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24 ーー現在【後編】ーー

「と、その前に」


僕は手に持っていたビニール袋を掲げる。


「それは?」

「りばいあ様」


当然ビクリと反応する龍湖。

本能ではまだどうしようも出来ない条件反射。


「ど、どうするおつもりですか?」

「この池に流すんだよ。そいっ」


袋の中身を放り出すと共に、止めていた時間を解除。

ザブンッという水飛沫と共に、意識を取り戻した鯉はパチャパチャと水面で暴れ出した。


「だ、大丈夫、なのですか?」

「うん。むしろ心配すべきは、りばいあ様だよ。ほら」


池の下……鯨のような巨大な影が蠢いている。

五月蝿くのたうつ【新入り】に、【先輩】がイラつき出したのだ。

異変に気付いた鯉は、すぐに静かになり、一目散に逃げて行く。

それを追い掛けるように影もスィーっと消えて行った。


「この池は怪物園の水棲モンスターゾーンと繋がってるからね。この先、先住民らと戦って勝ち進んでいけば、いずれは前以上に強くなって僕に復讐の機会も得られるだろうさ。それまで生き残れれば、だけど」


龍湖は、何も言わない。

言えない。

多分憐れみの気持ちが強いのだろう。

曲がりなりにもかつて崇めていた神なのだから。


「……寵さんは、本当に凄いお方なのですね。どれほど自分が狭い世界に居たのか実感させられます」

「別に、僕はそこまで凄くも強くないぜ? このテーマパークには繭さん含め僕以上の人がウジャウジャ居るし、ママンは時魔法の他に空間魔法も使える完全上位互換だし。——さ、石段のぼるよ」


僕が手を伸ばすより先に、龍湖が掴んで来た。

分かって来たな、この子も。


——見える者には見え、見えぬ者には『縁の無い』幻の石段。


目の前まで近付いた僕らは、一歩、一段目に足を踏み込む。

刹那、フワリと心地良い空気が全身を包んだ。

と、同時に、龍湖の足が止まる。

本能で理解したのだろう。

別世界に入り込んだことに。


「ほらほら一々止まらない。【あの人】待たせたらグチグチねちっこいし」

「は、はい……」


百段程の短い石段。

疲れるほどではないだろう。

寧ろ、この神域内では凡ゆる苦痛が軽減される。

だから龍湖みたいに、ハァハァ息苦しそうにする方がおかしくって。

龍湖が居た村の重い空気漂う結界内とは真逆な、澄みきった世界。

が、綺麗な水に魚が住まないのと同様に、この不純物の無い世界に放り込まれた龍湖の身体はまだ順応出来てないのだ。

まぁすぐに慣れるだろう。


「龍湖、深呼吸して全身にここの空気行き渡らせて」

「は、はい。すぅーー……はぁ……、……少し、落ち着きました……そういえば、今こうして階段に触れた龍湖達は、周りから消えた様に見えるのですか?」

「見えなくもなるし、意識からも消える。直前まで僕らを凝視してた人がいても、急に興味が無くなる感じ? だから騒がれる事も無いよ」

「凄い仕掛けですね……一体、これから会うのはどのような方なのか」

「んー。あの人の凄さを分かりやすく言うなら、そうだな。聞いた話だと二〇年前? だかに『ママンを一方的にボコボコにして異世界からこっちに引きずり込んだ』、かな?」

「え……ええっ!?」


予想通りな反応の龍湖。

今の彼女の中の格付けだとママンが頂点なのだろう。

けれど……あの人を『見たらすぐに理解する』。


「ど、どういう流れでですかっ。どんな因縁で戦いにっ?」

「『因縁』か。言い得て妙だね。あー、なんだったかな。時魔法を使える相手を探してたら異世界で魔王していたママンがヒットして、友好的にスカウトしたんだけどキレられて攻撃されたから無理矢理連れて来た、だったかな」

「そんな、随分と軽い流れで……、ですが、その方がグラヴィ様を連れてこなれば、寵さんは今この場に居ない、という事ですよね?」

「そだねー、それも引っ括めて『縁』ってやつだ。さっき話したように、あの人はママンをスカウトするにあたって『なら仲間も一緒でいいよ』と、異世界から魔族とその領土ごと持って来てこの島にくっつけた。まぁ実行したのは空間魔法を使えるママンなんだけど……で、生活費を自分らで稼がせる目的でこのテーマパークを創ったんだ。つまりはここの創設者の一人でもある」

