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――それから。
桃源楼に行きまだ居た繭さんに小言を言われながらも服を回収し……僕達は再び、プランテーション城下町入り口へと戻っていた。
「め、寵さんっ。次はどこに案内して下さるんですかっ」
「え、もう帰るよ?」
「っ……!」
龍湖が露骨に嫌そうな顔を浮かべる。
子供か。
「車で家まで送るよ。そこまで遠くないしね。君のママンは色々言ってたようだけど、やっぱり少しは家族の時間を大切にしなさい」
「……ま、まだ」
「うん?」
「まだ帰りたくないですっ。折角寵さんと再会出来たのにっ」
「この子ったら……一日離れただけでしょ? 別に、もう会えないってわけでもないし、スマホでいつでも連絡取れるっしょ」
「で、でしたら寵さん、龍湖の家に一泊して下さいっ。まだ皆御礼を言えてないのでっ」
「僕、御礼言われるの好きじゃないからこの前も早く帰ったんだよねー。さ、ゴネてないで行くよ」
「むぃー! 龍湖は離れませんっ! このまま側に置いて下さい! 炊事洗濯家事それ以外も何でもやりますから!」
僕にしがみついたまま岩になる龍湖。周りも僕らを見ている。
めんどくせぇ……。
と。
『ピリリリリ』
龍湖のスマホが着信音と共に震えた。
はて? 番号を知ってるのはまだ僕くらいな筈だが? 契約した知り合いの店員からの連絡かな?
「あわわ……えっと……(ピッ)……も、もしもし……、……え! 母さん!?」
なんと。
電話先の相手は龍湖の母だったようで。
「はい……はい……あ、代わります……」
チラリ、龍湖が僕を見る。
えーなんかやだなぁ。
そこまで親しくない大人と話すの苦手。
「あー、もしもし」
『やぁ、こんにちは寵君。今日は龍湖の遊び相手になってくれてありがとね』
「いえいえ」
……不思議な感覚だ。
声色と言えばいいのか。
直接話す事なく村を去ったので龍湖ママンの声を聞くのは初めてだが。
まるで糸奇さんやママン、繭さんを相手にしてるような強者オーラを感じる。
てっきり、僕は生き返らせたお礼でも言われるのかと思ったが――。
『さて。龍湖はもう言ったと思うが、どうかその子を側に置いては貰えないだろうか?』
「はぁ……と言われても、ウチには余所者嫌いな姉妹が既におりましてねぇ」
『アレはいつだったかな……私の村に、糸奇君が来てね』
「え、何の話っすか」
淡い鳥肌が立つ。
糸奇さんを君付けで呼ぶのもアレだし、人の話を聞かないしで、本格的にこの人ヤベーという印象が強くなる。
『まだ支配されて居た頃の村を見て、彼ときたら『遠くない未来に一人と男の子が来るからそれまで頑張って』なんて言い残して帰ったんだよ。信じられるかい? 瞬きするより容易に他者を救える力があるのにさ』
「まぁ、あの人らしいっちゃらしいっすけど」
『君は、糸奇君の予言通りこの村を救ってしまった。つまりは責任があるんだ。まさか、このまま【竜の巫女】を無職にはしないよね?』
なんて上から目線な人なんだ。
そして、この人は解っている。
そんな一方的な言葉が、僕には一番効くのだと。
『助かるよ。それじゃあ娘をよろしく。あの子には『孫という土産を持って来るまで帰るな』と言ってあるから』
プツリ、電話を切られた。はぁ……と息を吐きつつ僕はスマホを龍湖に返す。
「あ……あの……?」
「言っとくけど、タダ飯食らいは家に要らないからね。学校に通いつつ、ここで働いて貰うから」
「ッッ!! は、はい!! 喜んで!!」
全く。お互い、母親が一癖も二癖も有り過ぎるね。
――オマケ。
城下町を出て。
朝同様に愛玩モンスターらに纏わり付かれたりしつつ。
駐車場まで歩いて戻り、車に乗り込んで。
「一日楽しんだぷらんてーしょん! 名残惜しいですけれど、再びこの鳥居こと入島審査所を潜らねば、なんですね」
「そだねー」
朝、僕を客と間違えた入島審査官が、車を運転する僕を見るなりペコペコ頭を下げて来る。苦しゅうない。
「しかし……思えばあっという間な一日でしたね。今回龍湖は寵さんのご好意で入園させて貰えましたが、一般の方はいつでも入れる、というわけでは無いんですよね?」
「そだねー」
「その上、運良くチケットを入手出来ても、それは一日券。魅力的な上広大なぷらんてーしょんを回りきるなど不可能ですっ。宿泊込みでも制覇は難しいでしょう」
「そだねー。あ、鳥居潜るよー」
「あ、はい。……、……、……ん? ……え?」
鳥居の先には、『朝の空気』。
夕暮れ時だったオレンジ色の空も、青く澄んだ色に。
「え、ええっと……寵さん。時間を戻すか進めるか、したのですか?」
「してないよ。普段は殆ど力使わないし。一応、スマホの時計で時間確認してみな」
「は、はぁ。えっと、時計は……、……この時間の表示、間違っていないですよね?」
「うん」
スマホが示す時間は、僕らが朝、鳥居を潜ってから『約三〇分』経った時刻。
それが示す意味とは――。
「言ったでしょ、鳥居の先は異界だって。そこは時間の流れが外と違ってね。中の二四時間は現実だと一時間で……つまりは」
一日券さえあれば、中で二四日間、愉しめるのだ。




