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――十年前。


当時まだ小学校に上がったばかりの私と園児だった天女ちゃんは、お父さんに連れられこのテーマパークに来園しました。

まるで漫画の中のようなワクワクする世界観に、私達は時間も忘れ楽しんでいましたが……ふと、一組の家族が私達の前にやって来ました。

私は――多分この時の天女ちゃんも――現れたその【父と子】に心を奪われます。なんて綺麗な存在なのだろう、絵本で見たエルフや妖精さんは本当にいるんだ、と感動しました。

それが、妃の瓏さんと篭さんとの邂逅で……しかし、出逢いには更に続きがあります。


遅れてやって来たのは、幼少期の封さんと……その封さんが親しげにぴったりくっ付いてる同年代の【子供】。


その子の顔や声は未だに思い出せません。

顔だけにモザイクが掛かっているように朧げで……封さん風に例えるなら、その子の情報の『実績』が解放されていない状態。

だだ、一つだけ。

ハッキリと憶えているのは、その子には年不相応な『色気』があった事。

当時、今よりハッキリとしていた幼少妃さんに匹敵するほどの、別ベクトルで人を惹きつける『魅力』が。

そんなその子と妃さんは、どこか雰囲気が『似て』いて……けれど、二人は仲が悪いのか、目を合わせる事はありませんでした。



――これが『私視点』での、当時のここでの記憶の一部ですが。


「確か、パークに入ってすぐ、『虹色のクレープ』を食べましたわよね?」

「え? あー……そ、そうだったねぇ。唇の色が虹色になって……」

「その後、『翼を授ける』という効果のエナジードリンクを二人でこっそり飲んで、本当に空を飛んで」

「そ、そうそうっ。羽衣をつけて飛んだおばあちゃんに助けられたんだよねっ。……天女ちゃんも、本当に憶えてたんだね」


それに、非現実な事象も受け入れてる?


「いえ。思い出してなどいません。わたくしは過去を『視た』だけですわ」

「み、視た……? 写真とか日記とかの記録がどこかに……?」

「『論より証拠』。実際にやって『視せた方が』早いですわね」


言って天女ちゃんは、膝に置かれた私の手に、自身の掌を重ねました。



――直後。

見える風景が変わり、場は『回転寿司屋』の中に。

隣には妃さんがいました。軽口を言う彼に視点の主は天女ちゃんの声で言い返します。

私の知らない映像。妃さんの瞳には、天女ちゃんが反射していました。



「――と、まぁ、『このような事に』なっています」


景色が戻りました。テーマパークののどかな風景に。


「……い。い、今のは? お寿司屋さん? 妃さんがいて……隣には、天女ちゃん?」

「ええ。つい先日の出来事です。お姉様と駅で鉢合わせ、その後、わたくしが拐われた日の出来事」

「っ! な、なんでその時の光景を、私が……」

「さて。わたくしにも詳しい原因が分からないのですが、どうやらら、『過去を見る目』が備わったようです」


……まるで、私と『対』になる能力。

説明を聞くに、私と同じ『触れた(または近くにいる)物や者の過去を覗けたり、触れた相手に自身やその者の過去を追体験させられる』能力。

その原因は……分かりきっています。彼と関わってしまったから。彼に触られたから。

あの【実績】の力が、眠れる彼女の才能を目覚めさせたのです。


「さして驚かないのですね」

「えっ? そ、そうかなっ? あれだよっ、こんなとこにいるからそれくらいじゃ驚かないっていうか?」

「気付いておいでではないです? この力で……わたくしはお姉様を『理解』出来たのですよ」

「っ……そ、それって」


背中に冷たい汗が伝います。


「ええ。体調やら曖昧な発動条件等の要因で使い勝手の良いものではありませんが……今の所、『知りたい情報』は局所的ながら手に入れたつもりです。当然、『お姉様の目』の事も」


……やっぱり。この子にだけは知られなかった真実……の、筈だったのに。

実際、私の中には『肩の荷が降りた』という感覚も少なからずあって。

隠し事をしていた罪悪感と疎遠になっていた寂寥感が、この子に『理解』して貰えた解放感で消えていきます。


「お姉様の『その目』も、わたくし同様『偶然』目覚めたモノなのですか?」

「ん!? う、うんっ、そうっ。子供の時にねっ」


……違和感。

もしかして、天女ちゃんは『知らない』? というか、そこまで視ていない? ブラフの可能性は……無さそう。

私が『未来視』に目覚めたキッカケだけはハッキリ覚えてます。

妃さん自身も忘れてる様子ですが……彼は昔からあの『実績の力』

を使えていました。多分無意識に、でしょうが。


――十年前にも、一度、私達姉妹は妃さんに助けられています。


先程のエビ子さんの時のように、怪物園から逃げ出した魔物が私達を轢き飛ばそうとした刹那、幼き妃さんは同じく片手で受け止め、守ってくれたのです。

その時、『ティロン』という音が私の中で聞こえて……気付けば、私の目には未来を視る力が備わっていました。


これは、天女ちゃんと共有すべき情報でしょう。どうもこの子は妃さんの『実績の力』も把握していないようですし。

それに、先程の妃さんの『ティロン』という呟きも気になります。何かの実績を解放したのかもしれません。

そう、共有すべき。


……だというのに。私の口はパクパクと魚のように間抜けに開閉するだけ。


「兎に角。この情報を手に入れた所でわたくし達に出来る事などありませんが、やられっぱなしでは癪ですからね。もっと彼の弱みを握って、いつか意趣返しするつもりですわ」


ふふんと大きな胸を張る天女ちゃん。そんなつもりない癖に……ただ単純に、彼の事を知りたいのでしょう。人の事を言えませんが、不器用な妹です。

同時に、私は先程の疑問の答えに『気付き』ました。


『独占欲』――単に私は、私と彼だけが共有する情報を、独り占めしたいだけだったのです。


数日前のあの時の喜び……図書室で妃さんと再会出来た時の感動は、言い表せません。

彼を見た瞬間に、私の中で忘れられていた記憶は濁流のように溢れ出し、その勢いのまま、私は彼に声を掛けていました。慣れもしない大胆な行為なのに。


成長した彼は、綺麗な顔立ちはそのままに、『深み』が滲んでいました。影、闇、『喪失感』……それらの要素は、彼に色気を備わらせました。


妃さんに協力し、役に立ち、何かを為せる。これ程素晴らしい事はありません。

恐らく、この蜜月は僅かの間だけでしょう。

けれど……こんな私にもまだ、女としての矜持があったようです。


「お姉様? どうしたのです? 何やら『悪巧み』している時のおばあさまのような表情になっていますよ?」


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