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「さて」と。


城下街から少し離れた現在地。

目の前には、超巨大【クリスタルウッド】が聳え立っている。

中が透けて見える程に美しく青みがかった宝石の大樹。

季節によっては上部の枝先に美しい宝石の花を咲かすのだが、天辺は雲を突き抜けるほどに高く、ここからでは物理的に観測出来ない。

外から眺めてるだけでも飽きないが、今日の目的は『樹の内部』だ。


——入り口の方まで歩いて。


大きく開けた樹の穴には、駅の改札の様なセキュリティが見える。

通常、通るのに5G引かれるが……『オツカレサマデス』……くぐった私をセキュリティは電子音声で受け入れた。


クリスタルウッドの内部——それは『大魔導図書館グリモワール』。


本棚。壁側に並ぶのは勿論、天井や地面、果ては宙にも浮かぶ知識の蔵。

総冊数は誰も把握出来ない——数えるのが面倒臭い——程で、宇宙のように日々増え続けているという。

この世やあの世、異世界の過去現在未来全ての情報がこの樹の中に集っており、それは宛ら『アカシックレコード』。

中には一般人が読めぬ禁書もあり、樹の上に行くにつれ管理レベルも厳重に。

私の生涯をかけても一割も読み切れないであろう蔵書量。

本好きな私にとってはロマンが詰まった宝物庫だ。


……取り敢えず、何から読もうか。


場所や本棚によってジャンル分けされてはいるが、どこになにが? というのは完璧に把握し切れてない。

プラプラ図書館内を歩いていると……


「あら玲玲、今日は『仕事』ですの?」


ふと、一人の着物の女性に声を掛けられる。

絡新繭じょろうまゆさん。

昔からお世話になっている人(?)で、普段は、人ならざる者を相手する高級旅館桃源楼の女将。

因みに彼女の言う『仕事』とは、普段私がここで『司書のバイトをしている』件の話。


「今日は休み。繭さんは?」

「本の寄贈……と、言いつつ、その実ここに管理を押し付けているだけですがね、フフ」


寄贈。

そうは言うがこの人が持って来る本は先程も触れた禁書が殆どなので笑えない。

職業柄——宿泊費が宝具でも可というのもあって——凡ゆる宝や呪物が集まりやすい桃源楼。

悪魔を呼び出す本など可愛いもので、異世界に飛ばされる本や死者が(歪な形で)蘇る本などもあり、そういった書物は、全てここに丸投げだという。

興味はあるが……危険過ぎて『兄がそばに居ないと』読んではならぬ取り決めになっている。


「猫仔のを含め、【髪飾り】の調子は問題なくって?」

「ええ。助かってるわ」


昔、私達姉妹は繭さんに髪飾りをプレゼントされた。

私は王冠型で、猫仔のはスプーン型。

繭さん自作のオリジナルアクセサリーで『私達の力を最小限に抑える』効果がある。

これが無ければ、今まで『何人殺していた』事やら。


「ああ、そういえば、プランのやつとは会いまして? 用事があったのですが見当たらなくって」

「や。私もさっき来たばかりだから」


プランさん。

プラン・ドリアード・ユグドラシルという大層な名を持つお姉さんで、

この世界テーマパークを創った三人のうちの一人で、

プランテーションというパーク名の元ネタになった人(?)。

縁の神糸奇さん、時の魔王グラヴィさん、精霊王プランさんが建てたこの大型施設は、


プランさんが自然などの環境を整え……

グラヴィさんが時間を歪め……

糸奇さんが辻褄を合わせ……


そうやって今現在も進行形で、この三人の創設者が、パークを維持している。

そんな凄いプランさんだが、私と妹の猫仔にとっては、母親代わりでもあって。

今でこそたまにしか家に顔を出さない人だが、昔は毎日の様に面倒を見てくれたものだ。

……なんて昔話は、今する必要無くって。


「そうですの。まぁその内会えるでしょうね」

「【あいつ】なら知ってるかも。あいつ今、妹とパークをドライブしてるから……電話で訊く?」

「ドライブ? ……ああ。そういえば、免許を取った、みたいな話をしてましたわね。あの鼻垂れがもう一八ですか……時が過ぎるのは早いですわねぇ」


しみじみと感慨深くため息を吐く繭さん。

見た目はイケイケ(死語)なお姉さんなのに、今だけはただの親戚のおばさんにしか見えない。

まぁ一児の母で年齢的にはおばさんで間違い無いのだが。


「流石に運転中連絡するのはマナー違反でしょう。お気遣い、感謝しますわ」


そう言って、繭さんは去って行った。


……さて。

本選びを再開するか。

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