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——周囲を見渡すと、それなりに居る参拝客。
『縁があって』この神社に辿り着けた者達は、神社の御神体である【鋏】を拝んだり、売店で御守りを買ったり、オープンテラスのカフェで会話をしたりとおもいおもいに過ごしている。
ここは世界有数のパワースポットでもあり、居るだけで、心が洗われるのだ。
そんな参拝客らを横目に通り過ぎて行って、
「こんちはー」「……(ペコペコッ)」
幼女と焼き芋焼いてる神様の元へ。
「やぁ、いらっしゃい。早く来いよとヤキモキしてたよ。まぁ丁度芋が焼けたから良いんだけど」
ミルクティー色の明るい髪色をポニテにし、ダボっとしたシャツとサルエルパンツなエスニックスタイルは、とても神主だとは思えず。
ウチのママンや繭さんと同世代な三〇過ぎではあるんだけれど、ママンや繭さん同様見た目年齢は異様に若々しく、この人の場合は大学生くらいにしか見えない。
顔立ちもフワリとした美人顔で。
けど『子持ちのおっさん』という。
「あ! おーじだー!」「ほんとにきた!」「おそえー!」「ほかのおんなつれやがって!」
「ヌワー!」
唐突に幼女軍団に飛び掛かられ揉みくちゃにされる僕。
そんな僕を見て「あわわ、一体何がっ」と龍湖はアタフタするしかない。
「はい、龍湖ちゃん。お芋どうぞ」
「え? あ、ありがとうございますっ、アチチ……た、龍湖の名前は、寵さんからですか? えっと……」
「糸奇。五色糸奇だよ。君の名前は寵から聞いたわけでもなく、『知ってた』んだ。君がモノの気だのオーラだのを見られるように、僕にはモノの『縁を読む力』があるからね」
「え、縁……それは、一体? 言葉通りの、ご縁、という意味ですか?」
「そ。人同士やモノとを繋ぐ架け橋。僕にはそれが【糸】として見えている。運命の赤い糸、なんて言葉は知ってる? あんな感じ。縁の糸にはそのモノも忘れてるような記憶も、進むべき先の未来も全て記されてるから、僕に隠し事は無駄なのさ」
「そ、それは、どれだけ離れていても?」
「ふむ……君達は今日、ドリーの移動カフェで一服したり、アトラクションを楽しんだり、オブジェに登った幼女を助けたり、怪物園でグラヴィにビビらされたり、温泉に入ったり、瓏ちゃんと遊んだりと充実した半日を過ごしたようだね」
「す、すごいっ。まるで一日見て来たかのような正確さですっ」
「とまぁ、僕との距離なんて意味は無いよ。縁の糸に長さに制限はないから、誰も僕から逃れる術はない。君が僕と会えたのは、縁があったからだ。縁の糸ってのは『縁の神』が弄らない限り生まれた時から増えも減りもしない。君との今日の出会いは必然だった」
「た、龍湖なんかが……お、恐れ多いです……」
「っと。これじゃあなんか口説いてるみたいだ、ゴメンね、おっさん張り切っちゃった。で、まぁ、そんな力もあってか、ここ五色神社(出張所)は『縁を司る』神社として愛されてる。君のとこが雨の神社だったように、ね」
「縁を司る……縁結びの、ですか?」
「や、『縁切り』。……そう、身構えないで。縁切りって悪い意味ばかりじゃないよ。病気や事故、嫌な相手との縁なんて切った方が良いだろう? ま、縁結びも出来るけどね」
「縁結び……寵さんから龍湖が寵さんと出逢えたのは、糸奇様のお陰と聞きました。本当に、感謝しか無いです」
「僕は特に何もしてないよー? 寵が『何かこう漫画みたいな土着信仰のある村行って困ってる美少女助けて感謝されたい』なんて言うから、糸奇からいくつも伸びる縁の糸の一つ、君のルートを紹介しただけさ」
