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「ひぃ……ひぃ……」「だ、大丈夫ですのお姉様?」
地面に座り込み天女ちゃんに背中をさすられる私。情けない姿に情けない気持ちになります。
「おやおや、もう限界かい? まだアトラクション三つ目だぜ?」
「二度も『死ぬような思い』をすればこうなりますわっ」
そうは言うけれど、まだ平気そうな天女ちゃんは、そういえば昔から三半規管の強い子だったなと思い出します。
『【ディープシーコースター】!
我がテーマパークが誇るジェットコースターの一つですが、なんと言っても売りは『深海の中を駆け巡る』、です!
とはいっても、そこまで速いと深海の景色を楽しめませんので、飽くまで低速走行。本来陽光さえ届かぬ暗黒世界ですが、コースターから生物達の負荷にならぬ光が放たれるので、バッチリと神秘を眺められます!
水圧? 空気? そんなものは魔法の力でちょちょいのちょいです。
リュウグウノツカイやチョウチンアンコウなどのメジャーどころは勿論の事、深海に隠れ潜む魔物達を探すのも楽しみの一つですよ!
【スペースフリーフォール】!
お客様方を乗せた座席はドンドンドンドン上昇して……遂には『大気圏を突破』してしまいました!
見渡す限りの宇宙!
過去日本一だったフリーフォールが百メートルだったのを考えると凄い差です。無論これが今は世界一!
危険性? ご安心を!
我がテーマパークの優秀なスタッフの『魔法』により、お客様は宇宙空間でも一切害は無し。頂点からの自由落下は最高ですよ。
オススメは夜。夜景が最高です!
更にスリルを味わいたい方は、日に数回限定で、魔法の力でマッハ3にまで速めた落下速度(一般的な速度の約三〇倍!)をお楽しみいただけます。是非ご利用を!
【楽しいお化け屋敷――初級――】……
我がテーマパークが誇るお化け屋敷の一つですが、初級と言えども侮れませんよ……
気絶だけならまだいい方で、中には精神を崩壊させる方もいる程の恐怖を体験出来ます……
屋敷の内容は数百あるパターンからランダムに選ばれ、例えば『鬼ごっこ』……
迷路のような館から手紙を数枚集め謎を解いて脱出という内容ですが、貴方の視界の端にはつねに謎の無表情長身男が様子を伺っていて……?
他にも『かくれんぼ』、『はないちもんめ』、『デスゲーム』、『散歩』、『無限ループ』と、凡ゆるホラーが貴方を待っています……
出演する幽霊、異形の方々もヤラセ一切なし……
まるで夢の中の様に思うように走れず焦るしかない、そんな理不尽な世界に、あえて飛び込んで見ませんか……?
無事脱出、出来るとは限りませんが……』
と、いうカタログの説明通りのアトラクションを楽しんだ直後が、今です……
始めのコースターはのんびりと楽しめましたが、それからの二つが無重力・速さ・恐怖の合わせ技で……
今、足がガクガクと震えてるだけで済んでいるのが不幸中の幸いです。
「ま、でもその火鼠羽衣のお陰で体調も気分もすぐに回復するでしょ」
「え? あ……ほ、本当です……落ち着いて来ました……」
「ナヨさんの着物は業界でもチート防具で有名だからね。殆どの攻撃を受け流す上に例え傷付いても即時『修復』の効果付き。二人の為に愛を込めて繕われたその二つなんかは尚更だろうぜ」
「はいはい。そんな胡散臭い説明などどうでもよいです。これ以上アトラクションには付き合いませんわよ」
「えー、何の為テーマパークだよー。ひと月に十個は新しいアトラクション追加されたり消えたりしてるから一期一会だぞー」
「ここの資金源はどうなってるんですの……」
それからはすぐに自分の足で立てる程まで回復したので、ここからは本来の目的地へと向かう事に。
――サラサラと心地良い気温と肌を撫でる風。
――表の世界では出会えない鼻をくすぐる香りと目に移る賑やかで新鮮な風景。
――時間の感覚が歪むようなノンビリとした気怠い空気。
「すぅ…………はぁ」
深呼吸をして肺に空気を溜め、吐き出す。
ああ――徐々に『思い出し』てきます。
『十年前』とは町並みやアトラクション等で景色が様変わりしていますが……夢の中にいるようなこのボヤけた雰囲気は、あの時のまま。
当時は天女ちゃんも一緒に来ていましたが、この様子だと覚えてはいないでしょう。(いずれは私同様に思い出すかもですが)
何故、私も天女ちゃんも忘れていたのか……恐らく意図的に誰かに『忘れさせられて』いて……そしてそんな真似が出来る人は、このテーマパークにはわんさかいる(筈)。
ここは『敵地』のど真ん中。今も凡ゆる監視の目が『坊ちゃんに変な事を言わないか』と見ているでしょう。心の救いは、丁度今日ここにおばあちゃんが居てくれた事ですね。……都合良く。
一先ずは、目立たないように過ごしましょう。大丈夫、何も難しくありません。一般客として、普通に楽しめばいいのです。