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「い、いつの間に現れたんですのこの少女は? それにその髪、その容貌……彼の妹君です?」
天女ちゃんのように、そう考えるのが普通です。しかし……ここは常識が通用しない世界。
落ち着いて『感じ取れば』解る筈。この『圧倒的な存在感』の持ち主の既視感を。
「モゴモガ……プハッ。だから言ってるだろ【おばあ】、僕はトマトは嫌いじゃないけどプチトマトの方が好きって事寧ろ野菜嫌いはおばあでしょ」
「ふんっ。野菜なぞ食わんでもこうして強くなれるわ」
言いつつ自然な動きでよじよじと妃さんの背中にのぼっておぶさる少女。
そう。この少女こそがテーマパークの象徴こと先程までそこにいたドラゴン、グラヴィ様なのです。
「こ、この方が彼の? い、いえ、こんな見た目で祖母などっ」「あ、天女ちゃん……」
「君が言うなーって話よね。ま、逆に『らしい』でしょー、ねーおばあ?」
「何の話じゃ篭。我の前で我が理解出来ん話をするな」
「おばあは小学生に説明するくらい丁寧じゃないと解らないもんねー」
「なにおうっ」
ポコポコと妃さんの頭を叩く様子は駄々っ子な妹のようで。
「ふんっ。昔は無垢で素直で、実際に目に入れても痛くないほど可愛らしかった貴様が、よもやこのような小憎たらしいガキに育つとはなっ。あの【バカ(息子)】のようになるなと口酸っぱく教育してやったのに……魔法で記憶を消して身体をあの頃に戻そうと考えない日はないわっ」
「えー、僕は今も変わらずこんなに可愛いっしょやー。おばあちゃんが大好きな気持ちも変わらないよっ」
「ふ、ふんっ、口だけでは何とも言えるっ」
「わたくし達は何を見せられてますの……」「ほ、微笑ましい光景じゃない」
いつの間にかグラヴィ様がドラゴンの時に発していた気怠さや苛立ちも消えています。この方にとって妃さんという孫は、本当に宝なのでしょう。
「――で。そこの金魚の糞どもは何じゃ」
「「ッッ!!」」
和やかなムード……と思ったのも束の間。グラヴィ様の柔らかかった目元が、瞬き一つの後にはこちらを射殺すような金色の瞳に。
絶対的捕食者を前にした草食獣のように、私達は瞬きも呼吸する権利すら奪われます。
「こらっ」「(ブスッ)グアッ! 貴様! 躊躇無く我の目を!」
しかし、それも一瞬の事。すぐに妃さんが呪縛を解いてくれました。
「貴様! じゃないよ。この子達はパパンが招待して僕が案内してるレベルのVIP客だぜ? 人を金魚の糞呼ばわりする前にまともに働きもしないウンコ製造器は黙ってな」
「なんと酷い言われよう! ここは我が創った場所ぞ! ぐおおお頬を摘むにゃー!」
「実際にはプランさんとか魔王軍の頑張りでしょ。ほらっ、いいから黙って二人に挨拶されなっ。二人とも、今のうちだよ」
手招きされ、私達がグラヴィ様の前に(おんぶしてる妃さん越しに)立つと「グルルル……」すぐに威嚇されました。
「大丈夫、噛まないから。噛まれても病気にならないから」
「あ、あの……竹取 仙女、です」「初めまして。竹取 天女ですわ」
「……ふんっ。やはり竹取の女か。話す事なぞ無いわっ」
即座に嫌われそっぽを向かれました。個人的には仲を深めたいお方ですが、難しそうです。
「ふふ、気を落とさないで二人とも。おばあは本当に興味無い相手には会話どころか視線すら向けないから」
「余計な事を言うなっ、興味なぞ無いっ。篭っ! これ以上竹取の人形の身内と親睦を深めようなどと思うなよっ」
「はいはい。――さっ、もうこっちは義理での挨拶も終わったし、そっちも見世物になる仕事に戻った戻った」
「いやじゃ! もう気分では無いっ」
「ぐおおお離れろ子泣きババアアア」
背中から引き剥がそうとする妃さんと離れんとしがみつくグラヴィ様。
「はぁ、はぁ……仕方ない。不本意だけどこのまま『次の場所』に行くしかないか……」
「我は『風呂』に行きたいぞ」
「一人で行って老人らしくアッツイ湯に浸かって来いよー」
「嫌じゃ背中を流せ!」
二人で盛り上がっていて、完全に置いてけぼりです。いや、ここに割り込む勇気はありませんが。
「ごめんね二人ともー、だからこんな構ってちゃんなババアのとこ来たく無かったんだよなー。で、次の行き先なんだけどー」
言って、妃さんは自らのスマホの画面を見せてきました。そこにはメッセージアプリで……
『果たし状! 篭ちゃん!封は【闘技場】で待つ!』
これは……封さんからのメッセージ?