「そのような背景が……しかし、理解しました。確かに、龍湖はまず先にその方に挨拶するべきでしたね。寵さんと出逢わせてくれた恩人なのですから。話を聞く限り、どれほど屈強で筋骨隆々な方なのか……」

「あの人の強さの源は筋肉とかじゃ無いんだけどなぁ」


というか、強いだの弱いだの勝つだの負けるだの、そんな僕ら凡人の常識なんて通用しない神様なんだけど。


——石段を登り切り、その先の楼門を潜って……広い場所に出た。奥の方には本殿や社務所が見える。


「【五色ごしき神社】——の、出張所だね。本家も一応仙台にあるけど、本家は更にここより見つけ難いかな」

「……素敵な場所、ですね。龍湖がいた神社とは全く違って、明るくて温かくて柔らかな空気に満ちています。こうして比べられる対象なんて、ありませんでしたから」

「比べる対象が極上過ぎるけどね。そこらの普通の神社見たらガッカリするよ。さて……あの人は(キョロキョロ)今日来てるって言ってたし、基本女の子に囲まれてて……あ、いた」


今日は幼女達に囲まれていた。

神社の隅っこにしゃがみ込み落ち葉なりで何かを『焼いて』いる。まぁ秋だ、大体予想はつく。

僕の視線を追う龍湖。

あの人を見たリアクションは……無言。

ウチのママンを見た時の様な『圧倒的存在にウットリする』でもなく、ただ『目を奪われている』。

それは本能的な反応、というより反射。

神を初めて見た人間は大抵こんな風に言葉を失う。

神性、というのは周囲の支持によって帯びる。

あんな小さな村で二百年神をやった鯉もそれなりの神性を持っていた。少なくとも、龍湖は他の一般人よりは神性に触れている。

だからこそ。

『神性の塊』であるあの人を見て、硬直してしまったのだ。その衝撃は一般人以上だろう。


『一族の女が今まで犠牲になってまで尽くした自称神は何だったのか』

目の前で倒される姿も見た。

鯉に戻され情けなく追われる姿も見た。


だが、ここまでショックでは無かった筈だ。

恐らくは、テーマパークに来て今日一番の驚き。

……いつもそうやって、あの神は人間に真実を突き付ける。無邪気に、無慈悲に、意図もせず。


「そういえば、僕が『あの日』バス停に居た時、君は僕に『オーラで輝いてる』って言ってたよね? その輝きの眩しさで見つけられたとも。今もそれ、『見えてる?』」

「え? 寵さんの気の光を、ですか?」 龍湖は瞳を閉じ

「……あ、あれ? おかしいですね……眩しい程に力強い気の煌めきは相変わらずですが……あの日あった神性さが弱い……?」

「や、今見えてるのが本来の僕の竜気ドラゴニックオーラだろうさ。君のお婆ちゃんも僕を神様だと間違えてたけど……アレはただ、君の村に行く前に【あの神様】に会ってただけの話でね。『残り香』が僕に付いてたってオチ」

「の、残り香だけであれだけの神性な気を……?」


流石に冗談だろう? と、龍湖はあの人のオーラを確認しようとして。


「あ、直接本人をその状態で見ない方が良いよ。双眼鏡で太陽見るみたいな感じに目が潰れるだろうから」

「……いえ。瞼を閉じ気を探らずとも、溢れる輝きはハッキリと感 じます」


信じざるを得ない現実。

神性は凡ゆるモノを惹きつける。

カリスマ性を神性と言い換えるなら、魔王であるママンにも神性は多く備わっている。

しかしあの人のソレは規格外。

神性そのもの。

宛ら誘蛾灯だ。


「ほな行きましょか。一言挨拶してメシ食いに行こメシに。考えたらお昼もまだだよ僕ら」


今の龍湖に食欲があるのか分からないが、僕があるので問題なし。

やる事終わらせて神社離れたら元気になるでしょ、多分。

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