【二章】28
【現在 ——午前——】
休日の朝。
バカ(兄)が最近出来たお店のモーニングを食べたいとワガママを抜かした。
私は興味が無く惰眠を貪りたかったのに、兄と来たら妹と共に私を布団から引き摺り出し車に放り込んだ。
私が『やめろ』と凄んでもなんのそのなバカ兄貴。
結局そのまま市内にまで引っ張られ、早朝の肌寒い空気のアーケードを歩かされた。
そこまではまだいい。
モーニングのグラタンは美味しかったし。
問題はその後だ。
突如鳴った携帯に出た兄は、一分ほど話した後、
「用事が出来た。ゆっくりしてって」
そう言ってテーブルにお金を置いたのだ。
当然ぶーぶー唇を尖らす妹。
しかし、兄は一度決めた事を変えない奴なので、そのまま店を出て行ってしまった。
途端テンションがダダ下がりになる妹。
「昨日一昨日もどっか行って帰って来たの昼前だし……お兄、何か隠してる」
「あいつが外泊したり隠し事してるのはいつもの事でしょ。さ、帰るわよ」
——と。
そんな兄と入れ替わるようにして。
「あっ、突然すいませんっ。一つお訊きしてもよろしいですかっ?」
現れたのは、同世代くらいの綺麗な少女。
「……なに?」
「このお店にこの世のものとは思えぬ程に綺麗な男性の方、来ませんでしたかっ?」
妹の目が、一瞬で、警戒するように細まる。
「レー、目が殺し屋みたい」
「あんたが、でしょ」
「あ、あの……?」
「あっち行った」
「そうですかっ。ありがとうございますっ」
妹は『真逆』の方向を教えたが、少女は頭を下げて感謝し、店を出て行った。
「【今の】から、お兄の匂いがした」
普段は無気力な奴なのに、兄関連になると黒くなる妹。
「女好きなあいつよ? 色んな女に関わり持とうとするのは昔からでしょ」
「でも。今までのと『何か違う』匂い。レーも気付いてるでしょ」
「……さぁね」
何故少女が、真っ先に私達に訊ねたのか……ここで怪しんでおけば事態は変わっただろうか。
まぁ。
無駄な足掻きで終わるのは分かっていたが。




