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「バカな……バカなバカな! 有り得ん!」


「くわばらくわばらって呟いたから外れたんだよ。知ってる? そう唱えると落雷避けになる俗信」

「ふざけるな! 直撃だった! 貴様! また熱の力で上手く回避を!?」

「冗談が通じないなぁ。ほら、見ての通りちゃんと受けたよ。受けた結果がコレだ」

「無事である筈が無い! ワシの凶雷は全てを塵とする地獄の雷!」

「僕の竜鱗ドラゴンメイルは特別製でね。魔法も呪いも飛び道具も刃物も、大抵弾いちゃうんだ。つまり……そもそも最初から君の氷柱だの雨だの避ける必要すらなかったわけさ」

「竜、だと? 貴様、一体…………ッ!」


ヒュル――ヒュル――ヒュル――――


龍湖の目はおかしくなったのでしょうか。

寵さんの肌の上に塵が集まり出し、徐々に、徐々に、布へと変わっていって……

やがてそれらはパズルのように継ぎ合い、一〇秒ほどで、【浴衣】となりました。

先ほどまでと全く同じなウチの浴衣。


一体、これは……


「な、なんだ! なんなのだ貴様は! 貴様が持つのは熱を操る力では無いのか!」

「誰も肯定してないじゃん――よっ」


一瞬、寵さんを見失った龍湖ですが。

次の瞬間。

彼はりばいあ様の『頭』に腰を下ろしていました。


「ッ!? き、貴様いつの間に! 誰の頭上に居ると思って!」

「別にさ。倒そうと思えばすぐに倒せたんだよ?」


ポンポンと、寵さんはりばいあ様の頭を叩いて、


「でも、神と名乗る君をアッサリやっちゃったら龍湖が可哀想でしょ。尊厳失わない程度に顔を立ててやったんだから、感謝して欲しいね。ママンとか繭さんならノータイムで殺ってるよ。そもそもこんなとこまで来ないだろうけど」

「……認めん」


荒ぶり出す湖。

揺れはやがて波となり。

波はやがて――


ゴゴゴゴゴ……


見上げるほどに高い波に。

放たれた津波は、容易に村を飲み込むでしょう。


「僕がりばいあ様にちょっかいを掛けたのはね、雨宿家に一宿一飯の恩があるからってそれだけの理由さ。それだけの理由で、今まで積み重ねたモノを台無しにされるのはどんな気持ちだい?」

「認めん認めん認めんッッッ!!! ワシ以上の存在など認めんッッッ!!!」

「そ」


寵さんはニタリと笑います。

望んでいた答えとばかりに。

妖しさに満ちた、美しい、悪い顔。


「【水陣!! 大海破だいかいは!!!】」


「【アンチオールド(永遠に美しく)】」


寵さんが手を載せた瞬間。

りばいあ様は……霧のように『消えました』。



「よっと(スタッ)。君が水を操れるように、僕は『時』を操れるんだよ、って。もう聞こえてないか」


争いは。

いや、争いにも満たなかった遣り取りは、こうして静かに、幕を閉じました。

永く降っていた雨が、ようやく止んだのです。



それからーー


「あ、あ……あそこに、居るのは……」


りばいあ様が消えた後。

湖の側、ぬかるんだ地面の上に、一人の女性が倒れていました。

その姿、忘れようもありません。


【母】でした。


すぐに駆け寄ると、小さな呼吸を確認でき、手を握ると、しっかり温かくって。


「ついでに戻しといた」


なんて、寵さんは軽い口調で答えます。

龍湖はお礼を言おうとしますが、それより先に寵さんは「お? 『浮かんで』来たな。……おおっ?」なんて湖に近寄り、何かを掬い上げました。


それは……一匹の……【鯉】?


「成る程、これが神様の正体……ってか、強くなる前のりばいあ様の姿みたいよ。鯉が龍になるって逸話は聞くけど、それを地で行くとはねぇ」


寵さんは、りばいあ様の過去の話をしてくれました(触れた相手の過去を見る力もあるそうで)。


そもそも昔、村が旱魃したのは、りばいあ様の仕業で。

乾涸びさせた後、ヒョッコリと村人の前に現れ、救い、神様として奉られ。

目的は、雨宿の巫女の、力を秘めた血筋。

それをりばいあ様は何処からか嗅ぎつけ、欲したのでした。


鯉に戻った今のりばいあ様は、 死んでいるわけでなく、寵さんに時を止められているだけだそうです。

「持ち帰るよ。あとでお婆ちゃんに買い物袋貰おっと」なんて笑っていました。


――その後。


寵さんは我々からの感謝の言葉を聞く前に、風のように去って行きました。

話したい事も共にしたい事も沢山あったのに、連絡先も教えてくれず、これでお別れにするつもりなのです。


恩だって返してないのに。


返し切れない恩を龍湖の生涯を掛けて返そうとしたのに。

このままでは、龍湖は湧き上がったこの名も知らぬ気持ちに押し潰され死んでしまいます。

だから、龍湖は決断しました。

人生で最大の決断を。


躊躇いはありませんでした。

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