「よ、よく解りませんが、どのような経緯であろうと感謝という結果は変わりません。あの方は、龍湖を助けに来た王子様です。ま、まるで、龍湖が特別なお姫様になったような……」
「うーん……水を差すようで悪いけど。いや、知っておいて欲しい事だけど、そこで寵を襲ってる幼女軍団いるじゃん?」
「え? あ、はい」
「一人は生まれる事すら出来なかった堕とし子だった。一人は全身が病に侵されて余命幾ばくも無い子だった。一人はその特異体質故に裏の世界で実験体にさせられる寸前だった。一人は異世界にて魔女と蔑まれ世界を敵に回した災厄だった」
「え? え?」
「全て、寵が救った。ここに居る子ら以外にもまだ居るよ」
「ッ……! じゃ、じゃあ……龍湖一人が特別じゃなくって……それどころか、龍湖の境遇なんて、全然……」
「けれど、君もまた特別だ。寵という王子様の役に立てるお姫様の一人さ」
「え……?」
「寵が救った相手は、いずれも僕が巡り会わせた子達ばかり。寵の『助けとなる予定』の縁で繋がったヒロイン達だ。寧ろその為に生まれて来た存在と言ってもいい」
「その為に……寵さんの為に……」
「グラヴィを崇拝し寵を我が子同然に可愛がってるここの魔物達から見たら、凄い価値と名誉のある役目だけれど……まぁ、どう思うかは本人次第だね」
「た、龍湖が、寵さんの……………………す、素晴らしい」
「おお?」
「つまりは、寵さんに役立てるという事ですね? 恩返し、出来るという事ですね? 出逢いは運命だった、という事ですね?」
「そうだね。でも、全てが脚本通りだったら? 帰結法で考えてみて。永い間苦しんで来た雨宿家の元にたまたまやって来た寵という救世主、ではなく、寵を救世主にする為だけに永い間雨宿家が苦しんで来た、としたら? 君は助けられた寵に懐いてるけど、君が懐くような脚本を僕が書いたとしたら? 君はそんな縁の神に恨みや憎しみは湧かないかい?」
「湧きません。龍湖の気持ちは始めと変わらず、糸奇様と寵さんには感謝だけです」
「ほう。理由を聞かせて」
「雨宿の家は、それこそ【りばいあ様】が来る以前より竜の巫女の血筋です。竜と共に生き、竜と共に朽ちる定めと聞きました。龍湖はそのしきたりに疑問は持ちませんでしたし、今ならそんなしきたりを作った初代の気持ちを心から理解出来ます。——ああ、これほど素晴らしい竜と共に朽ち果てられたならどんなに幸せだろうか、と(ウットリ)」
「うーん、気持ち悪い。そして、君を選んだ僕の目に狂いは無かった。これからも糸奇を助けてやってくれ」
「はいっ、喜んでっ」
「——ぅぅ……酷い目に遭ったぜ……そして今も遭ってるぜ……」
幼女を引き剥がすことを諦めた僕は、それこそコアラみたく幼女をしがみつかせたまま立ち上がり、焼き芋を賜りに。
「なんか話してたっぽいけど、何の話?」
「大した話じゃないよ寵。ほら、少し焦げたけど焼き芋食ってな」
「両腕のコアラが邪魔で受け取れないし皮も剥けないし……龍湖ー、剥いて食べさせてー」
「お任せ下さいっ」
しかし僕が焼き芋を口に入れる事は叶わなかった。
食べようとした瞬間、コアラ達が首を伸ばして代わりに食い始めたから。
その後、幼女達の保護者らがやって来てようやく僕の体は自由に。
と思いきや、僕を見るや否や保護者連中は過去散々浴びせた感謝の言葉を再び吐き始めた。
長くなりそうだったし腹も減っていたので、龍湖の手を掴んでさっさとその場を去る僕なのであった。




