白で。


「きゃははは————あっ」


幼女は予想を裏切らず、足を滑らせて棚から落ちた。


「はぁ……ミミー」


私の呼び掛けと同時に、未だ頭にとまっていたミミーがバッと翼を広げて翔び立ち、落花する幼女に向かって行き……ガシッ!

猛禽類(魔物だが特徴は同じ)特有の立派な足で掴んで受け止めた。

幼女とはいえ何倍もの差のある体躯を、軽々と。


「うー? おおー! とんでるとんでるー!!」


背中の服を掴まれた幼女は、見た目は宛ら茶色い翼を生やした天使のよう。

落ちた恐怖など微塵もない様子。


「お? お? おー(ストンッ)。もっととんでたかったのにー」


私の近くに降ろされた幼女は不満気に頬を膨らます。

またウロチョロされたら敵わないと手早く迷子センターへと連絡した私は「いいからさっさと本選びなさい」と釘を刺し行動を制限。


「んー……さっきのほんだなによみたいのあったのにな。みどりのせびょうしのやつ!」

「だそうよ」


ミミーに顔を向けると、『またかよ』と目を細められるが……渋々といった具合に翼を広げ、再び飛び立つ。先程の本棚まで行き、目的の緑の本を掴んで、落ちるようにこちらへ戻って来た。

これが、ミミーを使った浮遊本棚の正しい利用法。普段は各所にあるパソコンの本検索システムで浮遊本棚がヒットした場合にのみ、今のように働く。


「すっごーい! もっかいみたーい!」


そんなリクエストに応えるわけもなく、ミミーはどこかに飛び去って行った。


「じゃ、あとはこの辺で適当に座って読んでなさい。その内あなたのお母さんも来ると思うから」

「んー」


ちょこんと本棚を背にして座り、パラパラ絵本を読みだす幼女。


「あれぇ? よくわからないもじだよー?」

「そこのパソコンの横に特殊な眼鏡があるから、それ掛けたら読めるようになるわよ。じゃあね」


どんな言語もその者が理解出来るモノに変換してくれる凄いアイテムだが、その価値は一般人に理解出来ないだろう。


さ。

今度こそ本当におさらばだ。

私は振り返る事なく、その場を離れる。

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