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時間というモノはあっという間に過ぎるもの。
遊びの時間なら尚更だ。
時を司る妃家だが、基本的に、楽しい時間を戻す事はしない。
二周目など何が楽しいのかと、ママンはよく口にする。
自分達の未来を覗く事もしない。
攻略本を見て進んで何が楽しいのかと、ママンはよく口にする。
その時その時の選択肢に誇りを持ち、悔いなどという軟弱な思想を持ってはならぬと、ママンはよく口にする。
まぁ、口にするだけだ。
実際のママンは取り逃がした宝箱を手に入れる為にやり直すタイプである。
つまりは、適当なのだ、妃の竜は。
あ、今更だが、僕達は現在、喫茶店で寛いでる。
「はぁ……もう夕飯前に近い時間ですが、お昼ご飯、美味しかったですねぇ」
「異世界喫茶【セブンスヘブン】(姉妹店)は料理も店員も奇抜で大人気なお店だからね。普通ならアトラクション並に数時間どころか数日待ちも当たり前だけど、コネって素晴らしい」
魔性を秘めた歌声になる【魔人マーメイドのサンドイッチ】。
食べるだけで筋骨隆々マッチョマンに成れる【魔獣ベヒモスのステーキ】。
異性を虜にするフェロモンが放てるようになる【魔華モルボルのサラダ】。
口にした者を絶世の美女に変える【女神アテナの泉ゼリー】。
一週間不眠不休で動ける効果のある【闘神マクシムの汗ドリンク】。
どれもこれも癖だらけのメニューだが、味は保証付き。
特別な効果など僕には効かないので——龍湖には他の無難なメニューを食べさせた——普通にお昼を楽しめた。
既に空は夕陽に染まり出した時間帯だけど。
「糸奇様、寵さんが言う通り、本当に素敵なお方でしたね。神様にあんな風に相談事が出来るなんて、夢にも思いませんでした」
「『元』神様だけどね」
「えっ、そうなんですか?」
「『現』縁の神様はあの人の娘が継いでるよ。だから、今のあの人は縁が見えるだけで、縁を切る事も結ぶ事も出来ない」
縁切りの力は無敵だ。
例えば僕が龍湖の目を治した時は、『呪いを受ける前の正常な目まで戻し、呪いという事象をスキップさせ、今の状態まで成長させる』という面倒臭い作業を——格好付ける為に頑張って——一瞬でやって見せたわけだが。
縁切りにそんなステップは要らない。
ただ、『呪われたという事実(縁)を切る』それだけで龍湖は元に戻った。
時魔法と縁の力。
似たような事の出来る能力同士ではあるが、後者が完全に上位互換であるのは事実で、だからこそ、ママンは糸奇さんに勝てなかったのだ。
「成る程……しかし、それでも凄い気を感じました。全盛期であったならば、龍湖は直視出来なかったでしょうね」
「大半の力を継がせた今や搾りカスな元神様。それでも、未だに勝てる気がしないねー」
「糸奇様と話がし易かったのは、どことなく口調が寵さんとそっくりだったのもあります。ゆったりとしていて、圧を感じない空気が緊張を解いてくれました」
「多分、僕の口調や性格は、気付かないうちにあの人の影響を受けたのかもね。昔の僕はそれこそ、瓏みたいな小動物系男子だったけど……『女の子を守れるカッコいい男になれ』ってあの人の口癖が、今の僕にしたのかも」
「やはり、素晴らしいお方です」
「ママンは近付くなって昔から口酸っぱかったけどね。結果的に今の僕は劣化版糸奇さんになっちゃったから、今の僕に冷たいのかも」
「龍湖には、それでもグラヴィ様が寵さんに愛情を持って接してるように見えましたが」
「そうかい? なら良いんだけどさ」
店内の忙しそうな喧騒をBGMに、ボーッと、テーブルに肘をついて店の窓から外の様子を眺める。
「こんな時間帯でも、テーマパークは賑やかですね。皆さん、どちらへ向かわれてるのでしょう?」
「この後は夜のパレードが控えてるからね。それも大人気なイベントだよ」
「楽しそうですねっ。見に行きますかっ?」
「えー、人多いしやだー。この後は桃源楼に行って預けてた龍湖の服回収するよ」
「そ、そうですか……」
その後すぐ、顔見知りの店員さんに「いつまで居るんだよ客待ちいんだから食ったらさっさと出て行け」と——およそ王子様相手とは思えない——酷い扱いを受け退店させられた。
後でクレーム出してやる。




